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私は魔法認定指導員。偽りの婚約者様、お覚悟してくださいませ!  作者: 悠木 源基


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第59章 結婚式

 この章で完結となります。


「判決を言い渡します」


 裁判長の凛とした声が、静まり返っていた法廷内に響き渡った。

 それは、デビンが気を失って休廷になった一時間後のことだった。


「求刑通り、被告に無期懲役刑を言い渡す。

 そしてエバーナ王女との結婚の契約を遂行してもらう。

 人のために『誘惑魔法』を使用したと被告人は主張したが、それは結果から都合のいい解釈をしただけであり、そもそもは単なるおふざけに過ぎなかったことは、原告の証言で明らかである。

 ゆえに契約を遂行する義務がある。

 弁護人の主張通り、罪自体の大きさを考えれば正当な量刑とは言い難い。

 とはいえ、現時点で被告人を放置すれば甚大な災禍を招く恐れがあるため、致し方ない処置だと言える。

 それを踏まえて、特例を設けることする。

 もし被告人が希望すれば、の話だが 、が『誘惑魔法』の解明に協力し、その後もし、新たな解除方法が見つかった場合は、その刑を終了と見なすことにする。

 ただし、「誘惑魔法の解明」のためにはエバーナ王女の存在が重要となるので、二人の 婚姻が条件となる。それも二人の刑罰の一つであるからだ。

それゆえに、特例を選ぶかどうかは 被告人次第とする。

 被告人、どうしますか?」


 デビンは王太子から先ほど打診されていたのだろう。時間を掛けることなく、特例の判決 の方を選択した。

 もちろん、エバーナ王女とは別の牢だと確認した後で。

 


 

 裁判後、私とフリュードはルドルフ先輩やカレンティ嬢と共に王宮に連行された。

 もちろんオルガとモルガン卿も付いてきてくれたわ。

 正直疲労困憊で真っ直ぐに屋敷に戻りたかったけれど、当然逆らうことなどできなかった。

 フランク王太子の個人サロンに通されると、そこには生徒会のメンバーの先輩や同期のメンバーがすでに揃っていた。

 ガストン男爵令息のラルフ卿や王太子の幼なじみのマードックス卿も。


「『臥薪嘗胆』の末にとうとうこの日を迎えられた。これも偏に君達と、ここにはいない多くの志し高い者達の協力と忍耐のおかげだ。

 本当にありがとう。心の底から感謝する。

 明日からは新しい国造りのために励まなくてはならないが、今日くらいは羽目を外しても許されるだろう。

 無礼講なので大いに盛り上がってくれ!」


「「「おーっ!」」


「ただしその前に、同志の君達に発表したい事がある。聞いてくれ!

 多くの者がすでに予想しているだろうが、フォーケン領地はここにいる二人に任せたいと思う。それが本来のあるべき姿だからな。

 サンドベック嬢、二転三転させてしまって大変申し訳なかった」


 王太子のこの発表に、興奮状態だった人達が、急激にクールダウンしたのがわかった。

 彼らは戸惑い、複雑そうな顔で私達二人の様子を伺っていたが、とうとういつものはっきりとした物言いをする一つ年上の先輩が、意を決したようにこうこう訊いてきた。


「たしかにフリル卿はとても優秀だし、身分もいずれ叙爵されるだろうから、結婚することに問題ないかもしれない。

 けれど……ええと、言い辛いのだけれど、貴女はもう吹っ切れているのかしら?」


「いつも無表情で素っ気ない振りしていたフリルが、君のことを好きだってことは、みんな知っていたよ。

 だから君と結ばれるのは喜ばしいことなのだが、君の方はどうなのかな」


「フリルを応援したいのは山々なんだよ。

 サンドベック嬢は気付いていなかっただろうが、彼は陰でいつも君を守ってきたからな。

 妬んでいるやつや逆恨みしているやつからさ」


「時々君が手作りのランチを差し入れ入れていただろう?

 それを食べているときのフリル、満面の笑みを浮かべてすごく幸せそうだったぞ。

 一度さ、あんまり美味しそうだったから、カラアゲ一個ちょうだいしたら激怒されたよ。

 だけど、たしかにあれは美味しかった」


「えーっ! 

 唐揚げ食べさせてもらっていたのか!

 いいなぁ。僕にも作ってくれよ、ルナルナ。 

 酒のツマミはあれが一番なんだよね」


 ルドルフ先輩までそんなことを言い出した。

 まあ、唐揚げは男子学生の人気ナンバーワンのおかずだったものね。

 前世の記憶を取りもどしてから無性に食べたかったのは、柿とカレーライス、そして唐揚げだった。

 そして柿とカレーライスは無理だったけれど、唐揚げなら作れそうだと思った。

 そうは言っても貴族令嬢は厨房になんて入ってはだめだったから、奉仕活動に行った際に、こっそりと唐揚げを作ってみたのだ。

 するとなかなか美味しくできたので、子供達にも振る舞ったら大好評だった。

 もちろんフリュードにも作ってあげていたので、いつしか彼の好物にもなっていたみたいだ。


 珍しくかなりハイになっていたルドルフ先輩は、両手を合わせてお願いポーズをした後で、いきなり私の手を取ってキスをしようとした。

 その瞬間フリュードが私の体を抱き寄せて「触れるな!」と吠えた。


「「「えっ?」」」


 その瞬間、みんなが驚いた顔をした。

 というのも、それがいつもの低くて冷めたような声ではなく、少し高めのイケボだったからだ。


「悪い、悪い、つい調子に乗ってしまった。君の大事な恋人には絶対に手を出したりしないよ。

 ルナルナはただ可愛い後輩だと思っているから心配するな。いつもそう言っているだろう。

 それより、なぜその邪魔くさいフード被ったままにしているんだよ」


 ルドルフ先輩はそう言うと、間髪入れずにフリュードのフードを剥いだ。


「きゃー!」「おおーっ!」


 耳をつんざくような悲鳴と野太い咆哮が響き渡った。

 突如本物の王子よりも王子らしい、超絶美形が現れたからだ。

 シャンデリアに反射して眩いほど輝いている金髪に、鮮やかな大きなブルーの瞳。ずーっと伸びた鼻梁に艶のある真っ赤な唇。

 うん。実際にはないけれど、背後に豪華絢爛な薔薇を背負っているように見えるわ。着ている服は真っ黒で地味なクローコートだったけれど。



 

 結局あの後王宮の中は大騒ぎになり、収集がつかなくなった。

 フリルがフリュードだということは、騎士団の人達は知っていた。

 しかしそれ以外は、ルドルフ先輩を始めとする裁判所関係の者達くらいしか知らなかったからだ。


 フランク王太子が本人に代わって、フリュードが()()していたその理由を語ってくれた。

 私達はすっかり悲劇の恋人に仕立てられた。まあ、事実と言えば事実だったけれど、恥ずかしくて居た堪れない気分だった。


 そして日が変わると、全員頭痛と寝不足と闘いながら、新体制の骨格案を編成するという作業に追われることになった。

 なぜ私達まで?と、オルガやカレンティ嬢と共に思ったが、書記係を依頼されて断れる雰囲気ではなかった。

 二人ともとても優秀だったので、王太子殿下にスカウトされた。

 オルガは即行に断っていたが 、カレンティ嬢は


「今後も娼館や『新芽の家』『若葉の家』『青葉の家』『紅葉の家』に国から継続的に補助金が支給されて、あそこに私がいる必要がなくなったら、考えもいいですよ」


 と返事をしていた。

 そりゃあ、そうよね。

 でもまあ、殿下や騎士団の騎士達も元々そうしたかったみたい。だから、今すぐは無理だとしてもそのうち実現するのだろうな、と私は思った。


 四日目の朝に四人で屋敷に戻ったら、心なしかげっそりしたお父様とロビンお兄様が、目の下に隈を作っていた。

 私達が家を捨てて隣国へ旅立ってしまったと思って、二人して大騒ぎをしていたらしい。

 どうやらオルガの部屋を勝手に漁って、机の引き出しから移住計画案を練っていたときのメモを見つけてしまったようだ。

 モルガン卿が鬼の形相で抗議していたわ。当然よね。


 忙し過ぎて誰も屋敷に連絡する暇がなかったのだけれど、ランサム兄様は登城していたから事情を察していたらしいわ。

 けれど、わざとお父様やロビン兄様には言わなかったみたい。


 ご愁傷さまです。



 その後私とフリュードはすぐに婚約した。

 そしてフランク王太子が国王になり、無事に戴冠式を終えた後、フリュードは子爵位を叙爵され、フォーケン領を与えられた。

 いや返還されたのだ。

 その日から彼は領主と王城付き魔法認定指導員として二足のわらじを履くことになった。もちろん本来の姿で。 

 フランク国王は彼の業務が滞りなく進むように、特別な護衛(女避け要員)を付けてくれたので、私も一安心だった。



 そして、あの裁判の日からちょうど一年後、私はフリュードと結婚式の日を迎えた。

 私達二人はとにかく超多忙で大変だったが、オルガとモルガン卿を始めとする使用人や、多くの友人達の協力のおかげで、何とかこの日を迎えられた。

 その中でも一番の功労者はマリエット様だろう。


 本当は私が彼女と兄の結婚式の準備の手伝いをするはずだった。

 ところが王立図書館で魔法書専門の司書の仕事をしつつ 、領地の手伝いもしなくてはならなかったので、それができなくなってしまったのだ。

 すると


「すでに単位を取得し終えていますので、自分で準備できますわ」


 彼女は笑ってそう言って、なんと私達の結婚式の準備までしてくれていたのだ 。


「手間が一度で済むのですから、一緒に式を挙げてしまえばいいのですよ。

 私、ルナシー様と結婚式を挙げるのが夢でしたの」


 マリエット様がそう言って、はにかみながら私の腕に自分の腕を絡みつけたときの 、フリュードとランサムお兄様の顔ったら。

 妹相手に嫉妬なんてみっともないと、お兄様はぐっと堪えていたわ。

 けれどフリュードは、それを隠そうともせずに文句をつけようとしたのだが


「結婚式が遅くなるのとどちらがいいのですか?」


 と、相変わらずの小悪魔発言をされて、あえなく完敗したのだ。あの無敵王子が。


 そして、実際の結婚式はオルガとモルガン卿のカップルを含む三組合同結婚式になった。

 私達が結婚するまでと待たせてしまった二人にも、一緒に幸せな夫婦になってもらいたかった。

 だから、遠慮する二人を無視して準備をしてしまった。


 これまで色々なことがあった。

 でもこうして私とフリュードは、多くの人々に祝福されながら、大好きな人達とともに夫婦となることができた。

 誓いのキスをしたとき、私達の首元のネックレスが、パッと光を放った。

 その光の中にアリス様とフロイド様、そして母の笑顔が見えた気がしたのだった。


 最後まで読んでくださった皆様に感謝します。


 この結婚式では多くの参列者が美し過ぎる三組のカップルを見て微笑んでいたが、花嫁の父三人と、ヒロインに失恋したラルフ=ガストンだけが大泣きをしていた。

 そして、どうせ なら自分達も交ぜて欲しかったと、次兄ロビンが思わず呟いて、婚約者につねられていた。


 ラルフは学園卒業後、王城で働くことになった。

 ただしそれは姉のことが原因ではなかった。

 いくら幼なじみで弟のように可愛いと思っていても、妻に好意を持っている男を側に置きたくない と、フリュードに雇ってもらえなかったからだ。


 デビンは模範囚として独房で過ごし、魔法研究の協力 を続けた。

 そして十年後、ついに「誘惑魔法」の安全な解除法が見つかり、自由の身になった。 

 その後は魔法学の知識の多さと熱心さを認められて、魔法研究所の研究員として働いた。


 エバーナ王女の魔法も解除されたのだが、性格は相変わらずだったので、離縁されて両親のいる離宮へと送られた。

 これでようやく親子三人で暮らせてめでたし、めでたし、と国王フランクは一人でほくそ笑むのだった 。  

 


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