僕がただ竜を殺すだけの物語 第1章 運命の出会い 第89話
それからレイはゆっくりと時間をかけて呼吸を整え、ようやく重い口を開いた。
「シリル、まずお前が誘拐された事件の犯人は、あの姫様だ」
レイの言葉に僕は言葉を無くした、多少の覚悟をしていたとはいえ、露ほども思っていない事を明かされて、心臓の鼓動の高まりで吐き気を催すほど体が熱くなって来た。
「と言ってもあの姫様はその事を何も知らないから、犯人という言い方はちょっと違うかもしれないな」
荒くなっていた呼吸が少し穏やかになったが、それと同時に相変わらずレイの言っている事に理解が追いつかない。
「忘れろと言っておいてまた思い出させるもの気が引けるが、お前の言っていた手に刺青の有る男、その男が主犯なのか別の男が主犯なのかはわからないが、姫様に近しい人物なのは間違いが無い。お前が捉えられている場所の地図に存在しない国の家紋が記されていたが、それを使うのはグッドゲーム家なんだ、もちろんどこの誰もが知っている事じゃないが、まあ有名ではあるな。」
僕なりになんで誘拐われたのかを考えたりもした、けれどいつも思うのはなぜ僕なんかを誘拐したのかという事だ。そして何かを要求する事も無く犯人たちは切り合って死んでしまって、レイとアル船長に助け出された。だからレイが忘れろと言っていたからという事も有るが、考えても犯人像という物が浮かんで来なかったから、自然と考えるのを辞めていた。あらためてここで犯人はグッドゲーム家だと言われても、行ったことも聞いた事も無いような国が、僕を誘拐するような事が有るとも思えない。
ただ一つ心当たりが有ると言えば、あの美しい姫様と対等に渡り合うレイという存在だ。
「おれも迂闊だったが、俺がアトモスの守備隊の師範になった事で、俺がアトモスの代表として剣戟大会に出場すると勘繰ったんじゃないかと思う。今までも直接俺にでは無くて、俺の周りが大会への参加の妨害を受けていたから、俺も何年も参加するのを避けていたんだがな」
やはりレイが絡んでいたのか、それならば猶更、姫様が関与していてもおかしくは無い気がしてくる。
「予選大会までの日にちが短いから、俺の出場を受け付ける前に、何としても出場を阻止したかったんだろうな、町のごろつきに手を貸して貰ったら、シリルの様な子供を誘拐するみたいな下劣な事をされたので皆殺しにした・・・。恐らく依頼した奴と皆殺しにした奴は別人だと思うのは、そこがどうにも納得がいかなくて、船長とも何度も話し合ったけど、結論はわからないだったよ」
「姫様が、それに気付いて・・・って事は無いの」
「無いな、あの姫様は変わり者ではあるが、曲がった事は大嫌いだからな。そんな事をしていると知ったら関係者全員の首が飛んでるよ」
「そうなんだ、それで僕たちが口外しないように口止めしていたんだね」
「ああ、そんな事が姫様の耳に入らないようにするためには・・・わかるよな」
「わかるよ、僕たちは所詮平民だってことだよね」
レイは僕の言葉を聞いて口を噤んだ、違うという言葉をレイから聞かされても何も現実は変わらない、レイも僕に何と言って良いのか考えている様だった。




