4.出会いと再会と―4
一〇〇式司令部偵察機と言う。
双発複座の戦略偵察機で、設計・製造共にスリーダイヤモンドの三菱重工業。
日本国防空軍が皇紀二七〇〇年(西暦二〇四〇年)に制式機として採用した、世界でも一、二を争う超高性能の、バリバリまっさら、染みひとつない最新鋭機。
そして、萩田中佐が指摘した通り、この基地でテストプログラムに従事するよう俺が命令された飛行機でもある。
が、敢えて!
敢えて言わせてもらうなら、俺の一〇〇式は、そんじょそこらの一〇〇式じゃない――そう付け加えさせていただきたい。
何故なら、俺が今いるこの基地は、ハイテク兵器の実験場であるからだ。
要するに、いくら最新鋭だろうと、既に実戦配備されてる兵器は対象外。
だから、俺が搭乗するのは一〇〇式であって一〇〇式じゃない。
現用の一型ではないし、エンジンを換装・強化する予定の二型でもない。
俺の相棒(な筈)の美少女とはじめて接触し、
今は、かつての上官な鬼と並んで立っている、
――その傍らに、ぬっと聳える格納庫。
そこに格納されている機体こそ俺の一〇〇式。
ってか、一〇〇式の『後継機』となるだろう機体。
言うなら、試験機をつくるための叩き台ってところか。
……だからか、作業がぜんぜん進まないんだけどな……。
ま、まぁ、日本国防空軍にパイロットはごまんといても、次代をになう機体の飛行を任されたのはこの俺ひとり、って栄誉と引き替えだから、まだしもガマンもできるんだが。
とまれ、
いかにも『真夏!』&『南国!』という感じにギラつく太陽――その陽射しの強烈さもあって、逆に影の部分はいよいよ暗く、格納庫の中はほとんど真っ暗。文目もつかぬ闇にかぐろく埋まり、沈みこんでいる。
俺の一〇〇式も、だから、陽の光のとどく機首だけがかろうじて目にできる程度で機体のほとんどは視認、判別さえ出来ない。
「ちょ、ちょっとお待ち下さいね」
そういうワケで、俺は中佐にことわりを入れると格納庫の中に数歩立ち入った。
入り口のすぐ脇にある照明のスイッチをONにする。
中佐のもとを離れて以降――現在、俺がなにをやっているのかと、それから、俺の一〇〇式を自慢したい衝動を抑えきれなかったと指摘されれば、それは確かにその通り。
間髪入れずに灯った照明――太陽の光とは違う、冷たい明かりが格納庫内を煌々と照らす。
そして、
一瞬にしてかき消えた『闇』が一点に凝り、収斂したかのような漆黒の機体がそこに姿をあらわしたのだった。
全面をツヤ消しの黒……、いや、いっそ『闇色』とでも言うべきだろうか――光を反射させない域を通り越し、吸収してるんじゃないかと思える程に、立体感を奪う塗装をほどこされてある機体。
毎度ではあるが、こうして間近に接するたびにウットリ見惚れてしまう、この世にオンリーワンな次世代機。
俺の一〇〇式……。
が、
「フン……!」
そんな一種、陶然とした空気は、しかし、俺の後から格納庫内に立ち入ってきた中佐が発した無粋な鼻息によって消し飛ばされた。
あまつさえ、
「まるで無人機だな」
誹謗でしかない雑言をこの耳のなかに吹き込まれまでした。
(は……?)
思わず、と言うべきだろうか――ほぼ反射のレベルで、カッ! と頭に血が昇った。
(は……? コイツ、今、なんて言った?――ドローン? 俺の一〇〇式を言うに事欠いて、ドローンだと!?)
『トップエース』、『鬼』、『(昔の)上官』――すべて関係なかった。
『ふざけるな!』――全身の血液が沸騰し、逆流する感じでそう思った。
いい歳をして、子供みたい?――そうかも知れない。
でも、俺の一〇〇式――俺の宝物を、ただ一瞥しただけの野郎にくさされたのが、どうにもガマンならなかった。
……中佐が、俺の一〇〇式を無人機呼ばわりした理由はわかる。
即断即決、一発回答。
ことさら推理をめぐらす必要もない。
俺の一〇〇式には操縦席が無い――一見しただけでは、そう取られかねない外観であるからだ。
だから、中佐は俺の一〇〇式がドローン――無線操縦、もしくはAI操縦式の無人機に違いないと勘違いしてしまったんだろう。
甘い。
そして、時代遅れに古臭い。
たしかに俺の一〇〇式には透明風防におおわれたコクピットは無い……ように見える。
これは、ひとつは空力加熱対策。
戦闘機には空戦性能、輸送機には積載量の優れていることが要求されるのと同様、偵察機には何を置いてもまず速力が求められる。
現状、普通の一〇〇式をふくめた一線級の偵察機で最大速度はマッハ七~八内外とされているが、俺の一〇〇式ではこれが一気に跳ね上がり、目標とされているのはマッハ二〇オーバーだ。
この数字を聞いてピンときたなら、かなりに造詣が深いと言っていいと思う。
そう。それは宇宙往還機が発揮するべきスピードだから。
つまり、俺の一〇〇式は、単段式の宇宙往還機だとも……、と、あわわ……、こっから先はさすがに機密とまではいかなくっても、軽々に口にすべきじゃない、か。
ま、これはオフレコ――聞かなかったことにしといてほしい。
で、
ふたつ目として挙げられるのが〈アルゴス〉――『全方位走査・追跡・警戒統合知覚装置』の開発と、その搭載を俺の一〇〇式はおこなったことだ。
と言うよりも、鶏が先か卵が先か的な議論はあろうが、極論、この装置の登場によって、俺の一〇〇式は次世代機として成立したと言えるだろう。
開発計画の胆という事だ。
ま、とにもかくにも、そうした未来志向な俺の一〇〇式の真価に気づきもしないで、中佐は、『まるでドローンだな』などと宣った。
つまりは、老兵ゆえに技術の革新についていけなくなっているんだろう。
ならば、一瞬(?)、さすがにカチンとはきたけれど、そういう事なら、『哀れよなぁ』とガマンもできるし、するべきだ。(後でコッソリ)中指たてる程度で勘弁してやろう。
ウンウン、俺もずいぶん大人になった――そんな感じで自分の成長ぶりにホッコリしてたら、当の中佐が、くっくっく……と、またぞろ不気味に含み笑いをしはじめた。
愉快でたまらない――そう言わんばかりの笑みをうかべて俺の顔をまなざしてきた。
「いずれ、どういうかたちでお前があの機体をあやつるのかは知らん」
そう言いながら、俺の肩をずしんと再び握ってきた。
「知らんが、それはどうでもいい」
ぐいと顔を近づけ、囁くように、
「肝心なのは、お前が開発に関わっているあの機体の(と、再び俺の一〇〇式の方に顎をしゃくってみせた)実用飛行試験のプログラムには模擬空戦も予定されているという事だ――もちろん知っているな?」
「は、はぁ」
俺は曖昧に頷いてみせる。
確かに渡された資料にはそんな記載もあったにはあった――それがいつになるか皆目見当も付かないから、半分(以上?)忘れてたけど。
「何ともおこがましい話だが、そのお相手は俺たちだ。俺の部隊がお前のあやつるドローンの相手を務めさせていただくよ」
よろしくな――そんな感じに、ひときわ強く、俺の肩をグッと握ると突き飛ばすように放した。
思わずよろめき、たたらを踏んだ俺にむかって、昔、さんざん拝まされた、獲物を前にした鮫そのままに、顔中を口にする表情を見せると、踵をめぐらし、去って行った。
要するに、一〇〇式の事に話題をふったのも、その事を直接俺に伝えたかったという事らしい。
(が~~ん……!!)




