交わった歯車
人界に着いて早三分
魔界とは違う風景
幾度も訪れているが、いつもと違う
深紅の髪をなびかせ、妖狐の鬼恐は空を優雅に舞っていた。
十五夜の夜はやはり心地良い。兎を描いたお月様が見守ってくれている。
鬼『あっちか…』
鼻をくすぐる甘い匂いの源を目指して空をける。
噂の半妖怪を一目見たい。修羅の血を喰せば最強だ。
修羅の血。最強の力を持つ妖怪一族の血筋。数年前、一族は絶滅した。しかし、絶滅する前に修羅族の一人が人間を嫁にし、子を生んだという噂がある。それが妖怪と人間の間に生まれた“半妖怪”。
まだ生き残りがいるのならば、そいつが最強の座に着くだろう。喰いたい。ウズウズして仕方ない。
つい最近喰した妖怪は、とても美味だった。強い奴で血が騒いだ。最後に何か言ってたな。“愛娘”がどうとかなんとか…忘れた。そんなこと知らねぇし。
匂いが濃くなってきた。甘くて癖になりそうだ。
一軒の日本家屋。
門をくぐり、源へ向かう。
大きな庭に着いた。
鬼『ん…?』
縁側に小さな子がいた。顔から見て女だ。横たわっているから死んでいるのかと思ったが、スヤスヤと小さな寝息が聞こえたので眠っていることが分かった。
可愛らしい寝顔だな…いやいやいや!!違う!!俺は妖怪だ!!人を喰う妖怪だ!!この小娘からさっきまで匂っていた甘い匂いがする…まさかなぁ。
こんなところで眠っていれば風邪を引くだろう。
鬼『おい、風邪を引くぞ。』
なーんてな。人間ごときに妖怪の声は聞こえるわけがない。人間に気配るなど…俺はまだ半人前だな。
「ん…誰?」
可愛らしい声。小娘はこちらを見ている。
見えてないはずだ。きっと…。
「誰?」
う゛…見えてやがる…
鬼『妖怪…名は鬼恐だ。』
「ききょー?私、透和。」
ニコニコしやがって…俺が怖くねぇのかよ。
鬼『俺が見えるのか?』
透「うん。あと、触れるんだぁ。」
鬼恐の着物を引っ張る透和。無邪気な笑みを浮かべる小娘は何故か憎めない。逆に愛しく感じる。
透和以外の気配はまったくしない。一人?
鬼『透和、お前いくつだ?』
透「十だよ。」
十なら親はいるだろう。
しばらく話をしていると、透和がウトウトし始めた。夜だから眠いのだろう。
俺が帰ろうと縁側を離れると、
透「また来てくれる?」
悲しそうな目をしていた。誰かを失ったような目だ。
鬼『もう来ねぇよ。』
ヒラヒラと手を振り、魔界へ帰った。
俺は妖怪だ。人間を相手にする甘い奴じゃねぇ。
そんなことを言ったが、たまに会いに行っていた。無意識だ。魔界に帰っても会いたくて仕方がない。
いつも笑顔で迎えてくれる透和。いつ行っても親はいない。
一人。一人ぼっちなのだ。
透和の悲しむ顔は見たくない。護ってやりたい。
気づけば、屋敷に住み着いて透和と過ごしていた。
半妖怪を探していたことをすっかり忘れて…
人生の歯車は一人の小娘によって狂わされ
新たな歯車と交わり
今、動き始めた