僕がただ竜を殺すだけの物語 第1章 運命の出会い 第93話
宿への帰り道は昨日よりも人通りが多く、休日の町並みは行きかう人たちは美しく着飾り、絢爛な様相を見せていた、けれど僕の目は、闘技場の上で戦う姫様が映っていた。
このもやもやとした気持ちはいつ晴れるのだろうか、そして時折襲ってくる締め付けられるような胸の痛み。怪我の痛みは時間が経てば治ってくれるが、この痛みは時間をかけて自分で治していかないといけないのだろうか。鼻歌を歌いながら魔力車を走らせているレイに尋ねようかと思ったけれど、何と無く聞いても無駄な気がして胸の奥へしまって置いた。
「さあ着いたぞ、どうだ気分が悪くなってたりしないか」
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう。今日はなにか賑やかだったね」
「まあ休日だしな、なんだシリル、ぼうっとしていた割によく見てたな」
「流石に眠ってでもいなければ目には入るよ、どこを通ったかまでは覚えてないけどね」
「ははは、それは俺も覚えてないよ」
レイ、僕の事をからかっているのでなければ、それは流石に怖いから覚えておいて欲しかった。
相変わらず入り口から遠い玄関まで歩き、昨日と同じように扉の左右に待ち構えていたメイドさんたちに甲斐甲斐しく扉を開けて貰い宿へ入った。
聞かない方が良いと思うけれど、この宿は一泊いくらで営業をしているのだろうか、昨日も泊まっていたのは僕たちと、あの姫様一行たちだけでそれ以外に宿泊客は居ないようだったし、出てくる料理もとても素晴らしい物ばかりで、利益を出そうとしたら一泊が途轍もない金額になる事は僕でもわかる。
最後の夕食も初めて食べる食材がふんだんに使って有り、海で獲れる珍しい魚や貝、山で獲れる貴重な肉ばかりで、値段を考えるどころか名前を聞いても知らない食材ばかりで、姿かたちと味と名前を結び付けるだけでも精一杯だった。
でも、レイや料理を作ってくれた料理長や給仕のみんなには悪いけれど、その晩に飲んだ姫様からの贈り物の味が、僕には一番美味しく記憶の中に深く刻まれた。




