前触れ
秋の暖かくて柔らかい風は、とても心地好くてついウトウトしてしまう。
授業は何も頭に入らない。
窓際の席最高だよ。
ガラッ
急に教室のドアが開いた。
先生「神谷、遅刻だぞ。」
「すみません。父の仕事の手伝いをしていたので。」
女子の黄色い歓声が起こる。
神谷 光。優等生で先生からの評価が良く、男女関係なしに好かれる。見た目は大人しそうだが、実はドSな男子。
「光くん!!お父さんの手伝いしてたの?」
光「はい。除霊を少し。」
確か、神谷の父親は神社の神主をしているそうだ。
学校の除霊もしてくれないかなぁ。
少しばかり神谷を見ていると、視線に気づいたのか、目が合った。周りの女子と同じ笑顔を振り撒いている。神谷の笑顔でおちる女子は数知れず。
スマイルの大バーゲン中かよ。
呆れて目をそらす。そういうのには興味が無いからだ。
あーあ…退屈だ。
『またアクビをなさったぞ』
『これで五回目ですな』
『Σややっ!?こちらを見ておられるぞ!!』
一時間目の用意をしようとしたら、机の足のそばに三匹の妖怪がいた。
『見えているのですか?』
見えるっつーの…。
私は霊でも妖怪でも見える。嫌って程、見えるものは見えるのだ。
しかも触ることができる。
生まれつきの力かな?このことは、鬼恐以外誰にも言っていない。
透「(私を観察して楽しい?)」
『なんとっ!!口を開かずに声を発しましたぞ!!』
驚きすぎだよ。
妖怪限定だが、私は妖怪と話すことができるし、口を開かず相手に伝えることもできる。
鬼恐が言うには、“心の声”らしい。
意外と便利なんだよね。
『私共が見えているのですか?』
透「(もちろん。ハッキリ見えてるよ。)」
だいたい15㎝くらいの大きさ。可愛らしい小人。
私の机によじ登り、教科書の上にちょこんと正座した。
うーん…可愛い…
『私共が怖くないのですか?』
慣れだよ。最初は本当に怖かった。
今ではこの通り、学校の怪談とかへっちゃら。
透「(怖くないよ。)」
『でわ…私共を…ひぃ!!』
突然の小さな悲鳴。
「一ノ瀬さん」
光だ。話しかけてくるなんて珍しい。
あれ?
『あ…あ…』
三匹共に目を見開いて震えている。まるで、蛙が大蛇に怯えているかのように。
光「次移動ですよ?行かないんですか?」
透「行くよ。」
ちょうど教科書の上に乗ってくれたから、そのまま連れて行ける。
大丈夫かな…?
光「…」
◆◆◆
昼休み、少し空腹の予感。
「あれ?透和、購買?」
透「あぁ…幸か。」
同じクラスの九条 幸。中学から知り合って、今では親友みたいな感じだ。真面目で可愛い系女子。
幸「誰だと思ったのよ。あ、そうそう。また告られてたね。」
幸は恋バナ(恋の話)などの女子が花を咲かせる話が好物だ。
透和は興味がないから軽く流している。
朝、ギリギリ遅刻にならなかった。安心して教室に向かっていたら呼び止められて、その場で告白された。
透「振ったから。」
幸「何でー!?」
透「何でって…。」
幸「あと何ヵ月かで高校生だよ!?花の高校生だよ!?彼氏作らないと独り身だよ!?」
また説教ですか…。花の高校生って何だよ?
透「耳元で騒ぐな。私は屋上で食べるんです。」
幸「たまには教室で食べようよ。ほら座って座って。」
無理矢理座らされた。ここで逃げたら後でうるさいのがオチだ。
幸「透和さぁ、好きな人とかいないの?」
突然これか。
透「何回でも言ってあげる。興味ない。」
幸「でもさぁ、今日のは超イケメンだったんでしょ?いいなぁ~。」
羨ましいなら遠慮なくあげるよ。
「また振ったのか。」
幸「キャー!!!!」
声の先には、神谷 刀真がいた。
神谷光とは双子の兄弟。刀真が兄、光が弟だ。
見た目も性格もまったく似ていない二人は、仲が良いのか悪いのか。
刀真は学年1位と言われるイケメンで、告白殺到中。俺様系男子だ。
幸が興奮するのも当たり前か。
刀「男が可哀想だ。」
透「うるさい。アンタだって女が可哀想だよ。」
刀「モテる男は辛い辛い。」
腹立つなぁ…。
幸「神谷くんはどうしたの?」
刀「別に?透和と話したかったから。」
シーン…
刀「冷めた?」
教室にいる皆の視線が痛い。ここで地雷を踏んだ本人はヘラヘラ笑っている。
学年トップのイケメンが気安く女の名前を呼ぶなんて。しかも下の名前。
透和と神谷は付き合っても何でもない。
こいつと付き合うなんてごめんだ。
幸「この…浮気者ー!!」
透「浮気してないし。屋上行ってくる。」
そう言って屋上へ足を進めた。
◆◆◆
屋上は教室と違う景色が見られる。透和のお気に入りの場所だ。
恋なんて分からない。
今までに恋なんかしたことがない。
透「はぁ…」
溜め息が出ちゃうよ。
『止めっ…放しなさい!!』
透「え?」
どこかで声がした。さっきの授業で会った妖怪の声だ。三匹は、さっき『主人のもとへ帰ります』と言っていた。
急いで階段を上がる。
声が震えていた。
たまに見る。妖怪が妖怪に食べられるところを。
あれはあまりにも残酷すぎる光景だった。
あの三匹も…!!
少し重い扉を開けると向かい風が激しく吹いてきた。
それに混じって聞こえた声に耳を疑った。
『一ノ瀬殿…!!』
私が呼ばれてるの…?
「あぁ…貴方でしたか。」
信じられなかった。
整った制服を身に纏い、片手には数珠。片手には抵抗している…
『来てはなりませぬ!!この男は…!!』
さっきまで話していた妖怪。
教室にいた時とは違う。
私が知らない神谷光だ。
光「もうすぐ終わりますから、向こうで待っていてくれますか?一ノ瀬さん?」
どうして震えているの?逃げ腰になっている自分はおかしい。
透「除霊…するの…?」
光「はい、もちろんです。」
息が上がる。
何でこんなに苦しいの?光の台詞一つ一つが私を縛りつけている感じがする。
助けなきゃ
助けないと
「…!!透和!!」
透「ん…幸?」
重いまぶたを上げると、幸がいた。
自分は、屋上の地で仰向けに倒れていた。
幸「いつまでも寝てるのかな?もうHR始まっちゃうよ。」
嘘…私寝てたの?
そうだ!!あの子たち…!!
いない?
幸「聞いてよぉ!!光くん怪我したって!!」
透「光くんが?」
幸の話によると、光は昼休みに階段から落ちたらしい。背中の強打だけで済んだそうだ。
昼休みって光といたはず。その時は何も…無いような、あるような…。
記憶を辿るが、分からず終いになってしまった。
◆◆◆
何で私は寝ていたのだろう。
あの時、眠気は一切無かった。
怪我もしていない。
夜更かししたからかな…。
鬼『透和、魚焦げてる。』
病気なのかな…。
鬼『おーい、焦げてるぞー。』
透「えぇっ!?」
鬼恐の声にハッとした。
火を止めたが遅かった。晩ご飯のメインが真っ黒に焦げてしまった。
鬼「大丈夫か?ボーっとして…。」
頭の中がモヤモヤする。考えることが多すぎる。
今はただ、あの妖怪たちが無事であることを祈ろう。
『ご苦労。休んでおれ。』
『はい。』
『それにしても、放っておいていいのかよ?』
『神谷家は今、力をつけています。要注意すべきかと…。』
『うむ。目をつけておこう。それと…長に報告せねば。』
『あぁ。行くぞ。』
『強力な妖気が、神谷家の一人とぶつかった と』
初めまして&こんにちは。
鷹羅と申します。
“今宵共に”を読んでくださり、誠にありがとうございます。
透和、鬼恐以外の人たちが登場しました。
神谷 刀真は、ナルシストで偉そうな性格を持っている設定です。透和に馴れ馴れしい。学年一のイケメン設定…のはず。ファンクラブあり。
神谷 光は、常に敬語で優男という設定です。神主をしている父を尊敬していて、父のようになりたい一身で陰陽師の道を選びました。兄 刀真とはあんまり仲がよくない。ファンクラブあり。
九条 幸は、しっかりしている可愛い系という設定です。恋人募集中です。高校までに彼氏をつくる予定。
次回は、“前触れ”の続きです。
また新たな人物が出てきます。