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12 闇の取引 - 消えた魔水晶の行方

夜が深まるにつれ、雅都の街は静けさを取り戻し、月光が石畳を淡く照らしていた。

瓦屋根に霧がうっすらと降り、風の音もかすかに遠くで響くのみ。

だが、この静寂の裏では、何者かが暗闇に紛れて動いている――俺はその気配を感じながら、竹林の奥へと足を進めた。


倉庫で見つけた術式の図が示す場所、それは街外れの古い商家の敷地内だった。

そこには、人々の目が届かぬ場所に隠された地下の空間があると記されていた。

古びた門扉は閉ざされていたが、錆びた鍵穴を慎重に調べると、意外にも最近使われた跡が残っているのが分かった。


俺は静かに門を開け、敷地内へと入り込んだ。

竹林に囲まれた庭の奥には、地面に降り積もった枯れ葉が一部だけ不自然に剥がれている場所があった。

その下を掘り進めると、地下への石段が顔を出した。


石段を降りると、冷たい空気が肌を刺し、薄暗い地下空間に辿り着く。

壁には古い燭台が取り付けられており、そこに灯る小さな炎が地下の広間をぼんやりと照らしていた。

その広間の中央には、見覚えのあるものが置かれていた――魔水晶の台座だ。


しかし、魔水晶そのものの姿はない。

台座の周囲には複雑な術式が描かれ、床には赤黒い染みが散らばっていた。

それはまるで、何かがここで儀式を行った痕跡を思わせる。


俺は慎重に台座の周囲を調べ始めた。

「……ここで何が行われたのか」

床に描かれた術式の線を指で辿ると、その中心には祠から失われた木片と同じ模様が刻まれていた。

「これは、結界の反転を引き起こすためのものか」


その時、背後から小さな気配を感じた。

素早く振り返ると、そこには黒い外套を纏った商人風の男が立っていた。

その手には小さな魔石が握られ、かすかに光を放っている。


「おや、見つけられてしまいましたか……あなたが一条零殿ですね?」

その声には皮肉めいた響きがあり、俺を嘲笑うように響いた。


「お前が、ここで何をしているのか聞かせてもらおうか」

俺は刃に手を掛け、冷静な声で問いかけた。


男はゆっくりと手を広げ、魔石を台座の上に置いた。

「これこそが、雅都の守護たる魔水晶を封印から解き放つ鍵。

私たちは、これを使って新たな力を手に入れようとしているだけです」


その言葉に、俺は眉を潜めた。

「魔水晶の力を解放するだと?その結果、この街に何が起きるか分かっているのか」


男は薄く笑いながら続けた。

「もちろんです。ですが、この力は私たちが支配するためにこそあるべきもの。

街を守るだけに使うのは、あまりにも勿体ないと思いませんか?」


言葉を交わすうちに、俺は男の背後にあるもう一つの影に気づいた。

それは、人の姿ではなく、獣のように歪んだ形をしていた。

「それが……お前たちが解放した力の一端か」

俺の問いに、男は肩をすくめた。

「正確には、まだ完全ではありませんがね。この影もまた、魔水晶の力の一部に過ぎません」


その瞬間、影が動いた。

素早く跳躍し、俺に襲いかかる。

俺は刃を抜き、影の攻撃をかわしながらその姿を捉えた。


影は実体を持たず、まるで煙のように形を変えながら動き回る。

その動きは不規則で、何度も攻撃を繰り出してくるが、俺はその動きを冷静に見極め、一撃を加える隙を探った。


俺の刃が影を切り裂くと同時に、男が慌てたように魔石を取り上げた。

「ここまでされるとは……ですが、次が本番ですよ」

そう言い残し、男は影を引き連れて地下の奥へと逃げていった。


俺は魔水晶を巡る全ての糸が、この地下で絡み合い始めていることを確信した。

雅都の静寂を破る闇の力を追い詰めるため、俺はさらに奥へと進む覚悟を決めた。


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