僕がただ竜を殺すだけの物語 第1章 運命の出会い 第87話
僕が目を覚ましたのは、昼を過ぎた辺りだった。
「お、ようやく気が付いたか。なかなか目を覚まさないから心配したぞ」
ずっと僕を見守ってくれていたのか、僕が気が付いてすぐにレイが声を掛けて来た。
「しかし、あの気難しい姫様がお前と遊んでくれるとはな、案外気に入られてるのかもな」
気に入られているのは僕じゃないと思うけれど、その事をなぜか僕は否定したくなかった。
身体を起こそうと全身に力を込めたけれど、激痛と倦怠感で悲鳴を上げる事しか出来ずにそれは叶わなかった。
「まだ暫くは休んでな、気がついた事を先生に伝えてくるから、そのまま横になって待ってろよ。あ、喉乾いてないか、姫様からのお見舞いが届いてるからよ」
枕元のテーブルには、淡いオレンジ色の液体が入った装飾の施されているビンが置かれていた。微かに香る香水はいつものあの姫様の物に間違いは無い。
レイが僕に気を使ってか、返事を聞かずに外へ出て行った。僕は扉の閉まる音を聞き、一人になった途端に頬を伝う涙を止める事が出来なくなった。
レイがゆっくりと先生を連れて僕の所へ戻ってくる頃には僕の涙も止まっていた。
先生は僕の目の腫れには一言も触れず、全身に骨折が無い事を確認して、今日は安静にして明日以降の船で帰るように言うと部屋を出て行った。
「何か急変が有っちゃあいかんから、俺が明日まで付いていてやるよ」
「ありがとうレイ、それじゃあ明日まで剣戟の事を教えてよ」
「お、やる気が有るのは良い事だけど、休む事もそれと同じくらい大事だぞ。お前は身体を動かす事は出来ないから、俺が身振り手振りで教えてやるから、帰りの船の中で練習しな」
「うん、そうする。あ、大会の方はどうなったの、まだやってるのかな」
僕の言葉を聞いてレイは少しため息を吐いて、僕が負けてからの話しをしてくれた。
勇敢にも姫様と対峙しただけの僕を見て、参加者の全員が棄権もせずに一回戦を戦い、二回戦で姫様が対戦相手に向けて剣を振り降ろすと、それを受けた相手が手と足を骨折して、それを見た他の連中は我先にと棄権して、姫様は決勝まで進むことが決定してしまった、反対側の選手も決勝までは普通に戦っていたけど、決勝は棄権するつもりだったらしい。すると準決勝で負けた選手の抗議を受けて、しぶしぶ決勝の舞台に立ったんだけど、どうやらその事が姫様の逆鱗に触れたらしく、防具ごと胴を真っ二つにされた、そうな感覚を味わい、失禁、脱糞、嘔吐をして敗北したようだ。
それを聞いて、改めてベッドで横になっているだけで済んだ僕は、姫様に気に入られているのかもしれないと思い上がった。
「ああ、そうだ。レイは僕に防具のことを教えてくれなかったよね。どうしてなの」
「今までの話聞いてわからないか、剣で受けたのに手も足も骨折するんだぞ、胴を払われた奴は見るも無残な事になっちゃったし、何の役にも立たない物を当てにされても困るからな。忘れてただけだよ」
僕は納得した。




