プロローグ
歴史は、勝者の手によってのみ紡がれるという。
ならば、勝者なきこの世界の真実は、一体誰が遺すのだろうか。
王都を覆い尽くす漆黒の瘴気。狂乱する魔物たちの咆哮。この世の終わりとしか思えない光景のただ中で、黒髪の少年はただ立ち尽くしていた。
「貧乏くじ引いてばっかだな。これだから勇者は嫌だったんだ」
軽口を叩く声にハッとして顔を上げる。そこには、満身創痍になってもなお、いつものように不敵に笑う勇者の背中があった。
彼は噛み締めるように、あるいは悼むように瓦礫と化した街を見渡し、最後に振り返る。
「ちゃんと見るんだ、フィン。これでオレたちの旅は終わりなんだから」
その瞳は、これからの未来を生きる少年を真っ直ぐに射抜いていた。
「キミは勇者一行の記録係だ。オレたちの旅を、日常を、生き様を――全部を持っていってくれ」
高く掲げられた剣から溢れ出したまばゆい光が、闇を、魔物を、そして勇者自身をも包み込んでいく。
「――ごめんな。オレが弱いばかりに」
それが、人類を救うための長い長い戦いの決着だった。
王都は崩壊し、守れなかったものは多くあった。
彼らは歓声を浴びて凱旋することも、故郷へ帰ることも、この先の世を生き続けることもできない。
それでも彼らは、人類の脅威であった厄災を確かに打ち破ったのだ。
かくして。すべてを見届けた記録係の少年一人を残し、偉大なる勇者一行は全滅した。
彼らが命を賭して紡いだ英雄譚は、本来であれば、人類の希望として永遠に語り継がれるはずだった。
――しかし、全人類から、彼らが生きた記憶は消し去られた。




