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今宵共に  作者: 鷹羅
5/9

十五夜の日に

透和の様子がおかしい。


晩飯の魚を焦がした直後に皿を落として割った。


ボーっとしているにも程があるだろう。


学校から帰ってきた時に薄く血の匂いがした。


怪我をしたのか?と聞いても、していないと返される。


あきらかに血の匂いがした。


俺は鼻と耳がよく利く。


風呂上がりの透和は血の匂いはなく、石鹸の良い匂いがした。



◆◆◆



鬼『むぅ…。』


今朝の卵焼きは塩辛かった。自分で作ったからだ。


いつもなら透和が作ってくれる。


しかし、今日は違った。中々起きない。時刻は9時を過ぎたのに起きない。


お寝坊さんな透和も良いけど、朝飯に支障が出るのは嫌だ。


腹減った…物足りねぇ…



コンコンッ



窓を叩く音がした。


鬼恐は窓の外を見て、目を見開いた。


鬼『お前らは…!!』



***



透「ん…」


目覚めの悪い朝だった。昨夜、考え事をしていたせいだろう。


時刻は9時12分。遅刻だ。


適当に準備して学校に行こう。


透「鬼恐ー?」


呼んでも探しても出てこない。


散歩にでも行ったかな?


食卓においてある卵焼き。


一口食べてみる。


透「しょっぱ…」


見た目は良いけど、中身は残念な結果だった。






学校に着いたのは昼休み。それまでは家で家事をしていた。


着いた瞬間、何故か説教を喰らった。


幸「遅い遅い遅い、おそーーい!!!!」


幸の声が教室に響き渡る。周りにいた人たちは皆、何事かとこちらを向く。


透「ふわぁーあ…」


幸「あたしが怒ってるのにアクビしない!!アンタはどうしてマイペースなわけ!?」


お前は私のオカンか。


幸「千夏(ちなつ)も言ってやってよ!!」


千夏こと、松宮(まつみや) 千夏(ちなつ)は同じクラスメート。明るくて優しい、たまにおっちょこちょいな女子だ。


千「透和だって理由があって遅刻したんだよね?」


透「睡眠という重大な仕事をな。」


幸「どこが重大なのよ!!…今日は大事な日でしょ。」


大事な日?


課題提出日、幸が好きなアイドルの誕生日、雑誌の発売日…


どれも違う気がする。


幸「はい。」


幸の手には綺麗にラッピングされた箱。


千「二人で選んだの。」


自分が鈍感なのか分からないが、理解不能だ。


そうか!!この前の賭けで勝ったからか。


幸・千「誕生日おめでとう!!」



透「誕生日?」


千「9月15日。透和の誕生日でしょ?」


9月15日。


あぁ、そうだ。15回目の誕生日だ。すっかり忘れてた。


幸「アンタってホント、この日だけ遅刻するよね。」


千「意味でもあるの?」


それはこっちが知りたい。


毎年この日になると寝坊する。


夢には幼い頃の自分が出てくる。


透「さぁね。自分でも分かんない。ありがと。嬉しいよ。」


夢にいた自分は、真っ暗な闇の中。背後からは親戚たちの怒声。


思い出しただけで気分が悪い。



「一ノ瀬さん」



幸「あ!!光くん!!」


呼ばれたのは透和なのに幸が返事をした。


胸騒ぎがする。


千「骨折!?大丈夫!?」


光「はい。松葉杖は慣れませんが。」


背中の強打じゃなかったの?


光「一ノ瀬さん、少しお時間よろしいですか?」


嫌な予感しかしない。


逃げないと…


透「ごめん。私…」



「一ノ瀬」



光「…兄さん、僕の邪魔をする気ですか?」


助かったのかもしれない。


初めて刀真に感謝している。


刀「邪魔?知らねぇよ。それよりさ」


右手を掴まれる。


刀「先約俺だし。」


透「は?んんっ!?」


口を手で塞がれた。


前言撤回。


感謝なんてするもんか。


刀「賭けで奢ってもらうことになってんだ。じゃ、こいつ借りるぞ。」


光「兄さん。」


刀「んだよ?」


兄弟が揃うとちょっと迫力がある。


光「立場、考えてくださいね。」


刀「へいへい。」


立場?






屋上には、どこからか飛んできた紅く染まろうとしていた葉が落ちていた。


刀「ま、座れよ。」


透「よくあんな嘘がつけたな。」


刀真の隣に座る。


“賭けで奢ってもらう”なんて嘘。賭け事態していないからだ。


刀「ちょっとは感謝しろよな。あんなに怯えてるお前初めて見た。」


怯えてた?


私が?


透「“立場”って何?」


刀「聞こえてたのかよ。…仕方ねぇな、黙ってても馬鹿らしい。光には内緒な?」


刀「うん。」



話を聞いて分かったこと


・神谷家は先祖代々、霊や妖怪を祓う陰陽師


・光は霊や妖怪が見えるが、刀真はまったく見えない


・見えない刀真は、父親の眼中にない


・兄、弟で比べられている



透「ごめん。」


聞いたらいけないようなことばかりだ。


刀「お前が謝る必要ないだろ。透和も何かあるだろ?」


透「え?」


刀「この日、いっつも泣きそうな顔してる。」


透「してないよ。ナルシストに言われたくない。」


刀「顔に書いてんだよ。…言ってみろ。内緒にしといてやるから。」


これ以上抵抗しても逃げ場は無さそうだ。


刀真なら、言ってもいいのかな。


透「9月15日は、私の誕生日と…お父さんとお母さんの命日なの。」


そう、今からちょうど五年前。


両親は私がいない間に姿を消した。


あの日から一年後まで


涙は枯れ


笑みは押し殺すようになった。


刀「ちょうど十五夜か。」


透「うん。あ、皆には内緒ね。刀真にしか言ってないから。」


刀「OK。てか…今、“刀真”って言った?いつもは“神谷”だったのに。」


透「双子だから。」


刀「ちぇっ。それだけのことかよ。俺に恋したのかと…」


透「残念。それだけはないわ。」


刀「…(._.)」






学校の帰り道、寄り道をした。


家から少し歩いたところにある山奥。周りは何もない。


そこには小さなお社がある。


両親とよくここに来ていた。


両親はお社の前で手を合わせてこう言っていた。


「透和をいつまでもお守りください。」


9月15日、決まった日に出向いている。


自分たちがいなくなることを知っていて言ったのだろうか。


いなくなる前日、父親につけられた首輪は唯一の形見。


「絶対外すな。」


学校の先生に注意されても外さなかった。


意味でもあるのだろうか。



透「お父さん、お母さん、久しぶり。」


お社の前に置いてあるコップにスーパーで買った水を注ぐ。


死亡説として見放されていた。遺体はないから墓はない。


幼かった透和はこの思い出の場に花を供えることにした。


お社の前にはコップの他に大きな器がある。


父親がこの器に睡蓮の花を添えていた。


透和の家にある池には、睡蓮の花が咲いている。


普通なら七、八月頃に咲くのに、あの池に咲く睡蓮は一年中咲き続ける。


不思議な花である。枯れたところを見たことがない。


父親と同じように、器に水を入れて花を添える。


お父さん、この首輪の意味はなに?


お母さん、私はどうすればいいの?





「見つけましたよ」




ビューッと強い風が吹いた。木々は揺れ、鳥は鳴くのを止めた。


振り返ってその姿を見る。


口調からして…神谷光だ。


付き添われた人に支えられながら歩いている。


確か松葉杖がどうとかなんとか言ってたはず。


それくらい重症だったのか。


光「まったく、兄さんが中々吐いてくれないせいで遅くなってしまいました。貴方がここに来るのは分かっていましたよ。」


透「アンタがここにくるなんて…」


この場所のことは誰にも言っていない。友達にも親族にも…。


光「僕は父に教わりました。今日は誕生日だそうですね。」


こいつはストーカーか?


光「お誕生日おめでとうございます。そして…さようなら。」


ザッ


何人かの人に囲まれる。


光「僕ら陰陽師の勝ちです!!」


勝ち?何のこと?



バチッ



透「痛っ!!何これ…!!」


激しい痛み。体中に走った電流のような。


光「徐々に痛みはなくなります。その時はこの世に貴方はいないでしょうね。」


いつもの光じゃない


殺される?私死ぬの?


私が?こんなところで?


鬼恐が一人になっちゃう


あぁ…まぶたが重い


ごめんね…私が何を犯したか知らないけど…









「…せ」


声…?


「外せ…首輪を外せ」


首輪?外していいの?


「構わない。私はもう一人のお前だ」


もう一人の私…


「信じろ。己の力を」


己の力…


それが本当なら、信じるよ










光「これで父さんに…」


「光!!」


木の枝を掻き分けて出てきたのは刀真だった。


光「兄さん?どうしたのですか?」


刀「一ノ瀬は!?」


光「見ての通り始末しました。」


刀「なっ…!!てめぇ!!」


光の胸倉を掴む。


光「兄さんは関係ないでしょう。首を突っ込まないでくださ」


「光!!遺体がないぞ!!」


刀真を押しのけて声がする方へ向かう


お社の前に倒れたはずの透和の身体がどこにもない。


最後に見たのは崩れていくところ。


光「探しましょう!!そう簡単に動けるはずありません!!」





『待て』





どこからか声が聞こえた


この森に響き渡るような声


光「どこだ!!姿を現せ!!」


「社の上だ!!捕らえろ!!」


光「お社の上…?」


満月に照らされた白銀の髪。黄金色の瞳。左頬には大きな刺青。


そして、揺れる九本の尻尾。


「きゅ、九尾だ!!」


「伝説の妖怪だ!!逃げろ!!殺されるぞ!!」


光「静まれ!!あの服装…一ノ瀬さんが着ていた制服とまったく同じです!!」


藍色の生地に赤いリボン。透和はその上に灰色のセーターを着ている。


『てめぇらの茶番に付き合ってやろう』


光「一…ノ瀬さん?」


刀「お、おい…何が起きてるんだよ」


そうだ。兄さんは妖怪が見えないから分からないのか。


光「逃げよう兄さん!!ここにいたらあぐっ…!!」


刀「光!?どうしたんだよ!!」


これは殺気か!?妖力か!?力で押しつぶされそうだ!!


息が苦しい。心臓が痛い。


『果てろ』


このまま死ぬ!?


光「兄さ…ん…」


刀「光!!光!!しっかりしろ!!」






『透和ぁ!!』






僕は薄くなった視界の中ではっきり見た。


紅い大きな狐が、白銀の妖怪に噛み付いたところを。


黒いカラス、銀色の狼が寄っていったところを。


その時、一ノ瀬さんの名を呼んだ。



『許せ、透和』


『何のことだ。私はお前のことなど知ら』


ガッ


堅いもので透和の頭部を殴った


よろけ、意識を失ったところを紅い狐は受け止めた


『ごめんな』


『鬼恐よ、今はここを離れた方が良いだろう。陰陽師が集まってきたぞ』


『小娘の家でいいだろ。そこへ行くぞ』


『あぁ』


空を蹴り、逃げていった。



光「追え!!」


刀「そんな身体じゃ無理だ!!動くな!!」


刀真に抑えられ、追うのを阻まれた


光「…!!くそっ…!!」


光は、妖怪を追うことを断念し、逃げていく獣たちを目で追っていた。






初めまして&こんにちは

鷹羅たからと申します。

読んでくださり、誠にありがとうございます。

長らく更新していませんでした。

正直言って、ネタを思いつかせるのが遅いです(笑)


次回は今回の話の続きです。

鬼恐の仲間が出てきます。

透和の真実が明らかに…!?

まだ未定です。


また投稿が遅くなるかもしれませんが、よろしくお願いします。

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