日常の破棄
こんにちわはじめまして。
私はごく平凡なトラック運転手をしてる柊木田一40歳。
愛する妻と今度中学生になる一人娘。
それと塩対応するも可愛い猫2匹と仲睦まじく暮らしているいわゆる中流階級って感じの一家の大黒柱である。
本日も深夜から仕事をして配達に勤しんでる訳なんだがふと気になるニュースがテレビやっていたんだ。
それは仕事に出る前の夕方自宅での食事中につけていたテレビのニュース番組の占いみたいなコーナーだった。
「今この番組を見てるそこのあなた!そうあなた!新しい力に目覚める事になるでしょう!」
突拍子もないが普通に聞き流していた。さっさと食事を済ませて仕事に向かわなければ。我が家は共働きで妻は日勤でもう少しで帰ってくる。娘も小学校のクラブ活動を終えて帰宅していて宿題を済ませて携帯ゲーム機で遊んでいる。
日中は休んではいるが家事全般はあらかたやったので娘に妻の帰宅後食事をするように伝え乗用車に乗り仕事へ向かう。
「じゃあ仕事行ってくるね。晩御飯あるからママとご飯たべてよー。」
「はーい。いってらっしゃい。」
最近娘もお姉さんになってきて昔みたいにベタベタしなくなったから少し寂しい気はするがまぁ良い距離感になってきた気がする。
妻にもスマホでメッセージを送り仕事に行く旨と晩御飯の用意がある事を伝え自宅を出発。
まさかいつもと変わらないこの日常が今日一変するとはこの時には思う事もなかった訳で。
そして深夜の今に戻るって訳。
私の仕事はいわゆる深夜のトラック配送で主に閉店後のスーパーに商品を1人で降ろして納入。何店舗か回ってセンターに戻ってまた配送、これを朝までに終わらしての仕事になる。
仕事内容的に電気は微妙についているとはいえやはり誰もいない店内に商品を納入するのは結構怖い事もある。
明るい入り口の方ではなく真っ暗なバックヤードから納入するのは最初は慣れなかった。
今日もいつもの店舗に着き商品を台車に載せてバックヤードから入る。セキュリティもあるので会社から渡されてる専用カードでロックを解除して入場。
いつも通りの流れである。
所定の位置に商品を納入してトラックに戻ろうとした時ふと気づいた。
「なんかいる?」
いつもは何の気配も感じないのだが今日は誰かに見られてる感じがする。いや絶対なんかいる。いつもと違う雰囲気にまさかの強盗や泥棒の類か?色々な思考が出てくるが格闘技やその手の類いは全く経験がない。
プチパニックになっていたが取り敢えずトラックに戻ろうとした時それは起こった。
「はーい!おめでとうございます!あなたは幸運にも世界を救う救世主に選ばれました!」
「うわぁ!何だあんた⁈どこから入って来たんだ⁈」
トラックに戻ろう通路に出た瞬間現れたのはあのテレビニュースの占いコーナーに出ていた占い師だった。真っ黒なローブ見たいなのを羽織った某魔法映画に出てきそうな格好だ。男か女なのかはわからない。
「夕方言ったでしょ?新しい力に目覚めるって。だからそれを伝えに来たんじゃない。」
もうプチパニックどころじゃない。
いきなり深夜のスーパーでそんな事を言われて取り敢えず警報スイッチを押そうと思い探す。丁度手な届く所にスイッチを発見したので力強く押す。
が全く反応しない。
占い師は言う。
「あ、今時間を止めてるから無駄だよ。取り敢えず時間ないから手短に話すけどちょっと世界が混沌としてて魔族がもう少ししたらこの世界に来るんだよね。それであなたに色々やってもらいたいのよ。」
もう意味がわからない。
とっさに質問した。
「何で俺なの?あんたは誰だ⁈」
「その質問は無し。これも運命ってやつだからねぇ。取り敢えずステータスは上げとくから後は色々試してみてね!それじゃ!」
占い師は私に手をかざすと一瞬で消えていった。
その瞬間私の体が光ったように見えたが全くわからないままだった。
訳がわからなかったが次に気付くと警報スイッチが鳴り出し程なくして警備会社から警備員が来た。
私は事情を説明しようとしたがあまりにも突拍子もない事なので間違えて押してしまったと伝え会社に帰り上司に注意され帰宅した。
全く意味がわからない。一体なんだったんだあれは。
妻にも話そうと思ったが今はやめておこう。
取り敢えず疲れたので風呂に入って寝ようとベッドに入ろうとした時スマホニュースを見て唖然とした。
【日本上空に紫色の雲が突如発生 中から異形な生き物が発見】
「は?なんなんそれ?」
慌ててリビングでテレビをつける。
生中継されてるニュース映像を見て驚愕する。
映っているのはまるで天使の様な姿をした異形だった。
人間の肌の様な姿に白いローブの様な物を見に纏ってはいるが、顔と呼べる場所にはまるで地獄にいそうな鬼や妖怪の類い、あるいは目と鼻の位置が逆の者や笑顔が崩れた様に見える者もいる。
中継している現場のリポーターは言う
「これは一体何なのでしょうか?世界の終わりかはたまた宇宙人の襲来なのでしょうか?あ、今私の近くに一体降りてきました!」
映像で見た限りリポーターの3倍はありそうな体格だ。
テレビクルー達の前に降りた異形はまるで人間を観察するかの様に首を傾げる。
「今私達は未知の生命体とコンタクトを取ろうとしています!カメラ近寄って!あなた方はどこから来たのですか⁈」
リポーターがマイクを異形に向けたその瞬間、手の先からまるで産まれたばかりの赤ん坊の様なうめき声と共に人間とも動物とも取れない不思議な生き物が出てきた。
テレビクルー、スタジオ、視聴者が皆固まっている。
次の瞬間その生き物はリポーターの首に噛みつき鋭いキバでズタズタに捕食して行った。
一気にその場が凍りつく。
「カメラ切り替えて!なにやってんの!」
スタジオのキャスターが叫ぶと同時に画面が一面花畑の映像に変わった。
いったい何が起きてるんだ
自分が本当にこの世にいるのかを疑った内容に困惑している。
次の瞬間妻と娘の顔が浮かんだ「これはまずい!」
即座に妻の携帯に電話をかける。
2コール程ですぐに出た。
「お疲れ様。どうしたの?」
まだ異常には気付いてないようだ。
私は端的に伝えた。
「テレビの中継でまずい事が起きてるんだ。これは冗談じゃなく本当の事だよ。多分電車も使えなくなる気がするから取り敢えず会社で待機してて。茜を小学校に迎えに行ったら次は君を迎えに行くから」
妻は私の言葉に戸惑う様子はあったもののわかったと言って電話を切った。
まだ電話が繋がっていてよかった。ここからは時間とタイミングの勝負だなと思った。
直様着替え小学校に向かう前に自宅の雨戸を閉め鍵が付いている所は全て施錠した。
外に出ると空が紫色になりかけている。異様な光景だ。
このパターンは多分乗用車だと詰まるな。
私は通勤用のバイクに跨り娘の小学校を目指した。
「頼む。無事でいてくれ。」