第25章 演説会の余波
市井の人々にとっては、私とフリュードの関係なんて最初からどうでもよかったと思う。
そして私がデビンと婚約したことも、その後その婚約が白紙になったとしても、貴族達とは違い大した問題ではなかったらしい。
しかし、デビンが浮気をしていて、その相手がエバーナ王女ということになれば話が違ったみたいだった。
なぜなら国王と側妃、そしてパロット侯爵家は王都の人々に嫌われていたからだ。
何せあの大飢饉で食糧難になった時、王家は何もしなかった。
いや、一応地方と同じように備蓄食料を供給してくれたのだが、いかんせん王都の人口は多いので、そんなものでは足りなかった。
そこで緊急に隣国から農産物を輸入したのだが、交渉が下手だったために足元を見られて、値段が釣り上げられてしまった。
そのために貧しい者達は食料が手に入らず、餓死する者まで出てしまった。
その無能さに王都の人々は怒りの念を覚えた。そして、その時の恨みはまだ消えていなかったのだ。
しかも半年ほど前から、とある噂話が巷で流れていたらしい。
フォーケン領が飢饉になった原因が、フォーケン伯爵からの灌漑工事申請を退けて、軍事費を優先させた貴族達がいたからだと。
まあ事実よね。
そしてその噂を知った人々は、国王だけでなく側妃や側妃の実家であるパロット侯爵家に対して疑念を抱くようになっていたらしい。
そんなわけで、王族とその姻戚関係にある貴族達は国民にあまりよく思われていなかったのだ。
まあその中でも、王妃殿下と王太子殿下のお二人だけは、未だにどうにか国民の支持を得ていたけれど。
それはなぜかといえば、お二人が以前から福祉関係に力を入れていたからだ。
餓死者は出てしまったが、王妃の尽力で王妃の母国から相場の値段で農産物が輸入されようになった。
そのことで、暴利を貪っていた隣国からの輸入品まで値崩れし、ようやく貧しい者にも食料が行き渡るようになったのだ。
そのことに対して人々は感謝をしていたのだ。
しかもサンドベック伯爵がフォーケン領の復興のための援助を要求した際、援助を渋る国王を説き伏せて、大貴族に資金を出させたのが、当時まだ学園に入学する前の王太子殿下だった。
その話をずいぶん経ってから漏れ聞いた王都の人々は、少しだけ未来に希望を持ったらしい。
王太子が成人したらきっとこの国はもう少しマシになるに違いないと。
これらの話を、私も演説会をするようになって初めて知った。
しかも、巷では私の悪評が蔓延しているのかと思っていたのだが、それはどうやらそれは一部の派閥の貴族と、その領民だけのようだった。
つまりパロット侯爵領とバルガーニ侯爵、そして我がサンドベック伯爵家とフォーケン領の中という限られた範囲だったようだ。
考えてみたらそれは当たり前のことよね。
いくら我が家が国の食料庫と呼ばれている土地を救った救世主と評価されているといっても、所詮国内にたくさんいる貴族のうちのたった一伯爵家に過ぎないのだ。
それを知らない、または関心のない国民がたくさんいったって、それは当然のことだったわ。
転生前の情報過多な世界とは違うのだから。
けれども、デビンの後ろ盾になったというパロット侯爵家と王家のことは、多くの国民が知っているのだ。特に王都に住む人々は。その悪評と共に。
彼らは私の悪い噂を王都や地方で必死に流していたみたいだけれど、労多くて益少なしだったというわけだ。
そのことに気付いて私は拍子抜けしたわ。
この国で悪評まみれの私の居場所なんてありはしない。だから国外に脱出しよう、と決めて準備をしていたのだから。
ところが実際のところは、自分の領地を出てフォーケン領に足を踏み入れさえしなければ、平民としてどこでも暮らせそうだわ。
たしかに私の顔と名前は全国に知れ渡ってしまったけれど、あの肖像画は似て非なるものだ。
通称名を変えてしまえば、私がルナシー=サンドベックだったことなんて知られることはないだろう。
ということは、わざわざ誰も知らない国などに行かなくてもいいかもしれない。
そうなればオルガとモルガン卿に故郷を捨て去らせる必要もないし、大切な友人や知人とも別れなくて済むのだわ。
私の気持ちはぐっと上昇し、やる気がさらに増した。
私だけでなく国民を苦しめてきた国王と側妃、そしてパロット侯爵家とバイヤール侯爵の悪事を仲間と共に暴いて失脚させてやろうと。
投票については、まあ、やれるだけやるつもりだけれど、おそらく勝てはしないだろう。この男性優位の封建社会の中では。
でもそんな世界に一石でも投じることできれは、そこには波紋が生じ、やがてそれが大きなうねりとなって、年数はかかっても国中に広がるかもしれないわ。
そしてたとえ私が負けたとしても、王太子殿下が即位したら、きっとフリュードをフォーケン領の領主にしてくれるだろうと私は思ったのだった。




