1.出会いと再会と―1
「心を……いただけませんか?」
挨拶がわりの文句がこれだった。
第一声がそれだったから、俺も正面に立ってる相手を思わずまじまじ見つめたもんさ。
目の前にいるのは一人の女の子――それもとびきり可愛い美少女だ。
とくれば、こーゆー場面じゃ、
『君の体をくれるならね♡』とか、軽口たたいて切り返すのが俺……なんだけど、今回に限ってはそうしなかった。
相手が年端もいかない女の子(あとで訊いたら一六歳だと言う)だったからだけでなく、その面立ちにどこか異様なものを感じたからだ。
と言っても、先の『とびきり可愛い美少女』評をナシにするとかいう意味じゃあないぜ?
体つきは、まぁ、年齢なり、年相応としか言いようがないけど、それは別に欠点じゃないし。
いずれ時間が解決してくれるのを待つ。乞うご期待ってなだけだ。
でもって繰り返すけど、顔の美醜については、まぢ掛け値ナシ、あんまりにも綺麗綺麗で、なぁんてポイント高い娘なんだい♪ と、わくわく心がはずんだレベル。
久方ぶりに良いモノを拝ませてもらったと眼福気分が満点さ。
現時点でもそうだが、こりゃあ将来が楽しみ。美しい女性は、まさしく国の宝である、と速攻で脳の記憶野に永久保存したレベルの美少女なのはまったく間違いないんだよ。
疑うようなら詳述しようか。
身長は一四〇センチ前後と小柄&ほっそり華奢な体つき。
おおきな瞳にすっと通った鼻筋、薄紅色をした唇はまんま花びら。
さらりとクセなく艶やかな黒髪は、肩口丈で切り揃えられ、頭頂部には天使の輪っかが輝いている。
身につけているのは(現在地を思えば当たり前だが)日本国防空軍の制服なんだけど、もぉね、まンまモデルって言うか、芸能人扮するところの一日軍人とか、外地へ慰問にやってきたアイドルって言うか、とにかくそう思える――そうとしか思えない程のスーパー可愛らしさなんだな、コレが。
実際、俺たちは今、巨大な飛行機の格納庫脇に立ってるんだが、これが舞台をちゃんと整えて、でもって、『祖国は君のちからを必要としている!』なぁ~んて、募兵広告の被写体役をこの娘がつとめるとかしたら、応募者がドッと増えるんじゃないか?――そう思えるくらいに端正で可憐な造作の、まるでお人形さんのような、眼福そのものな美少女なのさ。
ただ……、そう、まさしく人形のような、という点だったのよ――俺がひっかかったのは。
いいかい?
綺麗にととのった顔は、しかし表情のない仮面の虚ろさで、その眼はガラス玉の無機質さをたたえ、内面の情動をうかがわせない。
変テコな挨拶(?)の言葉にしてから棒読み――親愛も緊張も、何一つとして混じりけのない、単なる言葉の羅列に過ぎなかった。
はじめて対面する年上&異性のパートナーを前に、年端もいかない女の子が付き添いの人間も何にもナシで向き合ってるのに、だぜ?
普通、なにかあるだろ?
凜々しさだとか、勇ましさとか、逆に小動物系とか、人見知りとか――当人の人間味を感じさせる何かがサ。
気負いや躊躇、イキりや怯え――そんな年齢相応な感情の揺れが、隠そうとしても隠しきれずに滲みだすのが自然じゃないか?
それが、
口にした言葉も不思議ちゃんだが、とにかく、雰囲気そのものが、とてもじゃないけどティーンエイジャーのものとは思えない。
一瞬、マジで、よくできた自動人形を相手にしているんじゃなかろうか? なぁんて疑っちまったくらいだ。(まァ、それは当たらずと言えども遠からずだったと後に知ることになるんだが……)
有り体に言って、すこし(かなり?)薄気味悪かった。
だから、
「OK。合点承知だ、お嬢さん。この東雲藍、当年とって二十四。見ての通りのイケメンで、女の子の頼みは断らないのが信条サ」
腕を両方、猛禽類の翼よろしく大きくひろげて歩を前へ――女の子スレスレにまで近づくと、
「歓迎のハグぅ~~!」
ギュウッと抱きしめてやったのさ。
「情熱! 真心! 愛情! 歓喜!――この俺の心の内をどうぞタップリ受け取ってちょォ!」
背中にまわした腕に力をこめて、でも、呼吸が苦しくないだろう程度に加減して締め付ける。
視線をおとせば、胸の高さあたりで輝いているのは天使の輪っか。
少女の顔といい、胸、おなか、それから脚の前側といい、それらは全部、俺の身体にピッタリ隙なく密着している。
――どうだ?
俺は相手の反応をうかがった。
年齢なりの精神面での不安定さの解除。
たとえば厨二病とかをこじらせている等であっても、初対面の異性にイキナリこんな無体をはたらかれたら、そんな仮面もはがれるだろう――そう期待してのことだ。
が、
少女はどこまでも、スン……としていた。
無法者から逃れようともがくでなく、身体を強ばらせるでなく、もちろん悲鳴をあげたりする事もなく、ただただ自然体でじっとしていた。
だから、
「ど、どうかな? 俺の熱い心、受け取ることができたかな?」
こりゃダメだ……、もとい、このまま続けてもムダか――そう見切って体を離した俺のその問いかけはほぼ負け惜しみ。
「……わかりません。すみません」
そう言って、頭を下げる少女のこたえは俺の愚行へのとどめに他ならなかった。
無言。
それから後は、ただただ無言。
さすがに気まずい。
ギャグがスベった時の、あの感覚に似ているだろうか。
どうにもいたたまれない感じ。
少女の方はわからない。
で、
そうした時間がどれくらいの間つづいたか、
「では、わたしはこれで」
もう一度ぺこりと頭をさげて、少女が踵をかえして立ち去った後、俺が呆気にとられて彫像みたく固まったのは、まぁ、おかしくはないとそう思うんだ。




