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私は魔法認定指導員。偽りの婚約者様、お覚悟してくださいませ!  作者: 悠木 源基


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第18章 誘惑


 デビンが自分の魔法の力について真剣に知ろうとしなかったツケ、それはかなり大きいと思う。

 自分に掛けられていた魔法が解除された後で私はそう思ったわ。

 あのときはまだ、それがいつになるかってことまでは想定していなかった。

 けれどまさにこれは時限爆弾ね。本人は爆発するまで気付かないままだと思うけれど。

 それを思い浮かべて愉悦していた私は、やっぱり噂通りの悪女だったのかしら。


 まあ爆発しても別に傷を負うわけではないし、罪悪感を抱く必要はないわよね? 身体的な拘束を受けるかもしれないけれど。

 それに私は自業自得のエバーナ王女とは違って、一方的に禁忌魔法を掛けられた被害者なのだから。


 そうなのだ。たしかにエバーナ王女はデビンの被害者だった。

 けれど、自分からわざわざデビンの罠に掛かるような行動した結果なので同情はできなかった。

 しかも、彼女自身も、多くの婚約者同士や恋人達を不幸のどん底に陥れた加害者でもあったのだ。

 だから彼女を助けようとは全く考えなかった。



 あれは私が学園に入学してから二か月ほど経ったころだった。

 昼休みにデビンと二人でランチをしていると、偶然にエバーナ王女が近くを通りかかった。

 そのとき、私はたまたま王女と目が合ってしまった。

 すると、彼女が少しだけ口角を上げたことに気が付いて、背筋がひゅっと冷たくなった。

 というのも、一つ年上のその王女は、婚約者クラッシャーとして有名だったからだ。

 可憐で愛らしいその見た目に反して、彼女は醜悪な性格をしていたのだ。

 ただ面白いからといって、意図的に幸せそうなカップルにちょっかいを出しては破局に追い込む、そんな享楽主義者だったのだ。


 不安になった私はデビンに懇願したわ。王女殿下には気を付けて。絶対に近付かないでと。

 しかしそれは逆効果(私的には幸運)だった。

 私が嫉妬していると思ったデビンは喜んだのだ。

 そして、その後わざとらしく声をかけてくるようになった王女に、彼は嫌悪感を抱くようになったのだ。

 王女が自分のことを、これまで弄んできた連中と同レベルと考えていることに腹を立てたのだ。

 デビンは珍しいと言われる赤髪に、幸運を呼ぶと呼ばれる貴重な金色の瞳を持ち、整った顔をしている。

 しかも彼は次男とは言え侯爵家の令息だったので、かなりプライドが高かったのだ。


「ふざけるな。あんな頭の悪くて醜悪な女を好きになるわけないだろう。

 むしろあの女を僕に夢中にさせてから捨ててやろう」


 と口にしていた。

 そして、それから間もなくしてデビンはついに行動を起こしたのだ。

 それが計画的だったのか、それとも偶然だったのかはわからないが、ずっとタイミングを図っていたのだとは思う。

 学園の中庭で私とデビンが昼食をとっていると、王女がよく通りかかっていたからだ。


 あの日もデビンは私と共にベンチに座って、私の手作りのサンドイッチを食べていた。

 入学したころの私はとにかくデビンに尽くしまくっていたのよね。婚約者というより、まるで推しに夢中なファンのように。


 そんな私達のすぐ前をエバーナ王女がなぜか一人で歩いて来て、わざとらしく白いハンカチーフを落として「あっ!」という白々しい声を上げた。

 するとデビンはすくっと立ち上がると、王女のすぐ前まで進み、片膝を着いてそのハンカチーフを拾った。

 しかしその瞬間、彼は突然に苦しみ出して地面に蹲ったのだ。

 国王の命令で私が婚約者を決めることになっていた、あの日のように。

 おそらくあの時に彼は王女に「誘惑」の魔法を掛けたのだろう。

 私の頭の中で、カチリ!という鍵が回された時のような音がしたからだ。


 三年半前、フォーケン伯爵邸にやって来たデビンは、私の目の前で突然苦しみ出してその場にうずくまった。

 驚いた私が思わず彼の肩に触れると、デビンは顔を上げてその珍しい金色の瞳で私の瞳を見つめた。

 するとその瞬間から私は彼に夢中になって、彼以外のことはどうでもよくなってしまったのだ。


 そのわずか四か月後に、私に掛けられていた「誘惑」の魔法は突然解除された。

 そしてその解除された理由を、私はその場でなんとなく理解したのだ。

 


 エバーナ王女は目の前で蹲ったデビンに驚いて声を掛けた。

 すると苦しげに顔を上げたデビンの金色の目が彼女の目を射抜いた。

 すると、王女の顔が薔薇色に染まり、トロンとした瞳で彼を見つめたのだ。

 彼女は今恋に落ちた。いや落とされたのだと私は感じた。

 そしてそれと同時に、今までデビンに対して抱いていた私の恋愛感情がすっかり消え去っていることに気が付いたのだ。

 というより、なぜ自分があんな男を婚約者に選んだのかがわからず、パニックを起こしそうになった。 

 自分はフリュードが好きだったのに。いえ、今でも好きだ。それなのに。


 フリュードは今どこにいるの?

 会いたい、会いたい、会いたい……


 でも会えるわけがない。私は彼を捨ててあの男を婚約者に選んだのだから。

 だけど、なぜ私はろくに話をしたこともないデビンを選んだのか、全くわからなかった。

 たしかに彼は珍しいと言われる赤髪に幸運を呼ぶと呼ばれる貴重な金色の瞳を持ち、整った顔をしている。

 しかし、卑しい性格がその表情に表れているし、いくら美形とはいっても、自分が彼に一目惚れしたとは到底思えなかった。

 そもそも私は超絶美形のフリュードのことを愛してきたけれど、決して面食いではなかったのだから。


 学園の中庭のベンチで悶絶していた私のことなど一切気に掛けることなく、デビンは王女の手を取ってどこへとなく消えてしまった。

 さっきまで私の隣で仲良くランチを食べていたのに。

 

 二人の姿が視界から消えると、ようやく少しパニックがおさまってきた。

 冷静になるにつれて、私の頭も徐々に動き始めた。そして婚約した日からの事を振り返って、一つの結論に達した。

 私はあの男に怪しい魔法をかけられていたのだと。おそらく魅了系の魔法……

 

 前世で読んだ転生物の話には、男爵令嬢が魅了魔法を使って地位の高いご令息や王子を虜にするという設定が人気だった。

 そして今私が転生したこの世界にも魅了魔法は存在するはずだわ。たしか禁忌魔法になっていて、許可を得ずに使用したら即投獄されるはずだ。

 そしてそのとき、もう一つ「誘惑」という禁忌魔法があったとことを思い出したのだった。

 

 私はその足で学園を早退して、王立図書館へ駆け込み、その後は休日の度にひたすら魔法に関する専門書を読み耽った。

 そして平日は昼休みや放課後の生徒会活動の合間に図書室へ通った。

 私は魔力無しだったので選択していなかったが、学園では魔法学も教えていたので、図書室には殊の外蔵書が揃っていたのだ。

 そのおかげで私は魔法認定指導員の試験に合格するほどの知識を得られたというわけだ。


 それにしても、人を誘惑し、自分を愛するように命じ、強制的に恋の虜にする。

 そんな恐ろしい魔法なのかしら。

そんな禁忌魔法を私だけでなく、王女にも使ったのだ。

 ばれると思っていないのだろうが、なんて怖いもの知らずなのかしら。


 いいえ、王女だから使ったのかもしれないわ。

 だって、デビンは自分には魅力があるから、女性なんて自分の思い通りになると信じ込んでいる。

 そんな彼が女性を誑し込むために、激痛に耐えてまで、魔法を気安く使うとは思えなかった。私で懲りたはずだから。

 それなのに王女にも使ったのは、もし普通に誘惑して失敗したら面倒だと考えたのかもしれないわね。

 その証拠に王女と恋人関係になってからも、デビンは隠れてあちらこちらのご令嬢に声をかけていたから。


 彼はきっと「誘惑」の魔法を使わないだろうと確信を持ちながらも、彼の邪魔をしていた。

 嫉妬をしていると思われることは業腹だった。

 けれど、彼には私の目標達成までは魔法を使わせたくはなかったのだ。

 だって、王女に掛けた魔法が消えたら、いくらあのデビンだって自分の潜在魔法が持つ特異性に気付くかもしれないもの。

 もしそうなったら、私にもう一度掛け直そうとする可能性があるからだ。

 それに迷惑がっているご令嬢方を守りたかったし、王女による婚約解消になるカップルをこれ以上出したくなかったし。

 


 すると殊の外ご令嬢方から感謝された。

 やはりデビンは女性に好かれるような人間ではなかったのだ。そう再認識した私だった。


 とはいえ、あちらから先に婚約解消を言い出されてしまったので、今後は彼に近付いて阻止することはできなくなった。

 予定は未定とはよくいったものだ。私の目論見は狂ってしまった。

 けれど、さすがにこの状況下で王女以外の女性に色目は使わないでしょう。

 選挙活動で多忙になるだろうし。



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