僕がただ竜を殺すだけの物語 第1章 運命の出会い 第94話
いよいよ明日にはアルデンサルを去る事になる、ここでの出来事を僕は一生忘れないだろう。
夜風に当たるために窓を開けていると、野暮用があると言って席を外していたレイが戻って来た、
「どうしたシリル、暑かったのなら空調を入れても良かったんだぞ」
レイは壁に取り付けられた空調のスイッチを指差した、確かに初めて体験した時はとても驚いて凄いと思ったけれど、今はアルデンサルの風に当たりたい気分だったのだ。
「せっかくだからね、星でも見ながら涼もうかと思ってさ」
「そうかぁ、まあシリルがそれで良いなら別に構わないぞ」
僕は小さく頷いて再び窓の外へ視線を移した、街の喧騒からは離れたところに有るからなのか、外の世界はとても静かで、人の手で整えられた木々はさわさわと耳に心地よく鳴っている。
夜空に目を移すと無数の星たちが煌めいている、ここから見える星はアトモスからも見えるのだろうか、今までの僕ならそんな事を考える事なんて無かった、空に星が有る、それだけで済ませていた。でもなぜだろう、今はこの星たちひとつひとつに名前を付けて覚えていたい、そして再び夜空を見上げた時、そこにまだ有るのかを見つけたいと思った。
「今日は晴れだからシリルが良く見えるな」
いつの間にかレイが僕の横に立っていて夜空を指差していた、
「からかわないでよ」
感傷に浸っていた僕を現実に引き戻すレイの言葉に、少し腹立たしく思った僕は語気を強めて返事をするとレイは少し驚いたような顔をして、
「なんだ、本当に知らないのか、あれがシリル、そしてその隣にあるのがアルタレイ、そしてその隣がフェリシア。この時期はあの3っつの星を中心に見て、自分がどの位置に居るのかを確認するんだが、学校じゃあ習わないか」
「え、じゃあ本当にあの星はシリルって言うの、どの星の事なの」
「ああ、俺の指さす方向に少し赤みがかった星が見えるだろう」
レイの指さす方向には確かに一際明るい星が見えた、あの星の名前がシリル、僕と同じ名前の星。
「そしてその隣がアルタレイ、フェリシアと、この3つは覚えておいても損は無いな」
「レイが星に詳しいなんて知らなかったよ」
僕の言葉にレイは肩を落としてがっかりした後で、目頭を押さえながら、
「シリル、狩竜人ってのは星が見れるか見れないかは命に関わるんだ、一流狩竜人の俺が星に詳しくない訳が無いだろう」
「そんな事言われても、狩竜人が星に詳しいなんて知らないもん」
「ああそうだよな、もちろん俺もそんな事は知らなかったから強くは言えないな。という事でこれだ」
そう言うとレイはベッドに放り投げられていた野暮用を僕に差し出した、
「これをどうするかはお前が決めろ、もちろん両親の許可は貰え、だけどお前の人生がかかっている事だから絶対に自分で決断するんだ」
差し出されたのは大きめの封筒だった、魔力車の旗と同じ紋章の描かれた封筒を受け取り中を確認すると数枚の紙が入っていた。その紙の厚さと手触りからそれが並大抵な物では無い事が伝わって来る。
「それは狩竜人学校の推薦状だ。お前が狩竜人に成りたいと思うのなら、そのすべてを教えてくれる」
レイの言葉に僕は息を呑んだ。




