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私は魔法認定指導員。偽りの婚約者様、お覚悟してくださいませ!  作者: 悠木 源基


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第13章 先輩転生者


 なんと、イケメンマッチョの騎士様の父親が転生者だという。

 しかも前世は太平洋戦争時に零戦(ゼロせん)の飛行訓練中に亡くなった、海軍予科練の学生だったという。


 私は中学生のときに、夏休みの自由研究のために、とある大きな湖の側にある予科練記念館へ見学に行ったことがあった。

 そこは戦前、全国から成績優秀で運動神経抜群のエリートの少年ばかりが集められた学校だった。

 当時の映像も残っていたが、皆がオリンピックに出られるのではないかと思えるほど高度な訓練をしていた。


 自分とそう年の変わらない若者達が、人生は三十年……なんて考えて訓練していたと思うと、やり切れない思いがした。

 戦争自体は当然だが、思想教育の恐ろしさをしみじみと感じたものだ。

 バンクスさんもあの映像の中の少年達の一人だったのかもしれない。


 奇しくも私も十七歳で死んだので、今また切ない気持ちになった。

 もっとも私はそれまでは平和で呑気に暮らしていたのだから、戦時下に生きていた若者とは、その辛さは比較にならないかもしれないけれど。

 そんな過酷な前世を生きたその方は、この世界に転生して幸せになれたのだろうか。 

 非常に気になって、どんな人生だったのかを訊ねてみた。


 すると、ノルディン卿のお父様のバンクス様は、ルドルフ先輩の家とは親戚筋に当たる男爵だそうだ。 

 なんでも私が入学する前の年まで、学園で体育と国語の教師をしていたらしい。

 文武両道の優秀な人物で、故事やことわざが大好きで、彼の会話の中によく盛り込まれていたという。それを生徒達が広めていったようだ。


 そして学園を退職した今は、バイヤール侯爵家の私設騎士団で教官をしているそうだ。

 先輩とノルディン卿も、バンクスさんの厳しくも的確な指導を受けたからこそ、今のように逞しくなったみたいだ。


「俺って痩せて見えるみたいだけれど、結構筋肉付いているんだ。

 いわゆる痩せマッチョ。脱いだらすごいんだよ」


 先輩は上着を脱ぐ振りをして、オルガに睨まれていた。

 これって物語によく出てくるお決まりセリフだったから、私は別に気にしなかった。

 けれどこの世界の令嬢としては、やはり恥ずかしがる振りくらいはすべきだったかしら?


 


「前世のバンクス卿は、本当は教師になりたくて師範学校に入ろうと考えていたらしいよ。

 それなのに担任教師から、力試しに海軍航空隊を受けてみろと言われたそうだ。

 すごい倍率の試験だったから、どうせ受かるわけないと思いつつ、半ば強制だったから仕方なく受験したら、合格してしまったみたいだ。

 おそらく本人が自覚していなかっただけで、この世界と同様にかなり優秀だったのだろうね。頭も体も。


 海軍航空隊といったら当時の少年の憧れだったし、家族だけじゃなく親類や学校にとっても名誉だった。だから入隊せざるを得なくなったらしい。

 教師が自分の評価を上げるために自分を騙したのだと、その後すぐに理解したそうだ。

 そのときから、教師になる夢も儚く消えたと言っていたよ。

 それなのに、転生してなぜ教師になったのかというと、自分はあんな教師にならなければいいんだっていう、当たり前のことに気付いたからだってさ」


 すごいなあ、バンクス様。前向きだわ。前世のことを無駄にしていないもの。

 ルドルフ先輩もそう。

 検事だった経験を活かして、今現在王城に溜まった汚れた澱を払おうと、王太子殿下と共に改革を進めようとしているんだものね。


 過去の私は、目的もなく、ただのほほんと暮らしていた女子高生だった。

 でも、それでも一応それなりに一生懸命生きていた気がするわ。

 そして改めて振り返ってみると、今は結構頑張ってきたじゃないか……と思う。

 ただし私の場合、それが報われたかというと全くそうじゃなかったけれど。

 初恋の相手から嫌われて、手酷く復讐されるし、領民からも裏切られた。

 家族には軽蔑されて見放されているし、友には勝手に期待された挙げ句がっかりされたし。


 でもルドルフ先輩は一人でよく頑張ったなと言ってくれた。

 たった一人でも褒めてくれる人がいたら、自分を誇ってもいいよね。

 それに先輩と会うきっかけになったのは、ポスターに筆で書いた文字だった。

 前世で習字を頑張ったおかげだし、それを生かせたと言ってもいいよね。

 そう考えれば、私の前世の努力も無駄にはならなかったよね?

 しかも、私にはその習字を駆使して、まだやらなくちゃいけないことがあるのだ。


 


「それで、俺に頼み事ってなんだい?」


 ルドルフ先輩の方から、本来すべきだった話へと誘導してくれた。


「ええと、サポーター募集のポスターの件なのですが、私はそこに、これを書き加えたいのです」


 私はまずテーブルの上に、毛筆を使って赤色の絵の具で書いたニッポン語の文字が記されたポスターを置いた。今朝、みんなの前で披露した紙だ。

 そしてその上にもう一枚紙を重ねた。それは昨日フリル=ボーンから渡されたポスターだ。

 それを見たルドルフ先輩は目が点になった。

 そして「あいつ……」と困ったように呟いた。

 彼が何を言いたいのかはわかっていたので、私がまず先にこう言った。


「パロット侯爵家とバルガーニ侯爵の悪事、それをこのようにズラッと書き記されたポスターなんて、掲示できるわけがないってことくらいわかっています。

 でもフリルさんが言ったのです。暗号みたいなのがあったらいいのになって。


 そこで閃いたのです。

 毛筆を使ってニッポン語で書いたこのポスターを見せれば、転生者が見つかるのではないかと。

 まあ一種のかけですが。

 漢字は象形文字ですし、文字だと認証されず、絵とか単なるデザインと受け止められるのではないかと。

 実際に先輩以外の方は不思議な模様だなあ、と小首を傾げていただけでした。


 あの人数の中でさえ、先輩のように前世の文字だと瞬時に理解した人がいたのです。

 ですから、私の名前とサポーター募集の文字以外、つまり告発文の方は前世の文字で書けばいいのではないかと。

 そうすれば特定の人だけにわかってもらえると思うのです。

 これを全国に掲示すれば、私達以外の転生者が見つかるのではないでしょうか。


 もちろん、転生者が全員こちら側に付いてくれるとは限らないです。

 ですが、わざわざあちら側に付くとも思えないのです。

 だって密告したら、どうしてお前はその暗号を読めるのだと問われることになるでしょう?

 とてもじゃないですが説明できないじゃないですか。

 正直に話しても頭がおかしいとか、不審人物と思われるだけでしょうから。

 もしかしたら幽閉されて利用される可能性もあるでしょうし。


 ですから試してみることは、デメリットよりメリットの方が大きいと思うのです。

 同じ秘密を抱えて悩んでいる者達が仲間を得られて、孤独から抜け出せるわけですし」


「なるほど。

 それで、お願いっていうのは、俺にその文字を書くのを手伝えってことか?

 習字はあまり得意じゃないんだが、まあ、いいか」


「いいえ、違います。お忙しい先輩にそんなことまでしてもらうつもりはありません。

 文字は私が書くのでそれは大丈夫です。

 私がお願いしたいことは、この告発文の翻訳です」


「翻訳? 何語に?」


「先輩は検事だったのですから、学校の成績がかなり良かったのでしょう? 

 ということは、会話はともかく英作文はお得意だったのではないですか?

 それに大学では第二外国語も学ばれていたはずですよね?」


「ああ。英会話も得意だったぞ。帰国子女だったからな。あと中国語もそこそこできる。それがどうした?」


 三か国語も話せるなんてすごいわ。

 私は()()()だって怪しかったのに。



【ミニ情報】

瀧野瀬陽菜乃は地方都市に住む女子高生でした。

訛りや方言はそれほどなかったのですが、イントネーションやアクセントが標準語とは多少違っていました。

本人はあまり自覚していませんでしたが。


読んでくださってありがとうございました。

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