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8 古い文献 - 雅都の伝承

雅都の朝、竹林に差し込む柔らかな光が、葉の間を揺れながら地面に模様を描いていた。

風が笹の葉を撫でる音は、まるで遠い昔の記憶を呼び起こすかのように耳に響く。

俺は神社を訪れた参拝客、清野の足取りを追った結果、祠と狐火、そして失われた魔水晶の間に潜む複雑な糸を感じ取っていた。

その糸をさらに解きほぐすため、俺は宮司から紹介された雅都の資料館へと向かうことにした。


資料館は、瓦屋根に囲まれた広い庭の奥に静かに佇んでいた。

入口の軒下には干し柿が吊るされ、木枠の引き戸が日差しを受けて鈍く光っている。

中に入ると、古びた木の床が足音を吸い込み、ほのかな檜の香りが漂っていた。


案内役の館主は、穏やかな笑みを浮かべながら俺を迎え入れた。

「お探しのものは、奥の巻物棚にあるかもしれません。この街の魔水晶に関する記録は、古い伝承の中に多く残されています」

館主の言葉に従い、俺は巻物棚の前で手を伸ばし、埃を被った幾つかの巻物を取り出した。


巻物を広げると、そこには雅都の歴史と共に、魔水晶にまつわる伝承が描かれていた。

その中で、特に目を引いたのは、雅都を守る神々と「封じられた力」に関する記述だった。


「魔水晶、それは遥か古より雅都の結界を支える要となりしもの。

しかしその力の根は、人が触れるべからざる災厄を封じ込めた器でもある」


その一文を読み進めると、魔水晶の力が単なる結界の維持ではなく、街そのものを覆う脅威を封じ込める役割を持つことが記されていた。

さらに、封印が破られた際、災厄が再び目覚める可能性についても触れられていた。


「封印されていた災厄……」

俺はその言葉を反芻しながら、さらに詳しく巻物を読み進めた。

そこにはこう記されていた。


「封印が解かれる時、狐火の形をとり、その力は山の主を通じて顕現する」


狐火――それがこの街で語り継がれる神秘的な光だけでなく、封印の崩壊と密接に関わっている可能性が浮かび上がった。

さらに、山の主の存在が、魔水晶の力を媒介として街全体を守る役割を果たしていたことが分かった。

しかし、今その全てが失われ、封印が破られたならば……。


巻物を閉じた時、館主が静かに近づき、言葉を紡いだ。

「狐火をご覧になりましたか?あの光を追う者は、しばしば帰らぬ人となると聞いております。

それでもなお、真実を求めて進まれるのでしょうか」


俺はその問いに頷きながら答えた。

「この街で起きていること、その全てを明らかにしなければならない。

狐火が何であれ、それを追わずしてこの謎を解くことはできない」


館主は少し黙り込み、やがて巻物の中からもう一枚、別の古い記録を手渡してきた。

「これをお持ちください。この記録には、狐火と祠の詳細が記されています。

古代の術式と共に……それが役に立つかもしれません」


夜の帳が降りる中、俺は資料館を後にした。

街を歩くと、遠くの竹林にまたもや青白い光が揺れているのが見えた。

それは俺を誘うように明滅を繰り返し、やがて再び闇の中へと消えた。


「狐火、祠、魔水晶……全てが繋がり始めたな」

静かな夜風に吹かれながら、俺は巻物を握りしめ、次の一手を考え始めた。


この街の美しさの裏に隠された影を暴くため、俺はさらなる闇へと足を踏み入れる覚悟を決めた。

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