私の中の私
痛い
痛くない
怖い
怖くない
今の私はどっち?
◆◆◆
鬼『透和…』
利『案ずるな。ただの小娘ではないのだろう?』
鬼『そうだけど…』
我『酒が進んでねぇぞ。ほら、コップよこせ。』
鬼『あぁ…』
あれから透和は一人にして欲しいと言って、部屋に閉じ込もってしまった。たまに出てくるが、ぼーっとしていて何を考えているか分からない。鬼恐は心配で仕方ない。
妖力抑節器具。魔界で強力な力を持ちすぎている者がつける物だ。あまりにも力が強すぎて気だけで相手を倒すことができる者だっている。あの器具は長直々に渡される物。最初、透和に初めて会った時、不思議に思った。ただの飾りかと思ったが、よく見れば、亡き修羅家の紋章が刻まれていた。やっぱり、透和は…
我『しっかしなぁ。見たかよ。あの妖怪化した子娘。』
利『白銀の髪に黄金色の瞳…まさにあのお方に瓜二つだった。』
鬼『あのお方?』
利『鬼恐も知っておるだろう。四皇の暁。』
鬼『!?』
透「早く起きすぎたかも…」
現在朝の4時。起きるにしては早すぎる。二度寝をしようと思ったが、目が覚めてしまって眠れない。
仕方ない、散歩でも行くか。
朝はやっぱりひんやりして肌寒い。
透「そういえば、鬼恐どこ行ったんだろ。」
昨日の夜から気配がないし、姿が見えない。
「透和!!」
透「神谷…」
全力で逃げる。昨日私がやってしまったことを刀真に聞かれるのはご免だ!!
刀「男の瞬発力なめんな!!」
あっさり捕まりました。←涙
刀「何で逃げんだよ。」
透「だって…。」
刀「来い。」
そのまま引っ張られ、近くの公園のブランコに座らされる。
ブランコに座るなんて久しぶりだ。
刀「光は、寝込んでる。体調不良だってよ。」
透「…。」
刀「別に、俺は光がどうなろうと関係ねぇし。俺はお前のことが心配なんだ。」
透「神谷…。」
もし、私が本当のことを言ったらどうするんだろう。ドン引きされるだろうか。
昨夜聞いた私のこと。鬼恐が言ってた。
『お前は妖怪と人間の間に生まれた 半妖怪だ。』
うん、もう何回も頭の中でリピートされてる台詞だよ。何回も何回も…。
刀「俺さぁ、光みてぇに霊とか妖怪とか見えねぇけど、特別な力は持ってんだ。」
透「特別な力?」
刀「見てな。」
ポケットから小型のカッターを取り出した。そして…
透「と、刀真!?」
左の手首をリストカットしやがった。手首からは血が流れる。
透「馬鹿!!何でこんなことするんだ!!」
ハンカチを出して傷口を抑える。白いハンカチが赤く染まる。
刀「見てろって。」
ハンカチを放し、右手を左の手首にあてる。
透「え…」
手を放した時には、傷口は跡形もなく消えていた。
刀「俺と透和だけの秘密な。誰にも言ったことがねぇ。おかげで俺は絆創膏を貼ったことがない。」
透「治癒…」
お母さんと同じ力…
透和の母親は陰陽師の力は弱かったが、治癒の力は強かったそうだ。
透「刀真、風邪引いたことは?」
刀「えっと…指で数えるくらいしか。」
私の予想が当たれば、刀真は治癒能力を誰かから受け継いでいるはず。もし、お母さんからなら…。
透「刀真!!私…」
刀「半妖怪なんだろ。」
透「え…?」
何で知ってるの…
刀「親父がブツブツ言ってた。」
透「嫌だ…刀真…」
刀「大丈夫。俺は口は堅い。」
透「そうじゃないの…私は…」
逃げなきゃ…相手は力が無くても神谷家の人間。利岐が忠告してた。「神谷家の人間は、そなたを狙っている。あまり近寄るでないぞ。」分かってる。分かってるけど…。
刀「人間も妖怪も仲良くすればいいのにな。」
え…
ビュオオオオーーーーーー!!
激しい風が透和と刀真を襲う。
刀「何だよ!!急に!!」
目の前で竜巻が起きる。
『透和様!!お迎えにあがりました!!』
刀「あ、あれ…?透和?透和!?」
竜巻が消えたと思ったら、透和もいなくなっていた。
透「もう何なのよ!!」
竜巻に襲われたと思ったら、気づけば自宅の庭にいた。
そして、透和の前に跪いている者がいた。黒い長髪、背は鬼恐と同じくらい。眼鏡をかけている。
透「あの…顔あげてよ。」
『この時を待ちわびていました。貴方が現れることを、この桜は長年待っておりました。』
桜って…
透「お父さんの家臣さん?」
桜『そうです!!良かった…覚えていたのですね!!』
透「いや、昨日話聞いただけだから詳しいことは…」
桜『やはり、妖怪化の時の記憶が消えてしまったのですね。』
とりあえず、中に入ってお茶を出した。
普段、客間を掃除してて良かった。
桜『申し送れました。私は、貴方の祖父 陽麻様の代から修羅家に仕えている桜です。』
私っておじいちゃんがいたんだ。陽麻っていう名前なんだ。
桜『本当に私のこと覚えていませんか?あんなにお世話したのに。』
透「お世話してもらったの?」
桜『貴方の歩く練習に付き合ったのは私なんですから。』
自慢気に話す。
桜『今は…修羅家は滅んでしまいました。屋敷も乗っ取られ、陽麻様も影月様も行方不明になりました。もう貴方しかいないんです。』
透「私!?」
桜『透和様は修羅家の子、つまり…生き残りなのです。』
私しかいないってこと?お父さんもお母さんもおじいちゃんも…皆いないってことなの?
桜『国の柱であった陽麻様、若き主であった影月様も行方が分からなくなり、国は乱れ、民は混乱に陥りました。何とか私たちで立て直そうとしましたが、中央区の新たな主になったものにすべて奪われました。土地も富もすべて…』
透「桜、貴方はどこに?」
桜『私は長様のところに。私は貴方が無事で本当に良かったです。あ…その首輪…!!』
桜は急に私の首にある首輪を触る。
透「桜?」
桜『影月様が透和様に渡した物はこのことだったのですか!!影月様…』
透「桜、何を言ってるか分からないよ。ちゃんと説明して。」
桜『この首輪は、中央区の主が代々身に付ける物。影月様は腕に付けておられました。それが透和様のもとにあるということは、透和様は中央区の主に選ばれたということです。』
中央区…お父さん…
透「無理だよ…そんなの…」
私人間だよ?昨日人間じゃない発言されたけど、自分では人間だと思ってる。妖怪だとは全然思ってないんだよ。
桜『貴方に拒否権はありません。前主からの指名は絶対なのです。』
一国の主だなんて…
透「私は…」
がしゃーーーーんっ!!
透「なに!?」
玄関の方からガラスが割れる音がした。
桜『まずいですね…』
透「何がよ!!」
桜『貴方のことが魔界に知れ渡ってしまい、貴方の命を狙う者が来たようです。』
何でそんなに冷静なの!?
桜『ここでお待ちください。今私が…』
駄目だ
誰?
外せ、首輪を外せ
だから誰なのよ
桜が死んでもいいのか
死!?嘘…嫌だよ…
守れ
守る
信じろ
信じる
桜『透和様!?』
白銀の髪が風で揺れる。
『待たせたな。』
桜『透和様…』
首輪は腕に巻かれた。
『ギギギギ…』
-殺せ
-消せ
-掻き毟れ
透『あれか』
桜『透和様!!ここは私が!!』
透『失せろ』
『ぐああああああ!!!!』
小さい黒い妖怪たちは、透和の一声でもがき苦しみ始めた。
-何だ
-苦しい
-息ができない
静だ。下級妖怪なら即死ぬ。上級妖怪でも生き残る者はいるが、気絶する者がいる。四皇ならできて当たり前の力。
透和様はこの力をご存知なのだろうか。
攻め込んできた妖怪は腰を抜かし、這いながら逃げていった。
透『止まれ』
『ひぃ!!』
透和に逃げ場所を拒まれる。
透『お前たちの主は誰だ。』
『教えるわけねーだろ!!バーカバーカ!!』
透『ほぉ…』
ギロリと睨むと、震える小さな妖怪。
『分かった!!教える!!中央区の王様、帝豪様だ!!』
透『その帝豪とやらに伝えろ。一言も間違えるな。“中央区の主は、この透和だ。首を洗って待ってろ”と。』
『わ…分かった…』
妖怪たちは這いながら逃げていった。
透『おかげで玄関がめちゃくちゃではないか。礼儀知らずめ。』
桜『透和様!!』
透『桜。』
桜『は、はい!!』
黄金色の瞳に映るのは、桜のみ。跪く桜の頬を撫でる。
私は待ち続けた。ずっと、この時を。新しい当主にお仕えするために、私は貴方様を探し続けた。
透『中央区の様子は分かるか?』
桜『え…?』
次に口に開いたと思えば、中央区のこと。
透『今の中央区だ。』
桜『あ…はい。現の中央区は殺風景になりました。修羅家が行方不明になる前までは賑やかな国でした。繁華街も活気が良く、祭の時は他の国の者がたくさん来る程でした。しかし、現は…。帝豪殿が当主になってから、殺風景になってしまいました。』
草木は荒れ果て、商人は当主の部下が怖くて外に出られなくなり、花魁美人は屋敷に監禁されてしまった。
透『…今日は休め。』
桜『え?』
透『疲れただろう。ゆっくり休め。』
どこまで見抜かれただろう。仕える者がいなくなってからあまり眠れていない自分を気遣ってもらえるなんて…。
透『それと…もう一人の私は…淋しがって…る…』
フラッ
桜『!?』
急に倒れる透和をギリギリのところで受け止める。
もう一人の透和様?もしかして、黒髪の…?
小さな寝息をたてて眠る女性の頬を優しく撫でる。
桜『“中央区の主は、この透和だ。”か…。頼もしい方です。』
『透和ー帰ったぞー。腹減ったー。』
紅い髪の男が縁側から帰宅。鬼恐だ。
鬼『あ!?何でこんなに荒れてんだ!?…て、お前は!!』
荒れた部屋を見て、直後に桜を見つけた。
目を見開いていた。
鬼『修羅百鬼夜行…指揮官…桜…!?』
ゆっくり言葉を発する。
信じられなかった。行方不明だった者がこの場にいるなんて。
桜の腕の中に眠る透和を見つけた。
鬼『てめぇ!!透和に何したんだ!!』
桜『…私にも分かりません。』
鬼『答えになってねぇ!!』
桜『安心してください。眠っているだけですよ。』
鬼『…』
桜『やっとお仕えできる。…透和様。』
鬼『仕える?』
桜『透和様は自ら中央区の主になると申しました。修羅家の当主になるのですよ。』
鬼『っ!?』