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1 雅の街 - 神隠しの始まり

薄紅の霞が、山々を覆う雅都みやこの朝。


竹林の緑がしっとりと朝露を湛え、風が笹の葉を揺らす音は、まるで古琴の音色のように耳を包む。

山裾から連なる石畳の道には、苔が緑の絨毯を敷いたように広がり、朱塗りの鳥居が幾重にも連なっている。

その奥にひっそりと佇む神社は、町民から「雅都の守護」と崇められ、長い歴史の中で常に静寂を纏ってきた。

だが、その静けさの奥に何かが潜んでいる――そんな不穏な気配が漂っていた。


俺が雅都に辿り着いたのは、旅の果てだった。

この街はまるで時間を超越したかのように古風な佇まいを保ち、穏やかな日常を映し出している。

だが、その穏やかさの中にも、何か目に見えぬ揺らぎがある。

「神隠しの街」――そんな噂を耳にし、この地に足を踏み入れた俺の前に、最初の謎が立ちはだかった。


雅都の神社の奥に祀られた「魔水晶」と呼ばれる神秘の石。

それはこの街を守護し、魔力を循環させる存在だとされている。

だが、その魔水晶がある夜、神隠しのように忽然と姿を消した。


神社へと向かう道は、竹林に囲まれている。

風が笹の間を抜ける音が耳に心地よく、鳥居をくぐるたび、空気が次第に研ぎ澄まされていく。

朱色の柱が濃い緑の中で際立ち、山の斜面を登るごとに、徐々に遠くの町並みが見渡せるようになった。

朝の光を浴びて煌めく石段を一歩一歩進みながら、俺は心の中に広がる奇妙な予感を追い払おうとしていた。


「魔水晶が消えた夜、不思議なことが起きました」

神社の宮司が俺を迎え、静かに語り始めた

その声は落ち着いていたが、その奥には戸惑いが隠せなかった。


「神社の奥の祠に祀られた魔水晶は、厳重な結界によって守られていました。

その結界は外部から破壊されることはまず不可能です。ですが、翌朝、祠は跡形もなく、ただ台座が残るばかりでした」


宮司の言葉に、俺は眉を寄せながら神社の奥へと足を進めた。

結界を張るための魔法陣が描かれた石畳は、苔に覆われ、その柔らかな感触が足元を伝ってきた。

祠があった場所には、石の台座だけが静かに佇んでいた。

その表面にはかすかな魔力の残滓が漂い、何かを訴えかけているようだった。


俺は台座に触れ、その冷たさと重さを感じ取った。

指先からわずかに残る魔力の痕跡が、かつてここにあった何かの存在を物語っている。

その瞬間、わずかな焦げ跡が台座の北側にだけ残されていることに気づいた。

「これは……ただの消失ではない」

俺は低くつぶやきながら、視線を巡らせた。


神社を後にする道すがら、竹林の向こうにふと青白い光が揺れるのを見た。

それは狐火――雅都に古くから伝わる現象だ。

その光は、まるで俺の進む道を見透かしているかのように揺れ、やがて霞の中へと消えた。


「ただの偶然ではなさそうだな」

雅都の穏やかな空気の中に、不穏な気配が確実に混じっている。

この街の静けさに隠された謎を解き明かす、俺は決めた。

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