第45章 魔石のネックレス
将来フリュードがたとえ私のことを嫌いにならなかったとしても、私よりももっと好きな人が現れるかもしれない。
だって男勝りではっきりものを言う可愛げのない私のことなんて、そのうちきっとうんざりするようになると思っていたから。
そもそも私は兄達と違って黒髪に茶色の瞳でかなり地味だ。しかもきつく見える吊り目だし。
「お前みたいにやる気満々の出しゃばり女は、可愛げがないから男に嫌われるぞ。
だから男に守ってもらえるように、できるだけ、控えめにしてろ」
幼少期から事あるごとに兄のロビンにこう言われてきた。
そう。私は庇護欲を誘うような健気で弱々しいご令嬢方とは違うのだ。
しかも、ただ守ってもらうより、大切な人と共に戦いたいタイプなのだ。まあ、無意識だったけれど。
フリュードは誰よりも強いのだから、私の助けなんていらないっていうのにね。
王立学園に入れば、フリュードはたくさんのご令嬢方と出会うことだろう。
そこには高位貴族のお淑やかで上品な素晴らしいご令嬢もたくさんいるに違いない。
きっと私のことなんて必要なくなるわ。でもそれはある意味当然の成り行きで仕方のないことで、誰かに責められるべきことではない。
それなのに、幼い頃に結んだ契約を破ったからといって、もし何か罰則があるとしたら、それはあまりにも理不尽だわ。
フリュードに何かペナルティを与えられるのは嫌だった。
かといって、なんだかわからない罰則を恐れて、それを逃れるためだけに婚約や結婚してもらうのも嫌だなと思った。
だから、学園に入学したら、魔石による契約について調べてみようと思っていたのだ。
まあ、「誘惑魔法」を掛けられて、そのことをすっかり忘れていたけれど。
そもそも、フリュードではなくてデビンを婚約者に選んだ時点で、何かしら私に罰則が与えられてもおかしくなかった。
正気に戻ったとき、まず初めに疑問に思ったことがそれだった。
私が正常でなかったから見逃してくれたということなのかしら?
それとも、フリュードに会えなくなったこと、連絡一つもらえないくらい彼に嫌われてしまったこと、そのこと自体が罰だということなのかしら?
そんな風に私は思っていた。
もちろん、魔法について調べ上げた後、今度は学園だけでなく王立図書館へも足を運んで魔石の契約について調べてみた。
しかし、その契約は大昔、まだ魔物や魔法使いがこの地上において勢力争いをしていた頃、一時的休戦する際に交わしていた契約だ、という記載があっただけで、結局その中身まではわからなかったのだ。
そこで魔石の研究所へ足を運び、ネックレスを見せて、この魔石について教えて欲しいと依頼した。すると、教授は目をキラキラと輝かせて
「初めて目にする魔石だ。かなり貴重な品だね」
と言ったが、いかんせん私の首から外せないのだから調べようがなかった。
それに初めて見る石だということは、そもそも何もわからないということと同義だった。私はがっくりと肩を落とした。
ただし教授が言うことには、魔石は古い物になればなるほどその色が黒くなるらしい。
このネックレスの魔石は真っ黒でしかもかなり煌めいているので、かなり古いものだと推測できるそうだ。
つまり相当価値があるものであることは間違いないということだった。
このネックレス一つで、魔石の鉱山が一つ買えるのではないかと教授は言った。
だからあまり人には見せない方がいいと忠告された。首と胴体が繋がっていたいのならばと。
それを聞いて私が震え上がったのは当然のことだったろう。
しかし、震え上がった真の意味は、そんな超々レアな魔石を砕いてまで、アリス様が私達のためにネックレスを作ったという事実だった。
アリス様はとにかく私のことを可愛がってくれた。
男の子ではなく女の子が欲しかったのかしら?と幼い私は思ったこともあった。
しかし、フリュードを見つめるあの愛おしいそうな慈愛のこもった目を見て、そんなことはあり得ないとわかった。
アリス様はフリュードを何もよりも誰よりも愛していたのだから。
けれど、時折切なさそうな表情で彼を見つめていることに気付いてからは、なぜか私は、胸が締め付けられるような切ない気持ちになった。
アリス様はお体が弱く、いつ心の臓が止まってしまうかわからないという事実を私が知ったのは、その後しばらく経ってからだった。
フリュードが成人するまで、ご自分が側にいられないと分かっていたからこそ、アリス様は彼のことが心配でたまらなかったのだろう。
だから代々フォーケン伯爵家が大切にしてきた家宝の魔石でネックレスを作り、それを息子の首にかけることで彼を守ろうとしたのだろう。それはとてもよく理解できる。
でも、なぜ私の分まで?
しかも私達二人がずっと一緒にいるという契約まで結ばせて。
もし、私が幼少期から天才児だったとか、天使と見まがうような愛らしい女の子だったというのならまだわかる。
だが、私は黒髪に茶色の髪の地味な見た目で、利発な子だとほめられてはいたが、だからといって飛び抜けて優秀だったわけでもない。
そして特殊で貴重な魔法持ちでもなかった。
人見知りをせず、ハキハキとものを言う裏表のない、単に貴族令嬢らしくない、子供らしい子供に過ぎなかった。
幼い頃から多種多様の稀有な才能を見せつけ、天才児と称されていたフリュードなら、私ではなくてもっと彼に相応しい素晴らしいお相手がいるだろう。
それなのに早々と私に決めてしまって本当に良かったの? と、少し成長して多少客観的に物事を見られるようになってきた頃、私はそんなことを思った。
でも、アリス様はその将来を自分で目にすることができないとわかっていたから、不安だったのかもしれない。
おそらくだが、私は彼女の定める最低の合格ラインにどうにか到達していたのだろう。
そしてフリュードの身近に、私以外にはまだ息子に見合う女の子が見当たらなかったから、とりあえずというか、焦って私にあのネックレスを贈ったのかもしれない。
なぜなら、フリュードにはもう一人身近に同じ年頃の女の子がいた。
ところが、その子のことをアリス様は嫌っていて、フリュードに近付けないようにしていたからだ。
アリス様は彼女を牽制するために私を選らんだのかもしれない。私なら彼女に負けないだろうと考えて。




