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『PAX UNIVERSALIS 2041/蒼の序曲』  作者: 幸塚良寛
一章 ONE DAY/霹靂は晴天に轟く
3/5

2.出会いと再会と―2

「なんだい、ありゃあ……」

 知らず、俺はそう呟いている。

 我が事ながら、どこか呆然とした響きの声だった。

 視線の先に、もう少女の姿はない。

「新橋愛、伍長、かぁ……」

 脳天といわず、全身を(あぶ)る暑熱を感じながら、また呟いた。

 寒いのはともかく熱さによわい身としては、南国特有の陽射しはかなりこたえる。

 とりあえず、熱さを避けようと、俺は格納庫の影に避難した。

 そして、もう何度目かの溜息をつく。

 初対面だった。

 期待もしてた。

 でも……、

 実際に会ったら意味不明な……、不思議ちゃんかと思えるような言葉を寄こし、なんの余韻もないまま去って行った。

 は……?

 まさしく『は……?』だ。

 ホントのホントでワケわからん。

 いや、もちろん俺も最低だった。

 大人としてあるまじき事をした。

 でもなぁ……、

「なんだい、ありゃあ……」

 おなじ文句が、何度も口をついて出る。

 ガラス玉のような無機質な()

 綺麗ではあるが表情の無い顔。

 感情の欠落した――年頃の娘らしからぬ所作。

 まるで機械人形――人の形をした何かだった。

 あれが演技だったら、まだ納得もできたろう。

 でも、

 俺は直観した――あれは真実、『素』なんだと。

 厨二病ってか、お年頃の子供が自分自身に設定つけて、ブッてみせる――人生の後の時点で、なにかの拍子にのたうちまわってしまいたくなる黒歴史的なヤツじゃない。

 周囲の見る目がなんとも生温かいものになる――『いかにも』かつ『よくある』若さ故のアヤマチ、自意識過剰大暴走な結果としての『ポーズ』なんかじゃけしてない。

 そこらの占いよりもよく当たるって評判の、俺の直観がそう囁いたんだ。

「まったくなぁ……」

 俺は頭を掻いた。

 なんか、もぉ、溜息しか出ない。

「あの()が俺の相棒(RSO)かぁ……」

 先が思いやられる気分で呟いた。

 俺の名前は(しの)(のめ)(あい)

 皇紀二六七七年(西暦二○一七年)生まれで、当年とって二四歳。

 日本国防空軍の少尉で、()()()()パイロットだ。

 ただし(ご期待には沿えないかもしれないが)戦闘機乗りではなく偵察機乗り。

 この道四年の、まァ、ヴェテランだ。

 え? なに? まだ若造のクセして自分を盛ろうとすンなって?

 いや、はは……。俺、じつは(ドミ)(トリ)あがりでヒコーキには()()の頃から乗ってたしさ、中東動乱なんかにも駆り出されたし、おかげで、ってか、実戦経験も飛行時間もそれなりなんだわ。

 まぁ、自慢にもならない事だけどねぇ……。

 と、それはさておき、

 そんな俺なんだけど、今現在は、身分的にチと宙ぶらりんで、実戦部隊からは完全に外れちまった状態にある。

 仮配属の扱いで、教導航空軍の航空実験隊に一時的に転属させられ、指定された空軍基地にて技術廠スタッフの指示に従い、実験機のテストに協力せよ、とのお達しをうけているからだ。

 仮で、臨時で、員数外……。

 軍隊の指揮系統上での俺の立ち位置は、つまりはそーゆー事になる。

 は……?

 なにそれ?

 要はリストラ要員ってことですかい?

 俺が、そう勘ぐったところでそれは仕方がないってか、むしろ当然だって思うんだ。

 兵隊ってのは、言うなら軍隊の従業員ってことだろ?

 だったら、いくら理不尽の代名詞な軍隊だっても、その取り扱いには少しばかりの気配りがあっても(しか)るべきだよなぁ?

 ところがそれがまったく無い!

 証拠に、指折りかぞえて例をあげれば、だ。

 まず第一に、飛行機が無い。(厳密にいえば、機体はあるが、飛行可能な状態にない)

 いきなりクラクラ目眩(めまい)がするだろ、この事実。

 だいたい肝心要の試験するべき機体が動かせなけりゃ、どうにも仕様がないじゃあないか。

 第二に、それでもブラブラ怠けてらンない。

 やれトレーニングだ、やれブリーフィングだと、やたらめったら呼び出しを喰らって……、そもそもの本番(テスト)が出来ない現状なのに、打ち合わせばっかやったところでそれが何になるってンだ、馬鹿野郎!

 くわえて第三、どーにも秘密が多すぎる!

 要するに、俺が今いるこの基地は、実は我が国防空軍最先端のハイテク兵器実験施設なワケなんだ。

 だもんで、そーゆー飛行機、そーゆー人間、そーゆー任務がワンサとあって、マル秘や極秘にゃ事欠かず、外出はおろか、外部との連絡ひとつ自由にゃできない、な~んて馬鹿馬鹿しい制約(きそく)があるわけよ。

 そして、とどめがあの女の子だろ……。

 ハッキリ言って三週間の遅れなんだぜ、偵察()システム()士官()のあの娘が着任したのはさ。

 偵察機ってのは、パイロットとRSO――二人で運用されるから、実験隊の司令にその(むね)いわれて、正直、俺は嬉しかったよ。

 だって、ウンザリ&退屈しまくってたもん。

 仲間ができりゃあ、それも少しは違うじゃないか。

 司令から指定をされた待ち合わせ場所が飛行機格納庫の前って事も手伝って、俺はダッシュでここまでやって来たんだ、ホントだぜ。(待ち合わせの時間に少々おくれてたからという噂もあるが)

 ところがどっこい、このザマだ。愚痴るつもりは()()けれど、なんぼなんでもグレちゃうぜ。

 と、閑話休題。

 自己紹介を続けよう。

 パッと見、俺は、(自分で言うのも何ではあるが)お調子者でワガママで、いーかげんなうえ面倒くさがりの女好きと、けっこうイイ性格をした、眉目秀麗・長身痩躯・頭脳明晰・能力抜群のナイスな奴だ。

 だから通称、『スチャラカ少尉』――そう呼ばれている。

 まァ、多分(?)、悪口だろうが、かまやしない。

 ズバリそのままその通りだし、第一、なんとも語呂がイイじゃあないか。

 他人に言わせりゃ、顔、体つき、ファッションセンス、エトセトラ――すべてまとめて軽薄そのものの俺であるわけなんだし、

『スチャラカ少尉』

 ウーン、なんとも言いえて妙、ってトコか?

 フン。

 ま、どーでもいいか、そんなのは。

 ひとつだけ肩をすくめると、俺は格納庫の方に向き直り……、クルリとそのまま回れ右。

()()()()()()

 そう声をかけられなければ、ダッシュ一発! で逃げだしていた……のに。

「は、はい、そうですね。ず、随分とご無沙汰しちゃって、申し訳ありません」

 あア亜アあ、なんで返事をしちまうんだよ?

 なんで会話をしちゃうわけ?

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