序章 袁本初 其の二
序章 袁本初 其の二改定版をお届けします。次の袁本初 其の三で、序章は完結致します。麗羽達が、何故三馬鹿トリオに成ったのかを、私なりに解釈しての話ですので、悪しからず。耐えられない方は、スルーの方向で…
一人でも、面白いと思って頂ければ幸いです。
それから数年後…
「おーほっほっほ!」
この高笑いは、南皮城玉座の間より発せられていた。
そこには、文官武官が揃い玉座に近い位置には、袁家の長老達がズラリと並んでいた。
「南皮城大改修の承認 誠に恐縮で御座います。」
「袁紹殿の英断には、我ら一同頭が下がるばかりですな!」
「うむ!我ら袁家も磐石で御座います。」
今、この玉座の間にて話されている件は、先日持ち上がった南皮城改修の事であった。此処で少し時間を遡る事にしよう…
麗羽が、南皮に赴任して数年経ち、「南皮城を改修しては?」と言う意見が、長老達より議題として持ち上がったのだ。改修だけなら良いが、内装も一新し袁家に相応しく、豪華に仕上げようと言うものだ。確かに袁家には、莫大な資産が有り、その資産のみで改修する事も可能だった。だが…
「袁紹殿。南皮城改修の件で御座いますが、我らの財のみで行う事も可能で御座いますが、この改修は南皮の民と共同で出資されては如何ですかな?」
「民と共同ですの?袁家の財のみでも可能なのでしょう?」
麗羽は、南皮城の改修など、袁家の財で十分だと思い何故民と共同なのか解らなかった。
「袁紹殿の御指摘 御尤もで御座います。我ら袁家の財のみでも、南皮城改修に対する出資は、些細な物で御座います。ですが、ここで民と共同にて出資致しますと、民も袁家に協力出来る、現在この南皮を治められている袁紹殿に恩返しが出来る、と民は思いませぬか?」
「この者が申す事至極当然の事に御座いますぞ!袁紹殿が南皮を治められる様に成ってから、この南皮は更なる発展を遂げて来たのです。そろそろ民も袁紹殿の
為に、恩返しをしても良い時機かと思いますぞ。」
其れに対し長老達は、麗羽の之までの功績を考えると、この事は当然とばかりに言い、麗羽が名君として持ち上げているのだった。
「おーほっほっほ!そうでしょうとも!そうでしょうとも!この私、袁本初が直々に治めているのですもの、発展しない訳が有りませんわ!!」
そして、麗羽自身も否定せず、自分の功績で発展している事を自負していた。
「左様に御座います。故に民に袁紹殿に対して恩返しをさせても、問題無いのです。」
更に麗羽は、とんでもない事を口にするのだった。
「えぇ!よろしくてよ!この袁本初の功績を讃えて城壁に留まらず内装も豪華にしましょう!」
数年前の麗羽を知っている人間が居れば、卒倒しそうな事をサラリと言ってのけた。
「おぉ!!それは、御名案で御座います。」
「流石 袁紹殿!御英断に御座います。」
一瞬 長老達も面食らったが、これ幸いと思い更に持て囃した。これが、冒頭に高笑いをしていた事から進む顛末である。
今の麗羽には、この判断が普通に成ってしまっている。始め麗羽は、馬鹿を装う演技をしていたが、長老達の更なる毒を盛った結果、今の状態の麗羽に作り変えられたのだ。こうなっては、長老達の思う様に事が進むのは、明白である。
だが、この南皮城大改修の裏が有るのは、言うまでも無い。表向きは、確かに南皮城改修だが、改修を口実に民より税を徴収するだけの法案を麗羽に可決させただけなのだ。その事実を知らない麗羽は、更に「内装も豪華に」と言ってしまったので、更なる重税を民に強いる結果を招いたとは、麗羽自身解らない事であった。
そう…人格者の袁逢・政治家の袁隗が、自身の後継者として育て、慈しんでいた『袁本初』は、もう居ない。
「おーほっほっほ!それでは、長老方 後の事は御任せ致しますわ。大改修の件 滞りの無い様に進めて下さいな。私は、気分が良いので、湯浴みをしに参りますわ!おーほっほっほ!!」
「「「「「ははっ!仰せのままに!!」」」」」
長老達は、麗羽が玉座の間より退出するまで、頭を垂れているのだった。だが、その顔には、自分達の欲を、財を増やせる事へ対する厭らしい笑みで満ちていた。
斗詩視点
現在 斗詩は、麗羽の部屋へと向かっている。
(今日は、良い天気!文ちゃんも交えて三人で会えるのも久しぶりだしね!…でも、麗羽様…もう元に戻れないのかなぁ…)
そう…この南皮に麗羽・猪々子と共に来て早数年、長老達の監視の下 三人一緒に過ごせる日は、極端に少なくなっていた。猪々子は相変わらずだが、麗羽の変化に気づき、何とか出来ないかと自分なりに頑張っていた。だが、斗詩の頑張りも虚しく麗羽に回り始めていた毒は、最近では回り切っていた。だが、彼女にとって、昔の麗羽で在ろうが今の麗羽で在ろうが、自分の主君には変わり無い。故に
(どんな事に成っても、麗羽様と文ちゃんは、私が護る!)
同僚で、幼馴染の猪々子と共に、麗羽を護る覚悟を決めていたのだった。麗羽の部屋へ着いたが、麗羽は居なかったが、代わりに猪々子が先に着いていた。
「あ!文ちゃん おかえり!」
「おぉ!斗詩ぃ~!ひさしぶりじゃん!!って事で…えぃ!」
…むにゅん!むにゅ…むにゅにゅん!!!
「ひゃぁ!ぶ、文ちゃん!いきなり何やってんの!ちょ!む、胸揉むのやめて!」
猪々子は、遠慮なく斗詩の両胸を両手で揉みくだしていた。
「いいじゃん!斗詩に会うの久しぶりだし…アタイ…斗詩成分を補充しなきゃ…死んでしまう!!」
「あん!…ぶ、文ちゃん そんな事では、死なないよう~…」
猪々子は、相変わらず能天気に、斗詩の胸とじゃれ合う事に没頭している。まぁ、事実 麗羽・猪々子・斗詩の三人は、長老達の命で離れ離れに生活や仕事をさせられている。なので、会える日も限られており、猪々子は斗詩と会える日は、今日の様に思いっきり絡んでくるのだった。気持ちは解らないでもない。
「ふぅ~…斗詩成分満タンだぜ!」
そうこうしていると、猪々子も満足したのか、斗詩の胸から手を離して麗羽を待とうと椅子に腰掛けようとしていた。
「もう文ちゃん!自分勝手なんだから!」
そういう斗詩も、これが猪々子の自分に対する愛情表現と解っているので、無下にはしない。猪々子が席に着いたので、斗詩も席に着いた。そこで、斗詩は、未だ帰って来ぬ麗羽の事で、猪々子に相談していた。
「ねぇ、文ちゃん…麗羽様の事 何だけど…」
「あん?姫がどうした?斗詩?」
「今の麗羽様を、文ちゃんはどう思う?」
そう…二人とも身分は違えど幼き頃より、麗羽と共に育った間柄だったので、南皮赴任以前の麗羽もよく知っていた。だが、南皮赴任以後の麗羽の変わっていく様を、二人は見ていた。いや…「見ていた」と言うのは御幣がある…その変わっていく様子を、何とか防ごうと猪々子と共に手を尽くしたが、所詮は武官である…長老達は、斗詩達からすれば、海千山千の怪物達相手に敵うはずも無い…長老達の都合の良い人格に変えられていく麗羽を止める事が出来ず、自分達の不甲斐無さに涙する時も有った。
「アタイが言う事なんか、解ってるだろ?…姫は、もう昔の姫じゃない…二人で色々遣ったけど、所詮アタイ達じゃ、あの長老達には敵いっこない…悔しいけどな…」
猪々子は、普段能天気な行動をしているが、それは長老達の目を自分なりに誤魔化す為の行動だった。
「もう無理かも知れない…でも…諦めたくない…以前の…昔の麗羽様に戻って貰いたい…」
斗詩は、猪々子の悔しさが痛い程解っている。その悔しさ・自分の思い・そして諦めきれない本音が、気を許し合っている猪々子の前で吐露していた。
「アタイも、同じ気持ちさ!でも、アタイ達じゃ、どうしようもないんだよ…」
猪々子も、目に薄っすらと涙を溜めていた。
「文ちゃん…私 何が有っても、麗羽様と文ちゃんを護ってみせるね!!」
「それを言うなら、アタイも姫と斗詩を泣かす奴をぶっ潰してやるよ!!」
斗詩は、猪々子の涙に感極まって自分は、麗羽と猪々子を護ると誓い、猪々子は、斗詩の思いを受け、麗羽と斗詩の敵を倒すを誓うのだった。
「…文ちゃん、ありがとう…」
「いいってことよ!!」
猪々子の言葉を嬉しく思い、心が少し温かくなった気がしていた。それが良い方向に成ったのか、斗詩にふと考えが浮かんできた。
(心が温かくなったのって、久しぶりだなぁ…麗羽様の心も軽く出来たら、良いのかも知れないけど…ここに居たんじゃ…あ!)
何かを思いついたのか、斗詩は猪々子に自分の考えを話していた。
「ねぇ、文ちゃん!麗羽様を南皮から離せないかな?」
「んん?急にどうしたんだ?斗詩?」
「ここ南皮に来てから、ずっと麗羽様って城以外に出てないでしょ?少しでも良いから、長老達から離せないかな?って、思ったんだけど…」
「………う~ん………」
猪々子は、普段なら茶化す所だが、斗詩の真剣な思いを聞き、自分でも解っているが、無い頭を絞って考えてみた。
「う、う~~~~~~~ん………」
無い頭で考えているのである…多少の時間を頂きたい…
「う~~~~~ん…ん?」
「文ちゃん!何か思いついた?」
猪々子の顔の変化を見取った斗詩は、猪々子へと詰め寄っていた。
「と、斗詩ぃ。そう急かすなよ~。」
「だってぇ~。早く知りたいんだもん…」
斗詩の仕草が可愛いなぁ~と思いながらも、猪々子は自分の思い付いた内容を話し出した。
「斗詩。最近 盗賊が結構な頻度で出没しているって、聞いているか?」
「うん。規模は大小だけど、頻度は多いって聞いているよ。」
「そこで、姫も討伐に向かうってのは、どうよ?アタイ達 三人で行動出来るかも知れないゼ?」
「う~~~ん…確かに、南皮から離れるし、三人一緒に行けるなら良いけど…」
(長老達が、認めるかなぁ…でも、ここで戸惑っていたら、何も始まらないし…駄目元で、麗羽様に言ってみようかな…)
考えが纏まった斗詩は、猪々子と相談した。
「その案 駄目元でも遣ってみようよ。煽てたら今の麗羽様だったら、乗る気に成ると思うし。ただ、長老達への対応をどうしたら…」
「まぁ…何とか成るんじゃね?なんか…そう言う気がするぜ?」
斗詩の不安は、良く解っている猪々子は、嘘でも良い方向に進むと言っていた。
「う、うん…そうだね!」
(文ちゃん…ありがとう…)
猪々子に対して心で礼を言うのだった。二人が相談し終えた時、
「おーほっほっほ!!!」
と、麗羽の高笑いが部屋の外から聞こえたのであった。
改定版 如何でしたでしょうか?投稿した後、読み直している内に「これは・・・」と思い、書き直した次第です。寄って、内容が多くなり「序章 袁本初」が、当初予定していた二部構成から三部構成に成ってしまいました。この話では、猪々子・斗詩の苦悩を描ければと思っております。ですが、素人の駄文なので、保障出来かねます。故に、駄文覚悟でお読み下さい。
それでは、次回の講釈で・・・