第5章 魔法認定指導員
この国の子供は七歳のときに全員聖堂で魔力検査を受ける。
魔力があるかどうか。
その魔力の量がどれくらいなのか。
そして潜在的に使える魔力が何であるのか。
その結果は本人と親権者にしか伝えないのが決まりだ。デビンの言ったように他人に知られると悪用される可能性が高まるからだ。
しかし、学園入学時にはその魔力の告知義務が発生する。
生徒達の持つ魔力がどのようなものかわからないと、揉め事が起きたときに教師達が対処できないためだ。
もしその力を隠して入学して問題を起こしたら即退学処分になる。
学園に入学することは別に義務ではない。
各家庭で家庭教師から学問を学び、国の定めた試験に合格さえすれば、学園卒業認定資格が得られるからだ。
それ故に自分の潜在魔法を知られたくないからと学園に入学しない者もいる。
しかし、そもそも人はというものは皆多かれ少なかれ承認欲求がある。そのため、大抵の者達が自分の魔力を認めてもらいたくて、自分から暴露するものだ。
親達もそれをわかっているから、あまり気にせずに子供を学園に入学させる家の方が多い。
通わせないと、却って貴重な魔力持ちだと公言しているようなものだから。
デビンと彼の両親は、学園に入学した際に校則を破って魔力の申請をしていなかった。
それ故に学園関係者も生徒達も彼を魔力無しだと思っていた。
そう周りから思われていたというのに、デビン自身はそんなことは我関せずという感じで、常に堂々としていた。
自分には特別な魔力があるという自信があったからなのだろう。
それでも鬱憤は溜まるらしく、自分には逆らえないだろうと思っている、婚約者である私やラルフのような使用人に対しては、魔力無しだと馬鹿にし、蔑んだりしていた。
つまりデビンはそんな残念でイタイやつだったのだ。
ラルフからデビンの魔力の報告を受けたのは、私がその「誘惑」の魔法から解除されてまだ間もないころだった。
学園に入学して二か月が経った頃、突然デビンへの恋愛感情がなくなったのだ。
そのことで、自分は彼に何か怪しい術にでも掛けられていたのではないかと、私も疑惑を抱き始めていた。
私はずっとフリュードを好きだった。それなのに、見知らぬ男を突然好きになったなんて到底信じられなかったからだ。
見るからに鼻持ちならなそうな男に一目惚れなどするわけがない。
しかも、あんなに蔑ろにされてもあんな嫌な男を熱く思い続けるなんて、どう考えも腑に落ちなかったのだ。
だからラルフの話を聞いた時、やはりそうだったのかと納得したのだ。
私がその後すぐさま王立図書館へ向かい、『魔力の種類とその性質』という、分厚い魔法の専門書を読み耽ったのも当然のことだったろう。
一月ほどで私は、デビンの潜在魔法についてある程度把握することができた。
そして、魔法学の授業を選択していなかったにも関わらず、その後魔法に興味を持ってしまった。
まさに専門家になれるくらい猛勉強してしまい、いつの間にか膨大な魔法についての知識を得てしまった。
その結果私は、最終学年になる直前に本当に専門家になっていた。
この国の三大国家資格と呼ばれている、魔法認定指導員の試験に合格してしまったのだ。
デビンに復讐をしようと学んでいただけだったのに、思わぬ副産物だった。
「今日さ、魔法認定指導員の試験も申し込みの最終日なんだって。
力試しに受けてみたらどうかと、魔法学の先生に書き損じの分を含めて申し込み用紙を二枚渡されたんだ。
君、魔法学取ってないけれど、一緒に受けてみないか?」
同じクラスで生徒会役員仲間、しかも図書室でもよく顔を合わせていた友人にそう誘われて、深く考えもせずに受けたのだ。
しかし、合格した後でようやくこの資格を取れたことの重要性に気付いたわ。
だって、この資格さえ持っていれば、たとえ家を出て平民になっても、結婚せずに女一人でも生きて行けるのだから。
友人に心から感謝したわ。ちなみにその友人も合格した。彼は入学以来主席を取り続けているくらい頭脳明晰なのだから、まあ当然の結果だったけれど。
私達は二人揃って、史上最年少の魔法認定指導員試験の合格者になった。
このことを誰にも話すつもりはなかった。けれど、合格通知がタウンハウスに届いたので、侍女のオルガに知られてしまった。
そしてそれがきっかけで、デビンへの復讐計画をオルガや護衛のゾイドに教えざるを得なくなった。
彼らは私の様子が変だとずっと心配してくれていたからだ。
始めは自分一人でそれを実行しようとしていた。
しかし、結局彼らとラルフの三人にだけは私の計画を全て話した。
それ故にデビンのしたことを全て知っている彼らは、手前勝手な彼の言い分に腹を立てていた。
それでも計画遂行のために奥歯をぎゅっと噛みしめて、じっと堪えてくれていたのだ。
それなのに、ラルフが突然、「誘惑」か「魅了」の潜在魔法を持っているのだろう、とデビンに向けて発言したことに私は驚いてしまった。
いくら頭にきたとはいえ、そんな大事な秘密を口にするような子ではないと思っていたから。
でも、ラルフの目を見て私はその真意を悟ったわ。
だって彼はたしかに腹を立ててはいたけれど、少しも感情的にはなっていなかったからだ。
つまり彼は、少しでも私に有利になるように、デビンを動揺させるためにわざと煽っているのだと。
だって、努力が嫌いな怠け者のデビンに、潜在魔法以外の魔法が使えるわけないもの。
新たな魔法を身に付けるためには、血の滲むような訓練が必要だということを皆が知っていたのだ。
せっかくなので、私もそれに乗ることにした。
本当は軽蔑の目で彼を睨み付けたいところだった。
しかし、必死に女神のような慈愛のこもったような笑みを浮かべて、デビンにこう言ってやったわ。
「嫌だわ、ラルフ様。ご冗談ばっかり。
私の愛するデビン様が、そんな危険な魔法を使うわけがないじゃないですか。
彼に魅力があるから、女性に好かれてしまうだけですわ。私もその一人。彼が悪いわけではありませんわ」
そう言って、私がデビンをまだ愛し、信じているのだとアピールした。
しかしその後で、わざと困ったような顔を作った。
「でも、よく考えてみたら、私が何一つ文句を言わず、すんなりと婚約解消を認めることはよくないことかもしれませんね」
「どう言う意味だ?」
「だって、貴族の令嬢が浮気をされて一方的に婚約破棄をされたのに何も文句を言わない。そんなことは普通あり得ないでしょう?
本人だけでなく家の面子も潰されるわけですから。
そしてその後すぐにデビン様がエバーナ王女殿下と婚約を結んだら、貴方は私に怪しい術を使ったと、周りから疑惑を持たれるかも知れませんもの」
「ぼ、僕は浮気など……」
「私は貴方様のお幸せを心よりお祈りしています。王女殿下とのことは真実の愛だと思っておりますから、浮気などとは考えてもいませんわ。
ですがそれは、世間一般的には通用しないみたいですわ。
だって、エバーナ王女殿下が婚約者のいる男性を奪ったと、学園内ではすでに噂になっておりますもの」
「なんだと!」
デビンが目を剥いた。
えっ? 自分達が学園でどんな目で見られているのか、本当に気付かなかったの?
さすがに私も呆れてドン引きしたわ。
「しかも、私達の婚約は王命であるのに、王女殿下がそれを邪魔しようとしていると、陰ではかなり悪評が高まっているみたいですわ」
「そんな!」
「ですから、そのような噂を払拭するためにも、貴方様は無理やりに誤魔化そうとはせず、正直に婚約解消になった理由を説明なさった方がまだ印象が良いと思いますわ。
王命とはいえ、私とはどうしても相性が悪くて辛かった。そんな自分に寄り添い支えて下さったのが王女殿下だったと。
だから私には申しわけなく思ったが解消することにしたのだと。
そしてできる限りの誠意を示したからこそ、私が素直に身を引いたことにすればいいのです。
そうすれば、デビン様が私に怪しげな術を使ったなどという噂はきっと消えますわ」
つまり慰謝料をちゃんと支払え! ってことよ。




