第3話 謎の男
「さあ、約束通り連れて来たわよ。さっさと婚約解消して、この家から出て行ってちょうだい。
クライブと結婚して公爵夫人になるのは、跡継ぎを生む私なんだから」
公爵家の応接室には、可愛らしい顔に似合わず鼻息荒く捲し立てるミッシェルと謎の包帯男、アンネマリー、ストラルガー公爵家執事のデニス、それから若い貴族の男性がいた。
デニスは扉付近に控えて立っており、他の四人は向かい合わせにに座っている。
「さっきから気になってたんだけれど…その隣の人、誰?もしかしてアンネマリーさんの恋人…?
な~んだ。あなたにも、もう別の男性がいるのなら、お互いさっさと別れて愛し合う者達同士が一緒になる方がいいじゃない。
いつまでも未練がましく、読まれもしない手紙を送り続けてるなんて噂を聞いたから、心配して声を掛けたげたのに…そっちはそっちで、よろしくしてたんだ…」
ミッシェルは1人で勝手に納得し、邪魔者が片付いたと顔をほころばせた。
「彼は王城から来ていただいた書記官のロレンス様です。私とは本日初対面なので…もちろんよろしくなどしておりません」
アンネマリーが淡々と告げると、ミッシェルもその隣に座る片目の男性も、不思議な顔をしてロレンスを見た。
「書記官なんて…何でそんな関係のない赤の他人が、この場にいるのよ!!」
ちょっと焦ったように怒鳴りだすミッシェルに、アンネマリーは相変わらず落ち着いた様子で理由を述べる。
「関係なくはありませんわ。王家の忠臣である五大公爵家の後継者に関するお話ですもの。
間違えることなく、書記官様に書類に認めていただかなければなりません」
ロレンスは無言で二人に会釈した。
後継者と聞いて、自分のお腹の中の子のことだと思ったミッシェルは、やっと大人しくなってくれた。
「ところで、ミッシェルさん。
あなたが連れて来られた、その男性はどなたですか?」
アンネマリーが包帯姿の男をちらっと見てそう告げると、ミッシェルは眉をひそめて
批難した。
「あなた、いくら大怪我をしてるからって長年連れ添った婚約者もわからないの!?」
大袈裟に嘆いてみせ、労わるように隣の男性の背をさする。
それに対してアンネマリーは、1mmも感情が揺さぶられることなく、男性を凝視して述べた。
「面白いことを仰るのね…。あなたの隣にいるその方は、クライブ様ではありませんわ」
「何を言ってるのよ。今は包帯で顔を覆っているけれど、この銀髪も紫色の瞳も…間違いなくストラルガー公爵家の証じゃない!!」
そう狼狽えて声を荒げるミッシェルに、なおもアンネマリーは冷静に答える。
「確かに、そのお色はストラルガー公爵家のものですけれど…
その男性には公爵家当主に無くてはならない必要な物が欠けております」
まるで3歳の子供でも知っている常識を話すように、そう告げると…
「俺の何が欠けているというんだ!?俺はストラルガー公爵家当主だ!!
どうせ俺に振られた腹いせに、適当な嘘をついているんだろ?」
今まで沈黙を貫いていた謎の男性が、馬鹿にされたと思ったのか…怒りに任せて声を上げた。最後は嘲るような調子で問い掛けてきたが、その挑発にのることもなく、アンネマリーは書記官に尋ねる。
「書記官様は、どう思われますか?」
「ストラルガー公爵はいつなんどきでも冷静沈着な方ですから、彼のように声を荒らげたりされません。また、彼の一人称は私です」
書記官は公平な立場で、公爵でないと言明はしなかったが…暗に違うだろうと示した。
「それは…あまりにも彼女がふざけたことを言うから…動揺してしまっただけだ。
私がストラルガー公爵であることは間違いない!!」
何とか言い繕うとする彼の弁明をこれ以上聞きたくなかったアンネマリーは、書記官に断りを告げた。
「書記官様、この部屋は完全な防音が施されております。今から王家と五大公爵家の秘匿情報を話す許可をくださいませ」
「それを知った者は…もう表の世界に出すことは出来ませんよ…」
「元より、彼らが生きてここから出ることはかないません」
何の躊躇もなく恐ろしいことを言ってのけるアンネマリーに、目の前の二人は絶句した。
「そのおつもりなら結構です。秘匿を述べる許可を出し、ここで語られた話は正しく書き記しましょう」
書記官の許可を得たアンネマリーは、王家と五大公爵家当主、その資格を持つ者しか知り得ない真実を語り始めた。
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