第1章 婚約解消
この話で91作品目の投稿となります。
またもや転生の話です。
特に今回はその必要性が高かったので。
読んでもらえると嬉しいです。
「サンドベック伯爵令嬢、これまで我がバルガーニ侯爵家のために色々と尽くしてくれてありがとう。心より感謝する。
しかし、王命によるこの婚約は、君にとってはさぞかし不満で耐え難きことだったろう。
これ以上君に辛い思いをさせることは、僕にとっても心苦しい。
それ故に、君の幸せのために、君を縛り付けてきた呪縛から解き放し、自由に飛び立たせてやりたいと思う」
元フォーケン伯爵家の屋敷の応接間で、デビン=バルガーニ侯爵令息はいつになく恭しくこう言った。
かなり芝居がかっていて胡散臭かった。なにせ普段は魔力無しの私を下に見て小馬鹿にしてくる人なのだから。
というより、婚約してからのこの二年半、最低限の付き合いしかしてこなかったはずだけれど。
私は胡乱の目で彼を見つめながらこう訊ねた。
「抽象的過ぎて意味がよくわかりません。具体的に貴方様は何をおっしゃりたいのですか?
いくら不毛な付き合いしかしてこなかったとしても、さすがに私の性格はご存知ですよね?
私はまどろっこしい会話は嫌いです」
その宣言がなされるであろうことはほぼ確定事項だった。
しかし、予想よりは大分早かったな。私は少しばかり驚いたが、それでも平然とそう訊ねた。
すると、興を削がれて気分を害したのか、デビンはいつもの皮肉っぽい下品な表情に変わり、こう言った。
「ああ、そうだったな。一応貴族令嬢だというのに、君は言葉遊びとか、会話の中に含む言葉の綾を楽しむという、優雅な嗜みを理解出来ない人間だったね。
しかも話の裏さえ読み取れない君のような単細胞では、貴族との人付き合いなんて到底無理……つまり、そういうところなのだよ」
「そういうところ?」
「ああ。君は真っ当な社交ができない。
確かに君は頭がいい。勉強熱心で知識も豊富だが会話が楽しくない。つまり貴族夫人としては致命傷だ。
そんな令嬢をバルガーニ侯爵家の僕の妻にはできない。だから婚約を解消したい。
この土地は僕がしっかりと守ってみせるから、君はここに囚われることなく、自由になってくれ、ルナシー嬢」
まあ一理あるわね。でも私が楽しい会話をしてこなかったのは、あなたの話がつまらなかったからよ。
もちろん、あなたが嫌いだったからでもあるけれど。
クラスメイトや生徒会メンバーとは楽しく過ごしてきたつもりよ。
だって私はあなたとは違って最低限のマナーや常識は持っているつもりだもの。
それにしても、意外だわと正直私は思った。
派手好き、目立ちたがりのデビンのことだから、卒業式とかどこかのパーティー会場で、もっと芝居がかった婚約破棄宣言をするのかと思っていたからだ。
でもそこまで馬鹿ではなかったようだ。まあ私達の婚約には国王が関与しているものね。
つまり一方的な婚約破棄などをしたら、それこそ王命違反をすることになる。
さすがに公衆の面前ではやらないか。いくら恋人の王女のフォローが期待できたとしても。
でも、つまりこれって、結局国王陛下も了承しているってことなのかしら? あの親馬鹿のことだから。
でも、エバーナ王女のしていることは不貞と同じよ。婚約者のいる男と恋仲になって、それが原因で婚約解消となるわけだし。
この婚約はそもそも国王が決めたことなのに、やっぱり娘には甘いわね。
これまでも国王陛下は娘可愛さで散々理不尽な真似してきたけれど、ここまでくると呆れを通り越して憐れみさえ感じるわ。
でも、もしこれが認められたら、この国では契約なんて守らなくていいってことになるわよ。それでもいいのかしら?
そんなことにも気付かないぼんくらで恥知らずな人間が国王だなんて、この国はもう終わりよね。
契約も守れない国と条約を結ぼうとする国があるとは到底思えないし。
いえいえ、そもそも外交自体しようと思わないわよね。契約を軽んじる国なんて信用できないもの。
それよりもまず、自国の貴族達が王家を信用しなくなるわよね。
あっ! 今さらかしら?
公人より私人の立場を優先する人間なんて、国のトップに立っているべきじゃない。
もし小説のように冤罪吹っかけられた挙げ句に破棄されたら、徹底的に攻撃してやるつもりだった。
とはいえ、浮気相手が王女じゃ慰謝料請求するのも面倒だしなあ、なんて思っていたのも事実。
だから、私としては婚約解消してくれるというのなら万々歳で、文句を言うつもりなんてないし、まあ結果オーライかな。
それに王女は婚約者クラッシャーだったけれど、デビンに関しては一応被害者とも言えるしね。
いくら最初に彼に対してちょっかいを出したのは王女自身だったとしても。
まあどちらにせよ彼女の自業自得なので、親切にそのことを教えてあげるつもりはないけれど。
でもね、この土地に関する権利をただで手放すつもりはないわよ。
ここを再建するのに、我が家がどれだけ資金と労力を注ぎ込んだと思うの?
お父様が自分の個人資産で援助したのなら、お父様さえ納得できるなら私は文句など言わない。
けれど、領民の税金から出したのだから、儲け分は諦めるとしてもせめて元手くらいは回収しないとね。
もしそれを無視するようなら、今後バルガーニ侯爵家だけでなく王家に協力する者なんていなくなるわよ。
たとえあのでっち上げの私の嘘エピーソードを流布したとしてもね。
私はデビンとバルガーニ侯爵家に対する切り札を持っている。
この三年近く、彼らに反撃、いや復讐かしら?
その準備をするためだけに、私は自分の貴重な学園生活を費やしてきたのだから。
読んでくださってありがとうございます!




