序章 袁本初 其の一
今回は、袁本初 事 麗羽のお話です。執筆していて長く成ったので、二部構成にしております。はっきり言って、恋姫の三馬鹿トリオを期待している方でしたら、スルーして下さい。全然違いますので…それでも、読んでみたいと思われる方のみお読み下さい。
一人でも、面白いと思って頂ければ幸いです。
私は、何故生まれてきたのでしょう…?
私は、何がしたいのでしょう…?
私は、進むべき道を、間違えていないのでしょうか…?
…そして、私は…後世に何を残せるのでしょうか…?
この考えに耽っている人物は、姓を袁、名を紹、字は、本初、真名を麗羽と言う。
漢帝国において、四代三公を輩出した名門中の名門、袁家の者である。その名門袁家に生まれた袁本初は、何故上記に綴られている思いをしていたのか、この袁本初の之までの生い立ちを語っていく事から始めよう…
麗羽の母は、袁成と言うが麗羽が生まれて間もなく死別しており、叔母で人格者の袁逢・同じく叔母で政治家の袁隗に育てられた。この二人の叔母達は麗羽を自分達の後継者として時には厳しく、だが、大切に育てられていった。
その二人の師で在り保護者の功績も有り、麗羽は将来を有望される人物まで成長していった。だが世界は、そんな麗羽に容赦は無かった。まず起きたのが、麗羽の師の片翼である袁逢の死であった。麗羽は知らなかったのだが、この二人が防壁となって麗羽に害に成る事象を防いでいたのだ。次に、この袁逢の死を心待ちにしていた者達が居た。
冀州南皮を拠点としていた袁家の者達だ。南皮袁家の者を以下より『長老達』と呼ぶが、その長老達は以前より、『袁紹を傀儡として利用出来きないか?』と、色々な手段を画策していたが、双璧によってその画策は尽く失敗に終わっていたのだった。
だが、その双璧の片翼が捥がれたのを見逃すはずも無く、長老達は、即座に行動に出た。
嘘八百で塗り固められた話を未だ穢れを知らなかった麗羽は、袁隗の諫言を聞きはしたが、長老達の話の通り、南皮の民が困窮しており、自分の才能・力で民の苦境を救えるのならと、南皮に赴く事を決めたのある。袁隗も、諫言を聞き入れられなかったと後悔したが、麗羽の『民を思う心』を無碍にも出来ず、其れならばと麗羽の助けに成ればと思い、二人の人物を麗羽の家臣として迎える様に進言した。
この二人の家臣の名は、一人目が 姓を文、名を醜、字を焔盛、真名を猪々子と言い、二人目が 姓を顔、名を良、字を瀞沁、真名を斗詩と言う。斗詩の母が、麗羽の乳母をしており、そして猪々子の母とも幼馴染だったが、猪々子が幼い時分に流行病で亡くなった後、斗詩の母親が引き取っていた。
その後、斗詩の母も病で亡くなった後は、袁隗が二人の面倒を見ていた。故にこの三人は、身分は違えど姉妹の様な関係だった。
この袁隗の進言には麗羽も大喜びで、三人なら大丈夫だと大いに期待していた。
長老達の根回しが功を奏して、早い段階で麗羽に時の皇帝劉宏より『南皮太守』の任を承った。こうして、麗羽・猪々子・斗詩は、自分達の理想・民の平和の為と胸に秘めて任地である『冀州南皮』へと、赴いて行った。これが、長老達の嘘で塗り固められた事とは露も知らずに…
南皮に赴任した麗羽は、入城の際 南皮の街を目の辺りにした。街自体は大きいが、人々に活気が無く、路地を見るとボロ布を身に纏っただけの人が虚無の目で宙を見ていた。この状況を見た麗羽は、長老達の話より深刻な状態と思い、早速 師である袁隗に教えられた政のイロハを役立て様と玉座の間に居た。
「この南皮に入城する際に街の様子を観ましたわ。長老方の仰られる話より酷い状態の様ですわね。ですので、この私の知識・能力を最大限に活用して、民の困窮を救おうと思いますわ。長老方も、御協力の程 宜しくお願い致しますわよ。」
俗に言う「所信表明」である。麗羽の家臣として同行していた、猪々子・斗詩も麗羽の話を聞いて、自分達も民の為に身を粉にして働こうと思っていた。
だが、長老達の口から出てきた言葉は、三人の思いも寄らない言葉だった。
「袁紹殿。そなたの所信表明、誠に尊き物に御座いますな。流石、袁逢殿・袁隗殿に育てられた御方で御座います。されど、政全ては、我らが致しまする。袁紹殿は、ただ、我らが決めた令を認めて頂き、印をして頂ければ良いのです。何も難しくは、有りますまいて?ほっほっほ…。」
それを聞いた麗羽は、今聞いた話は、何かの冗談かと思った。
「何を仰いますの?貴方方は、この南皮の民の為に私の力が必要と言われたでは有りませんか!それが、ただ印を押すだけとは、聞き捨て成りませんわ!納得の行く説明をして頂けるかしら?!」
怒りを抑えようと努力はしているものの、完全に自分は印を押すだけの存在と言われた麗羽には、耐え難いものであった。だが、長老達 麗羽を嘲笑うかの様に言い放った。
「ふむ、袁紹殿は何か勘違いをされておる様じゃな。我らは一度たりとも政に携わって欲しいとは、言っておらぬはずじゃが?皆 袁紹殿に、その様に申されたかな?」
と、周りに居る者達にわざとらしく問いかけていた。
「いや。ワシは言っておらぬなぁ。」
「うむ。妾も、その様には伝えたと聞いておらぬぞ。」
周りの者達が口々に、麗羽の聞き間違いだと主張しだした。その様子を観て、拳を強く握り締めて、麗羽は今まで抑えていた怒りが噴出す寸前まで来ていた。
「お前ら!姫に対して無礼も程が有るぞ!姫が、民の為にどれだけの思いを持ってこの南皮まで来たと思ってるんだ!!」
だが、猪々子の方が先に噴火していた。そして、斗詩も自分も同じ気持ちだと言わんばかりに頷いていた。
その二人の姿を観て、麗羽は二人に対して、そして、二人を傍に置いてくれた叔父の袁隗に感謝していた。
だが、その感謝をしていた二人に対しても、長老達は牙を剥いて来た。
「それは、袁紹殿が我らの言葉を聞いて早とちりをしただけの事。袁紹殿なら兎も角、貴様の様な輩に文句を言われたくないわ!」
唯でさえ短気な猪々子が、其れを聞いて黙っている訳が無い。斬山刀に手を掛け今にも長老達に切り掛かりそうに成っていた。その様子を妖しく笑い一人の長老が近衛兵に発した。
「これ!近衛兵!そこに我らに狼藉を働こうと、剣に手を掛けておる輩がそこに居るぞ!捕らえて、投獄せよ!」
その命令を実行しようと近衛兵達は、猪々子を捕らえるべく走り寄っていた。
「お待ちなさい!!この子は、私の側近ですのよ?貴方方にその様な権利は無くてよ!」
麗羽は、猪々子を捕らえようとする近衛兵を止めるべく、命令を発した長老達に抗議した。
「はて?皆の衆 何か聞こえましたかな?我らに命令する声が聞こえたのだが?気のせいかのぉ?」
「ふはは。御主も年を取ったのぉ~」
「ほっほっほ~」
まるで麗羽は、ここには居ない様な扱いである。ここで麗羽は、自分は傀儡に担がれたのだ…羽を捥がれ飛べない鳥…籠の中の鳥に成ったのだと…
幾ら、猪々子・斗詩が武に秀でていても、多勢に無勢である。周りは敵ばかりなのだ。それに、私が従わなければ、始末される可能性もある。自分だけなら良いが、猪々子や斗詩にも危害が及ぶかも知れない。それだけは、回避しなくては成らない。自分の可愛い妹達なのだから…と…
「おーほっほっほ!猪々子さん!何を剥きに成っているんですの?長老方が、万事上手く政をして頂けるのでしょう?何の問題も無いでは有りませんか?」
突然の麗羽の変わり様に、猪々子・斗詩をはじめ長老達も、面食らっていたが、いち早く長老達は、麗羽の意図に気づき満面の笑みを浮かべていた。
「おぉ!袁紹殿に解って貰えて嬉しい限りじゃて。のぉ、皆の衆!」
「うむ。御主の言う通りじゃて。我らが主は、ほんに賢明な方じゃて」
長老達は、口々に麗羽を褒め称えていたが、目は笑っていなかった。
…逆らわないのなら、生かしておいてやる。
…だが、お前達を常に監視しているぞ。
…我らを謀ると、どうなるか解っているだろうな…
と、言わんばかりの視線を三人に送っていたのだった。猪々子も、麗羽の言動の意図に気づき頭では解っていたが、心までは抑える事は出来そうに無かった。それに気づいた長老の一人が、
「文醜殿は、血の気が多いようですなぁ…その様な方が、袁紹殿の傍に居ると、袁紹殿の品格まで落とされてしまいますなぁ…どうだろう、皆の衆 最近 盗賊共が頻繁に出没する始末。討伐部隊を率いて貰うのはどうじゃ?」
「おぉ~。それは妙案じゃて。どんどん討伐して貰えれば、それだけ袁家と、袁紹殿の評判が上がって一石二鳥じゃて」
「うむうむ。良き案で御座いますな」
各々好き勝手な事を言ってはいるが、要は危険因子を分散し、弱体化を狙っているのが見え見えだったが、ここで逆らえば麗羽ばかりか斗詩まで危害が及ぶ可能性も有った。
「アタイに敵う盗賊なんて、居やしないさ!姫!ぱぱっと片付けて来ますよ!」
猪々子は、麗羽と斗詩にウキウキとした表情で語ったが、目は、そう言ってなかった。
…アタイのせいで姫と斗詩の二人だけにしてしまって、ゴメン…
と、そう語っている様な目だった。
「お~ほっほっほ!流石は猪々子ですわ!盗賊如き等チャチャっと片付けてしまいなさい!そ・し・て!私の評判を上げてくるのですわ!」
「文ちゃん 麗羽様の事は、私がお守りするからね。くれぐれも、怪我には気をつけてね…」
麗羽は、お馬鹿な物言いで猪々子を激励し、斗詩は猪々子を心配しながらも、麗羽様の身は、私が護ってみせる…そう意気込みを込めた目で猪々子に答えていた。
「では、善は急げと言いますからな、早速 文醜殿には、討伐に向かって貰うとするかの」
と、長老達は、近衛兵に指示を出し、猪々子を討伐に向かわせた。
(猪々子…無事に帰って来るのですよ…)
言葉には出さないが、麗羽は心の中でそう願わずにはいられなかった。
猪々子が討伐の為に、玉座の間を後にした後、長老達は、麗羽と斗詩に部屋へ戻る様に指示を出した。事実上 麗羽は軟禁状態に成り、斗詩も軍部の仕事を与えられ、麗羽に合える日が少なくなった。この状態が、この後現れる人物に巡り会うまで、続くのであった。
だが、麗羽達にとって嬉しい誤算が有ったのは、この時点では誰にも解らなかった。
如何でしたでしょうか?こんなの麗羽達 三馬鹿トリオでは無い!と言われるのが怖いのですが、これが、三馬鹿トリオの理由と私は解釈して執筆しております。それを御理解の上、之からもお読み頂ければと思います。
次回は、序章 袁本初 其の二(完結)を、お送り致します。
今後とも、生暖かい目で見守って遣って下さい。