僕がただ竜を殺すだけの物語 第1章 運命の出会い 第84話
噂話はどんどんと加速して行き、偶然にも昨日の騒動を見ていたのか聞いたのかはっきりと聴き取れなかったが、お姫様に睨まれた相手が失禁をしたという事がみんなを更にざわつかせた。
こんなところでもアントニオは評判を落としてしまうのか、この場に居ないから反論も出来ないし、可哀そうにと思っていたら、
「どうやら、そいつは一回戦の相手らしいぞ」
「一回しか参加できないのに、いきなり竜姫が相手じゃあ漏らすのも仕方ないかも知れないけどさ」
「で、お前はどうする」
「それなぁ、せっかくここまで頑張って来たけど、やるだけ無駄だしな、怪我もしたく無いし」
「下手をすると死んじゃうかもしれないし、この先の事を考えると棄権しても良いかもな」
「治る怪我なら良いけど、後遺症なんて残ったらたまったもんじゃないから、俺は棄権するよ、来年には狩竜人の試験を受けたいしな」
「代表になった時点で女にはモテモテだったから、俺も、もうこの辺で良いかな」
「それもそうだな、狩竜人の試験も地方代表ってだけで評価は高いし」
「そりゃあ本選に参加できればもっと良かったけど、竜姫が参加してたなら査定は変わらないだろ」
「むしろ危機管理が出来てるって評価されたりしてな」
そこで彼らは大笑いをし始めた、聞き耳を立てて置いてなのだが、いったいこの人たちは何の話しをしているんだろうか。ここに来るまでに散々葛藤した自分が言うのもなんだけれど、彼らはあの姫様の前に立つ事すら逃げ出してしまうのか、それこそ姫様の前に立つ資格無しだ。
「あぁあ最悪だよ、竜姫が他所の国で予選に参加するなんて邪魔すぎる、嫌がらせにしてももっと他にやり方が有るだろうによ」
「その通りだぜ、真っ白な船で乗り付けやがってよ。お供まで真っ白でやんの、そんなに目立ちたいのかよ」
とうとう姫様の陰口まで言い出した、僕は黙って聞いていたが、あのお姫様を悪く言う事にはどうにも我慢が出来なくなって来た。僕は座っていた椅子から勢いよく立ち上がり机を持てる力の全力で叩いた。
机を叩き割るくらいの膂力が僕に有れば、口うるさいだけの奴らを黙らせることが出来たかもしれないが、いかんせん僕はまだまだ非力だった。それなりに大きい音は出たが、一瞬だけ皆の注目を集めたけれど、怒りに震えていても小さい僕の背中では、みんなを黙らせることは出来なかった。
「どうしたんだよ、何をそんなに興奮してるんだ」
男の一人が僕を宥めようと肩に手を乗せて来た、僕はその手を勢いよく撥ね除けるとようやく僕が喧嘩を売っているとわかって貰えたようだった。
「クソチビが、ここでの揉め事はご法度だって知らないのか」
「お前たちは何のためにここに来てるんだ、他人の悪口を言うためか、棄権の話し合いのためか」
僕の言葉はその場にいる全員に喧嘩を売ったも同然だった、さすがにまずいと思ったけれどどうしても何かをせずにはいられなかった。
緊張した空気が張り詰める中、そろそろ一回戦が始まから準備をするようにと、係員の人が僕を呼びに来た。僕は睨みつけてくる男たちを尻目に控室を出た、僕の背中へ悪態をつくかと聞き耳を立てていると、
「おい、竜姫の相手はあいつかよ」
「じゃあ、おもらししたってのもあいつか」
「それじゃあ怒るのも無理ないな、悪い事しちゃったな」
すぐに振り返ってそれは僕じゃないと言いたかったけれど、そんな事のために戻りたくは無かった。




