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第三章 帝国の追撃――覚醒した魔王

燃え尽きたはずの夜。


だが――それは始まりに過ぎなかった。


帝国が動く。

魔王が目覚める。


そして一人の少女が、

世界の均衡を壊し始める。


これは――

まだ誰も知らない、最初の一歩。

夜。帝国辺境――観測塔。


塔の内部に灯りはない。

空間は、完全な闇に沈んでいる。


ただ一つ。


中央に浮かぶ水晶だけが、光を放っていた。


水晶は、ゆっくりと回転している。

淡い青の光が、その表面を流れていた。


まるで血液のように。

あるいは――呼吸のように。


――――嗡。


低く、重たい振動が空間に広がる。

それは音ではない。


「何か」が、目を覚まそうとしている気配。


次の瞬間。


水晶が――「目」を開いた。


光が収束し、一点へと集まる。

それは、まるで瞳孔のようだった。


映像が浮かび上がる。


炎。夜。崩れ落ちる建物。


そして――少女。


紅い髪。ツインテール。

足元から炎を広げ、兵士たちを薙ぎ倒していく。


それは戦闘ではない。


――破壊だった。


「……反応、確認」


観測台の前に立つ術士が、低く呟く。


「魔力密度、異常上昇。

 型は不安定……だが、強度は――」


言葉を止める。


視線は、水晶から外れない。


「――人間の範囲を超えています。

 レオン隊長、確認を」


術士が振り返る。


足音が響く。

焦りも、躊躇もない。


金髪の男が歩み寄る。

彼は何も問わず、水晶の映像を一瞥した。


炎。少女。死。


それだけを見て。


「方角は?」


声は、驚くほど平坦だった。


術士は眉を寄せる。


「正確な位置は特定できません。

 ただ――この一帯としか」


男は、もう水晶を見ていなかった。


「十分だ」


振り返る。


迷いはない。


「第六師団に通達。

 小隊を派遣し、先行調査」


一拍置いて。


「目標の生死を確認しろ」


「了解」


男はそのまま歩き去る。


感情はない。

ためらいもない。


それは、まるで人ではなく――任務だった。


水晶の中では、炎が燃え続けている。


その中心に立つ少女は――

まるで、この世界を見返しているかのようだった。


莉は、目を覚ました。


ゆっくりと瞼を開く。


そこは森だった。

高く伸びた木々。湿った土の匂い。

葉の隙間から差し込む光。


孤児院が焼かれてから、三日。


だが――その間の記憶は、曖昧だった。


帝国軍が押し入り、宝石を奪おうとしたこと。

自分の無力さを思い知らされたこと。


そして――


「力をくれ」


そう願ったことだけは、覚えている。


それ以降は、ほとんど思い出せない。


そのとき。


声が、響いた。


「目覚めたか」


莉は眉をひそめる。


周囲には、風と木々の音しかない。

だが、その声は確かに――頭の中で響いていた。


「この三日……何があったの?」


低く問う。


声は、淡々と答える。


「孤児院を離れた後、南へ移動。

 複数の戦闘を経て、すべて勝利」


「だが、お前の身体は我が力に適応していない。

 最後の戦闘後、力尽きて倒れた」


言葉とともに、記憶が蘇る。


森。逃走。戦闘。


そして――狼。


八体の魔狼。


灰黒の毛皮。赤い眼。刃のような牙。


包囲される。


だが莉は、退かなかった。


踏み込む。


閃光。


気づけば、全てが終わっていた。


死体の中に立つ自分。

荒い呼吸。血の匂い。


両手には、二振りの刃。

大鋏から分離した武器。


そして――さらに奥へ。


樹影獣。


擬態。拘束。捕食。


三体。


莉は止まらない。


跳躍。


刃が一つに戻る。


炎。


三つに分裂。


轟音。


焼却。


それでも終わらない。


現れる巨体。


腐骨の鹿。


二階建ての高さ。

腐敗と骨の混在。


突進。


衝突寸前。


――放つ。


炎の矢。


貫通。


燃焼。


崩壊。


勝利。


だが。


身体が、限界だった。


視界が歪む。


そして――


倒れた。


「……つまり、私は」


「三日間、眠っていた?」


「そうだ」


声が答える。


「周囲の魔物は、我の威圧で近寄らなかった」


莉は黙ったまま歩き出す。


やがて森を抜け、水辺に出る。


水面に映る、自分の姿。


蒼白な顔。


そして――赤い瞳。


炎のように揺れていた。


胸元に手を当てる。


刻まれた紋章。


王冠。炎。五芒星。


「……あなたは、何?」


「言ったはずだ」


声が応じる。


「我が名は――イグニール。

 焚界の魔王」


莉は、わずかに沈黙した。


「魔王……?」


「人間は忘れたか」


声は、低く響く。


「かつてこの世界は、魔王の時代だった」


七つの力。七人の支配者。


争い。


破滅。


そして――封印。


「我らは死んでいない」


「ただ、器を変えただけだ」


莉は、掌の宝石を見つめた。


そのとき――場面は、森の別の場所へと切り替わる。


開けた空地。

そこには、臨時の野営地が築かれていた。


銀の鎧を身にまとった兵士たちが巡回し、

焚き火の炎が、周囲の天幕を照らしている。


帝国軍前線基地。

およそ三十名の兵が駐屯し、数名の魔導士の姿もあった。


そのとき――


「報告!」


一人の兵士が、主天幕へ駆け込む。


「第六師団の小隊……連絡途絶! 所在不明です!」


天幕の中。


地図を前に立つ、一人の男。


短い金髪。

黒の鎧。腰には黒剣。


背筋はまっすぐに伸び、微動だにしない。


その佇まいだけで分かる。

――ただの兵ではない。


空気が、重く沈む。


誰も顔を上げない。


男は、すぐには答えなかった。


だが――その沈黙こそが、圧だった。


やがて、口を開く。


「……魔王、か」


声は、静かだった。


「覚醒した可能性が高い」


周囲を一瞥する。


「全隊、出発。森の奥へ進軍」


迷いはない。


それが、命令だった。


一方――


莉は、水辺に座っていた。


足を組み、目を閉じる。

意識を内へと向ける。


脳裏に響く声。


「体内の力を感じろ」


「流れに任せろ」


「そして形を与えろ」


「我が炎は――使うほどに強くなる」


呼吸を整える。


ゆっくりと。


そのとき。


胸元の紋章が――熱を帯びた。


皮膚の内側で、火が灯るような感覚。


体温が、上がる。


空気が歪む。


水面が――沸騰する。


ぶくり、と泡が立ち始める。


池の魚が、次々と浮かび上がる。


――死んでいた。


同時刻。


森の別の場所。


兵士が、狼の死骸を調べていた。


焼け焦げた毛皮に触れた瞬間――


顔色が変わる。


「……これは」


すぐに立ち上がり、後方へ走る。


「報告!」


黒鎧の男――レオンの前で敬礼。


「魔獣の死体に、焼却痕を確認!」


別の兵も叫ぶ。


「こちらも同様です!」


レオンは馬上から降りることなく進む。


やがて、大きな骸骨の前で止まる。


頭部は貫かれ、全身が焼かれている。


しばし沈黙。


そして――


「進め」


短く言う。


「標的は、近い」


帝国軍は進軍を続ける。


森を抜ける。


視界が開けた。


断崖。


その下――


水辺に、少女。


レオンが手を上げる。


弓兵たちが並ぶ。


弦を引く。


――一斉射。


その瞬間。


莉の目が開いた。


本能が警告する。


跳躍。


炎が手に宿る。


弓が形成される。


三本の矢。


放つ。


空中で変形。


炎の鳥へ。


さらに分裂。


数十羽。


弓兵へと襲いかかる。


炎が弓を焼き、身体を呑む。


悲鳴。


逃走。


そして――静寂。


レオンは、動かない。


ただ見ている。


「全軍、突撃」


「数で押せ」


「逃がすな」


「魔王なら――殺して構わん」


兵士たちが一斉に動く。


崖を飛び降り、突進する。


その瞬間――


深紅の大鋏が、現れる。


莉が踏み込む。


一閃。


五人が倒れる。


血が舞う。


槍が迫る。


跳躍。


落下。


貫通。


即死。


巨漢が現れる。


戦斧を振り上げる。


叩きつける。


莉は双剣で受ける。


激突。


音が響く。


巨漢が驚愕する。


弾き返される。


炎。


拳。


――直撃。


轟音。


吹き飛ぶ。


戦闘不能。


「魔導士!」


レオンの命令。


詠唱。


水弾。


五発。


炎壁。


蒸発。


爆裂。


火球の雨。


全滅。


盾兵、前進。


槍、投擲。


炎、爆発。


龍、顕現。


衝突。


盾が溶ける。


焼却。


静寂。


レオンが、歩く。


ゆっくりと。


剣を抜く。


莉の前に立つ。


「予想以上だな」


微笑。


「魔王か」


「試してみる」


衝突。


刃。


衝撃。


防御。


反撃。


蹴り。


吹き飛ぶ。


叩きつけられる。


呼吸が乱れる。


炎。


無効。


笑う。


「その程度か」


――圧倒。


拳。


直撃。


飛ぶ。


壁に叩きつけられる。


立てない。


死。


その気配。


声が響く。


「力の使い方が違う」


「流れを感じろ」


「全身に巡らせろ」


目を閉じる。


呼吸。


集中。


熱。


爆発。


収束。


纏う。


消える。


出現。


背後。


斬撃。


衝撃。


炎。


変質。


白を帯びる。


龍。


回避。


再出現。


刺突。


爆発。


レオン、吹き飛ぶ。


鎧が溶ける。


水中へ。


決着。


静寂。


莉は座り込む。


荒い呼吸。


立ち上がる。


近づく。


触れる。


記憶が流れ込む。


帝国。


戦争。


魔王。


真実。


「興味がない」


莉は言う。


「私は……守りたいだけ」


声が笑う。


「力なくしては守れぬ」


沈黙。


理解。


レオンが、最後に言う。


「帝国は……お前を追う」


――絶命。


莉は立つ。


森へ向かう。


新たな旅が、始まる。

ここまでありがとうございます!


今回ついに莉が本格的に戦闘に入りましたが、

まだまだ「本気」ではありません。


そして――帝国はこれで終わりではありません。


むしろ、ここからが本番です。


次回はさらに強敵、

そして世界の裏側が少しずつ明かされていきます。


気になる方は、ぜひ次話も読んでいただけると嬉しいです!

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