好きなわけ
好きで好きで、ただひたすら願ってる。君がいつも笑っていられるように。悲しい困難なことはなるべく回避できるように。叶うはずが無いから、願わずにはいられない。
「私、詩人になれるかも!」
「過激派の?だったらいい線行くだろな」
「もーちゃかさないでよ!今すごい芸術に酔ってたのに」
「芸術ねぇ」
今日も止まることの無い三澤演説をしながらうっとりした顔で呟くのでとりあえず犯罪者にストップをかける。
「とりあえず、その芸術発表を世に出すのは止めとけよ」
「どうしてよ?こんなに素晴らしいのに」
「……お前、そんなもん見たらかれこれ六年間のストーカー行為がたちまち世間にばれて刑務所行きになんぞ!」
「それは困る!刑務所なんて入ったら三澤君を見ることが出来ないじゃない!」
「結局それか。反省の色がまるで見られねぇ」
「いやあね!人を好きになることのどこがいけないの?」
「悪くはねぇけど…だいたい奴のどこが良いよ?」
普段から抱いていた素朴な疑問の一つを尋ねてみると思い切り上目線でため息をつかれたのでムカついた。
「……なんてゆーか人を好きになるのに理由はいらないのよ。気付いたら恋に落ちてたんだもの。よくそう言うでしょ?」
「そしてストーカーへの道まっしぐら!」「私はただ、恋に正直なだけ!ってゆーか一目惚れの子を追ってここに来た明斗になら分かるでしょ?」
「……あの頃は俺もだいぶ若かった」
「何言ってるの。まだ若いじゃない!ねぇそ~いえばその子とはどうなったの?もう会えたの?もしかして、そのこも明斗と同じで、友達の付き合いで高校見学に来ただけだったの?」
過激派のストーカー亜矢子の追求を逃れるのは難しいらしく、彼女の瞳は好奇心だけでなくなく俺の恋路を心配しているらしい。だからといって真実を正直に全て<一目ぼれして高校で出会った彼女とはすっかり仲良しになり、毎日聞いてもいないのに彼女の思い人の話をしてくれるし、ついでに中学時代からその人のストーカーをしている筋金入りの犯罪者だってことも分かりました>と打ち明けるのはプライドばかりか良心も許さない。
「ちゃんといるよ。そいつがここに来るのは絶対だった。あの時、何でかわかんないけどすごい気迫で裏門入学してでもここに来ると思ったから」
とりあえずそれだけ伝えると何とか納得してくれたようでそっと胸を撫で下ろした。
去年の秋ごろ、友人の付き合いで行った高校説明会に彼女、高木亜矢子はいた。今思えば三澤葉流はその前からこの高校を希望していたのだろう。二人組みや仲良しグループを作って動く女子が多かったのに彼女だけはずっと最初から最後まで一人でいたのを覚えてる。
入学希望どころかこの学校に恨みでもあるんだろうかと思わせるほど、校舎や中庭、在校生や教師とこの高校にある全てのものを睨んでた。オーラが出ているように彼女のまわりだけ激しい怒の炎が燃えていた。彼女の挑戦はもう始まっていたんだろう。
それをどうして好きになったのかは未だに分からないが、それからずっとそのときの彼女の姿が目に焼きついて離れなかった。入学式で彼女を見つけて以来、目が離せなくなった。ただそれだけだ。それだけで十分だ。だって<人を好きになるのに理由はいらないんだろう?
好きです。好きです。もうマジで惚れちゃってます。来る日もあなたを見つめていたからあなたの事なら沢山知ってる。あなたがいつも遠くを見つめている理由。好きでもない本を持ち歩く意味も。本当はあなただって、普通の十六歳の男子。雨が降ると、寂しそうな顔をするのは何故ですか?
「私詩人
になれるかも!」
「過激派の?だったらいい線行くだろな」
「もーちゃかさないでよ!今すごい芸術に酔ってたのに」
「芸術ねぇ」
その日も私は飽きることなく三澤君へのあふれ出す思いを明斗に聞かせ、彼が私にとってどんなに素敵であり光を与えてくれる存在なんだと言葉に綴っていた。そうしたらそれは私が持っている小さな語録でも詩のように美しく描き出されてしまう程彼が魅力的だということにまた一つ気が付いた♪
「とりあえず、その芸術発表を世に出すのは止めとけよ」
「どうしてよ?こんなに素晴らしいのに」
「……お前、そんなもん見たらかれこれ六年間のストーカー行為がたちまち世間にばれて刑務所行きになんぞ!」
「それは困る!刑務所なんて入ったら三澤君を見ることが出来ないじゃない!」
「結局それか。反省の色がまるで見られねぇ」
「いやあね!人を好きになることのどこがいけないの?」
「悪くはねぇけど…だいたい奴のどこが良いよ?」
大きな溜息をつきながら明斗は椅子にもたれかかった。明斗は普段私がこれだけ騒いでいるのに彼の魅力を理解できないらしい。
「……なんてゆーか人を好きになるのに理由はいらないのよ。気付いたら恋に落ちてたんだもの。よくそう言うでしょ?」
「そしてストーカーへの道まっしぐら!」
「私はただ、恋に正直なだけ!ってゆーか、一目惚れの子を追ってここに来た明斗になら分かるでしょ?」
「……あの頃は俺もだいぶ若かった」
「何言ってるの。まだ若いじゃない!ねぇそ~いえばその子とはどうなったの?もう会えたの?もしかして、そのこも明斗と同じで、友達の付き合いだったの?」
私と同じくらいの情熱家なはずの明斗のその話を何故か一度も聞いたことが無い。だからここぞとばかりに面倒そうな顔する明斗に構わず詰め寄った。
明斗は観念したみたいにまた大きな溜息をついて遠くを見つめた。普段はやる気無さ気にしているのにたまに見せるその大人びた表情、私は結構好き♪
「ちゃんといるよ。そいつがここに来るのは絶対だった。あの時、何でかわかんないけどすごい気迫で裏門入学してでもここに来ると思ったから」
不覚。明斗がすごく優しい目をしてそう言った姿に、ちょっと見とれた。
放課後、梅雨が近いのか今日も雨だった。だけど私は傘をもっていない。数日前折りたたみ傘を彼に差し出した私はその日以来傘を持ち歩いていない。ご利益のあったあの傘以外使いたくない。
「ど~しよう」
ザアザアと降り続ける雨を見つめて途方に暮れた。ここから駅までまたびしょ濡れで帰るには勇気がいる。
「ちょっと!」
急に後ろから声をかけられて驚いた私が振り向くとそこにはまたもや信じられない光景があった。
「……三澤君?」
「やっと見つけた。高木、亜矢子」
振り向いたその先には私が恋焦がれてやまない三澤君が立っていて私の名前を呼んでくれた。その瞬間普通の名前が妙に特別に思えた。
「急に押し付けて帰るから、困ったよ」
三澤君は本当に「葉流」って名前がピッタリだと思う。とてもきれいなのにどこか涼しい。青い水辺に緑の葉っぱが一枚浮かんでいるような。それは別に特別な光景じゃないのにとてもキレイで、でも手を伸ばそうとすると葉が水にゆっくりと流されていってしまう。けして急ぐわけじゃなくゆっくりと優雅に。届きそうで届かない。その距離がすごく冷たい。
「……ごめん、なさい」
「あの時は助かった。あんたは?あれから大丈夫だったの?」
「……うん、平気!」
「そう。なら良かった」
目の前の三澤君は笑っている。そうして私のすぐ近くにいる。なのに、近づけば近づくほど彼との距離を感じる。
「これ、やっと返せるね。早速使いなよ。いくら丈夫でも二度も雨に濡れたらヤバイでしょ?」
彼はあの時の水玉の傘を手に持ち、私の前で笑っている。それなのに私は失神できない。その理由を本当は知っている。
「……三澤君、今日……晴れれば良かったね」
「はぁ?急になに?」
「だって、雨が降って寂しそうだから…」
しばらくの沈黙の間、彼は私をジッと見つめた。息が出来なくて、苦しかった。それでも失神なんて絶対しない。そのうち、彼は私から視線を外し諦めたように笑った。
「……やっぱりあんたすごいね。俺もあんたは騙せないと思ってた」
彼が何を言っているのか私にはよく分からない。私と彼は会話を交わしたこともないのに、彼は私を知っているような言い方。
「知ってたよ。あんた、中学ん時から俺のストーカーしてたでしょ?」
私の目を覗き込んだ彼はとても楽しそうな目をした。だけど私は固まってフリーズした。何で?この数年間、ばれない様にとこそこそしていたストーカー行為がまさか本人にばれていたなんて!
それでも私はあなたを見つめている。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
ご指摘など頂けたら幸いです。