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追放された絆紋使いの穏やかな冒険譚〜辺境の街ではぐれ者たちと最強の居場所を作ります〜  作者: 盆ちゃん


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第146話 閑話:魔法大国の憂鬱と、侵食する変異の影

第146話 閑話:魔法大国の憂鬱と、侵食する変異の影

 大陸の東方に位置し、永きにわたり魔法技術の最先端を誇ってきた『魔法大国ゼルディア』。

 その王都にそびえ立つ白亜の王城、最上階の円卓会議室では、ゼルディア国王と最高位の宮廷魔導士たちが、重苦しい沈黙の中で水晶板に映し出された地図を睨みつけていた。

「……信じられん。極北の『虚無の暴食者』が消滅し、魔王の残党狩りも進んでいるというのに、なぜ我が国の国境付近でこれほどの魔力異常が起きているのだ」

 ゼルディア国王が、苦悩に満ちた声で玉座の肘掛けを叩いた。

「陛下、これは単なる魔力異常ではございません」

 首席宮廷魔導士が、額に冷汗を浮かべながら報告する。

「旧魔王城が存在した大陸中央部。あそこで特異点が封印されたことは皆様もご存知の通りです。しかし、その強大すぎる浄化の光と、地下深くに根を張っていた魔王の瘴気の残滓が反発し合い、巨大な『地下変異ダンジョン』として地脈を伝い、じわりじわりと世界各地へその根を伸ばしているのです。そして今、その最も太い根の一つが、我がゼルディアの西国境、魔導都市アークスの地下に到達しようとしております」

「アークスだと!? あそこは我が国の魔導具生産の要ではないか! なぜもっと早く気づかなかった!」

「申し訳ございません! 変異の進行が地中深く、しかも微弱な瘴気を少しずつ漏らしながら進んでいたため、我が国の旧式な魔力探知網では感知が遅れました。すでにアークス周辺の野生の魔物たちは、変異したクリスタル状の瘴気に侵され、凶暴化して地上へ溢れ出しております!」

 円卓会議室に絶望の空気が漂う。

 ゼルディアは魔法技術に優れているが、それはあくまで『体系化された攻撃魔法』や『魔導具の生産』においてである。大地そのものを蝕む瘴気や、変異ダンジョンのような規格外の脅威に対するノウハウは持っていない。

「……アシュタル辺境国、いや、『絆紋公国』に救援を要請するしかない」

 国王が絞り出すように言うと、一部の保守派の貴族たちが顔をしかめた。

「陛下! 歴史ある魔法大国が、新興の公国、それも平民や魔物の集まりに頭を下げるなど、国の威信に関わります!」

「馬鹿者! 威信で国が守れるか! 現にファルビア騎士団も彼らの軍門に降り、領土を救われているのだぞ! 早急に使者を送れ!」

 しかし、ゼルディアの首脳陣がそうやって議論を交わしている間にも、国境の魔導都市アークスでは、すでに未曾有の危機が現実のものとなろうとしていた。

迫り来る変異と、見捨てられた魔導士

 魔導都市アークスの西側に広がる平原。

 かつては美しい緑が広がっていたその場所は、今や地面から無数の紫色の水晶が突き出し、毒々しい瘴気を放つ『変異結晶の荒野』へと姿を変えていた。

 そして、その結晶の森から、瘴気に当てられて理性を失い、身体の一部が鋭利なクリスタルに変異した魔物たちが、都市の防衛壁へ向かって押し寄せている。

「防衛結界、出力低下! このままでは突破されます!」

「攻撃魔法が効かないぞ! 奴らの結晶装甲で全て反射される!」

 城壁の上で、アークスの防衛魔導士たちが絶望的な叫びを上げていた。

 そんな中、防衛線の最前線、結界の外側で孤軍奮闘している一人の若い女性の姿があった。

 彼女の名前は『セリア』。

 ゼルディアの魔導学院を首席で卒業するほどの天才的な魔法の才能を持ちながら、「既存の攻撃魔法だけでなく、魔物との対話や自然環境との調和を研究すべきだ」という異端の論文を発表したことで、保守的な学会から危険視され、この辺境の都市へ左遷されていた若き魔導士である。

「お願い、下がって! あなたたちも苦しいはずよ!」

 セリアは杖を振るい、攻撃魔法ではなく、魔物たちの足元を泥沼に変えて進行を遅らせる『遅延魔法』と、瘴気を中和しようとする『浄化の結界』を必死に張り続けていた。

 彼女の目には、襲い掛かってくる魔物たちが、単なる怪物ではなく、地下から湧き出した変異瘴気に無理やり操られ、痛みと混乱の中で暴走させられている被害者であることが見え透いていたからだ。

「セリア! 馬鹿な真似はやめて戻ってこい! 死ぬ気か!」

 城壁の上から上官が叫ぶが、彼女は首を横に振った。

「私が結界を解けば、魔物たちも都市の人々も終わりです! なんとかして、この瘴気の根源を絶たないと……!」

 だが、セリアの孤独な抵抗も限界に近づいていた。

 変異結晶の荒野の奥から、地響きを立てて現れたのは、通常の数倍の大きさを誇る四匹の変異魔物だった。

 全身が紫色の鋭い水晶で覆われた巨大なゴーレム――『変異晶の巨兵クリスタル・ミュータント』。

 瘴気の毒を撒き散らす巨大な蝙蝠――『腐毒の魔蝙蝠ポイズン・バット』。

 地面から無限に毒の蔓を伸ばす植物の魔物――『狂乱の毒蔓マッド・ヴァイン』。

 影の中から現れ、鋭い結晶の牙を剥く黒豹――『結晶影のクリスタル・シャドウ』。

「グルォォォォォォッ!!」

 変異晶の巨兵が、セリアの張った浄化の結界を巨大な拳で軽々と粉砕した。

「あっ……!」

 魔力切れを起こし、膝をつくセリア。

 狂乱の毒蔓が彼女の足首を捕らえ、腐毒の魔蝙蝠が上空から毒液を吐き出し、結晶影の豹が喉元に食らいつこうと跳躍する。

(これまでなの……? 私の魔法じゃ、誰も……魔物たちすら救えない……)

 セリアが絶望し、静かに目を閉じた。

 その瞬間だった。

「諦めるな。君のその優しい意志は、俺たちが絶対に無駄にはしない」

 天空から、一筋の翠色の閃光が降り注いだ。

降臨する調和の光と、絆の蹂躙

 ズガァァァァァァァァァンッ!!!!

 大地を揺るがす凄まじい衝撃と共に、セリアの目の前に降り立ったのは、白銀の毛並みを輝かせる巨大なウルフ、純白のラビット、そして空色の小竜。

 その中心には、右手の甲に眩いばかりの『絆紋』を輝かせ、長剣を構えた黒髪の青年――絆紋公王レインの姿があった。

「な、なんだ貴様らは!?」

 城壁の上のゼルディア魔導士たちが驚愕する。

「ウォォォンッ!!」

 銀色のウルフ、フェルが天に向かって遠吠えを上げると、空から極太の雷光が降り注ぎ、上空の腐毒の魔蝙蝠たちを瞬時に黒焦げにして地面に叩き落とした。

「キュイッ!!」

 ポーションラビットのピコが目にも留まらぬ速さで地を蹴り、セリアの足を縛っていた毒蔓を浄化の蹴りで粉砕する。

「きゅるるーっ!!」

 空色小竜のソラが、神聖なブレスを周囲に放射し、セリアの肺を犯しかけていた瘴気を一瞬で中和した。

「遅くなってすまない。シオンの隠密部隊から情報を受けて、空間転移で飛んできた。よく一人で持ち堪えたな」

 レインが振り返り、セリアに優しく微笑みかける。

「あ、あなたは……絆紋公王、レイン様……!? どうして他国のこんな辺境に……!」

「困っている人がいれば助ける。それが俺たちのやり方だ。それに、君のように魔物を思いやれる人間を見捨てるわけにはいかないからな」

 そこへ、上空の空間が歪み、さらなる援軍が降り立った。

「ガハハ! アタシらの出番を残しておいておくれよ!」

 巨大な戦斧を担いだ女戦士アイラが、豪快に笑いながら着地する。

「ええ。こんな辺境まで出向いたのです。存分に魔法の実験……いえ、お掃除をさせていただきますわ」

 少女魔導士のルウが、炎の杖を構えて冷ややかに微笑む。

「我が剣の前に、理を外れた変異など無意味です」

 剣聖シルヴィアが静かに愛剣を抜いた。

「よし、みんな! あの変異した魔物たちの核を浄化し、地下の変異ダンジョンの根を完全に断ち切るぞ!」

「「「オオォォォォォッ!!」」」

 反撃の狼煙が上がった。

「『極大旋風・星砕き』!!」

 アイラの戦斧が巻き起こす超質量の竜巻が、襲い来る変異魔物の群れをまとめて空高く巻き上げ、城壁から遠ざける。

「燃え尽きなさい!『超新星爆発スーパーノヴァ・バースト』!!」

 ルウの放つ擬似太陽の業火が、変異結晶の荒野そのものを焼き尽くし、結晶化して反射能力を持っていたはずの魔物たちを、その耐性を超える絶対的な火力でドロドロに溶かし尽くす。

「『神速・絶空の剣』」

 シルヴィアの神速の剣閃が、巨大な変異晶の巨兵の関節と、背後に隠れていた結晶影の豹の動きを完璧に見切り、その動きを完全に封じ込めた。

「す、すごい……! ゼルディアの全魔導士が束になっても敵わなかった変異の群れを、たった数人で……これが、絆紋公国の力……!」

 セリアが、圧倒的な戦闘を前に言葉を失って震える。

極限浄化と、解放される命たち

「フェル、ピコ、ソラ! ボス級の四匹を抑えろ! 俺が直接浄化する!」

「ウォォォンッ!」「キュイッ!」「きゅるるーっ!」

 フェルの雷撃が巨兵を痺れさせ、ピコが毒蔓の動きを封じ、ソラが蝙蝠と豹の瘴気を吹き飛ばす。

 その完璧な連携によって生み出された一瞬の隙を突き、レインは地面を蹴った。

 彼の右手の甲の『絆紋』が、これまでで最も強く、眩く、そして優しく輝き始める。

「地下から這い出た変異の呪縛……俺が全て、調和させてやる!」

 ズバァァァァァァァァァァァンッ!!!!

 レインの両手から放たれた翠色の極限浄化の光が、変異晶の巨兵、腐毒の魔蝙蝠、狂乱の毒蔓、結晶影の豹、そして彼らの背後に広がる変異結晶の荒野全体を包み込んだ。

 紫色の毒々しい瘴気が、光の波紋によって洗われ、徐々に透明で美しい純粋な自然の魔力へと還元されていく。地下深くから伸びていた変異ダンジョンの『根』も、この圧倒的な浄化の光によって完全に消滅し、大地は元の豊かな緑を取り戻し始めた。

 そして、狂わされていた四匹の魔物たちの体からも変異したクリスタルが崩れ落ち、本来の美しく気高い姿へと戻っていった。

 変異晶の巨兵は、澄み切った清らかな魔力で構成された『オーラ・ゴーレム』へと変化した。

 腐毒の魔蝙蝠は、美しい七色の羽を持つ『プリズム・バット』へと生まれ変わった。

 狂乱の毒蔓は、生命力に溢れる豊かな緑の蔓を持つ『マナ・ヴァイン』として蘇った。

 結晶影の豹は、闇を払い光を纏う神々しい『ルミナス・パンサー』へと姿を変えた。

(……あたたかい。痛みが、消えた……。狂っていた心が、穏やかになっていく……。お前が、私たちを助けてくれたのか?)

 オーラ・ゴーレムから、重厚でありながらも温かい思念が伝わってくる。

「ああ。俺はレイン。地下の瘴気に当てられて、苦しかったな。でも、もう大丈夫だ」

 レインが微笑みながらゴーレムの光り輝く体を撫でると、彼は深く安堵したようにその場に座り込み、レインの手に顔をすり寄せてきた。プリズム・バットもふわりと降りてきてレインの肩に留まり、マナ・ヴァインは嬉しそうにレインの足元に柔らかな葉を伸ばし、ルミナス・パンサーは喉を鳴らして甘えてきた。

「ウォンッ♪」「キュイッ♪」「きゅるるーっ♪」

 フェルやピコたちも近寄り、新しい仲間を優しく迎え入れる。

「もしよかったら、俺たちの家族にならないか? うちには、お前たちのように優しくて、一緒に遊んでくれる仲間がたくさんいる。お前たちの力があれば、もっとたくさんの人を笑顔にできるはずだ」

 レインの誘いに、四匹の魔物は嬉しそうに大きく頷いた。

「よし。ゴーレムのお前は『オーラ』だ。蝙蝠は『プリス』。蔓は『ビニィ』。豹は『ルミナ』だ。今日からよろしくな、みんな!」

「ゴゴゴッ♪」

「キィィッ♪」

「シャララッ♪」

「グルルッ♪」

 新たなる家族、オーラ、プリス、ビニィ、ルミナを迎え入れたレインは、呆然と立ち尽くしているセリアに向き直った。

「セリア。君のその魔法理論……魔物と対話し、自然と調和しようとする心は、魔法大国の古い常識には収まりきらない素晴らしいものだ」

 レインは手を差し出し、真っ直ぐに彼女の目を見つめた。

「……どうだろう、アシュタルへ来て、俺たちの仲間にならないか? うちには、君の才能を正しく評価し、共に新しい魔法を研究できるルウや、たくさんの仲間たちがいる。君には、『公国直属・自然調和魔法開発局』の責任者として、この世界の未来を創ってほしい」

 レインの誘いに、セリアは信じられないものを見るように目を瞬かせ、そして、これまで誰にも認められなかった孤独から解放された喜びに、大粒の涙をこぼした。

「はいっ……! 私のような異端の魔導士でよければ、この命と魔法の全てを、レイン様と絆紋公国のために捧げます!」

 こうして、自然調和の天才魔導士セリアという逸材が、新たな人間の仲間として陣営に加わったのである。

魔法大国の驚愕と、広がりゆく調和の輪

 その夜。

 ゼルディアの王都では、魔導都市アークスからの信じられない報告に、国王と首脳陣が言葉を失っていた。

「国境を覆い尽くそうとしていた変異ダンジョンの根が……たった数名の絆紋公国の者たちによって、完全に浄化されただと……!?」

「はい……。さらに、我が国が追放同然に辺境へ送っていたセリアが、彼らに見出され、歓喜の涙と共にアシュタルへと迎え入れられたとのことです……」

 ゼルディア国王は深く天を仰ぎ、己の国の慢心と、絆紋公国の底知れぬ器の大きさを思い知らされることとなった。彼らが正式に絆紋公国へ同盟の使者を送るのは、この数日後のことである。

 一方、アシュタルの領主の館の中庭では、セリアの歓迎会と、新しく加わったオーラたちの加入を祝う、賑やかな宴が開かれていた。

 セリアはさっそく、ルウや古代ホムンクルスのセブンたちと、自然魔力と魔法の融合について熱く語り合い、記録の妖精メモや記憶の水晶亀カメオたちも興奮気味に記録を取っている。

 魔物たちも、新しく加わったオーラ・ゴーレムのオーラが岩砕の巨獣ダグと背比べをし、プリズム・バットのプリスが月光の梟ツキと一緒に夜空を舞い、マナ・ヴァインのビニィが子供たちに美しい花を咲かせて見せ、ルミナス・パンサーのルミナが幻影の黒豹クロと楽しそうにじゃれ合っていた。

「ガハハ! お高くとまった魔法大国の連中も、これで少しは目が覚めたんじゃないかね! アタシらの『絆』の力は、どんな魔法よりも強いんだからね!」

 アイラが樽ジョッキでエールを煽りながら大笑いする。

「ええ。セリアの調和魔法が加われば、私たちの研究はさらに飛躍しますわ。力でねじ伏せるのではなく、包み込む魔法。それが絆紋公国の新たな力となるでしょう」

 ルウが優しく微笑み、シルヴィアも深く頷いた。

「ウォンッ!」「キュイッ!」「きゅるるーっ!」

 フェル、ピコ、ソラがレインの膝の上に飛び乗り、顔をすり寄せてくる。

 彼らの温もりを感じながら、レインは満天の星空と、笑顔に溢れる家族たちを見渡した。

 世界に広がりゆく変異ダンジョンの歪みも、古い価値観に縛られた大国の憂鬱も。

 全ての人と魔物が笑って暮らせる世界を築き上げるためならば、何度でもその壁を越えてみせる。

 天才魔導士セリアと、新たなる魔物の家族たち。

 絆紋公王レインと仲間たちの果てしなき救済と開拓の旅は、明日もまた、この星をどこまでも温かく、そして優しく照らし続けるのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作もよろしく(*´∀`)ノ

しがらみだらけの人生に疲れたので、記憶を消して無人境へ転生します〜無限魔力の【万能創造】で理想の拠点を作ってたら、最強の魔獣たちが勝手に懐いて最高の家族になりました〜

https://ncode.syosetu.com/n3777mp/

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