僕がただ竜を殺すだけの物語 第1章 運命の出会い 第07話
僕がカレーを一皿食べ終えて、少し物足りなそうにしていると、母がお代りを促してくれた、僕は喜び勇んで席を立つと姉も恥ずかしそうに後を付いて来た。
僕たちが厨房へ向かった時に、はたと気付いたのか父が店を開けた。
店内に蔓延していたえも言われぬにおいは店外にまき散らされ、いつもより遅い開店に待ちくたびれていた常連客は店内に雪崩れ込んできた。ほぼ客席を埋めている船員たちに躊躇する事無く空席に座り、全員が一斉にカレーを注文した。
その注文を受けて、今まさに僕の皿に盛られようとしていたカレーはお客様に提供され、僕たちの席は常連に譲り渡されてしまった。あと少し早く食べ終えていればととても悔やんだ、姉は残念そうな素振りも見せずにすぐに注文を窺いに客席を回り始めた、今日の出来事は、僕の中で何重の意味でも忘れられない日になった。
夜遅くまで食堂は喧騒に包まれていたが、僕は部屋の中で雷鳥について調べていたら、いつの間にか眠っていた。僕は狩竜人船に乗り、雷鳥と戦いを繰り広げ、再びあの刺激的な料理を食べる夢を見た。
翌朝、夢が楽しかったからなのか、思っていたよりも色々な事に興奮していて疲れていたのか、いつもより少し遅く起きた。急いで準備を済ませて食卓に着くとすでに父は港へ出かけた後だった、色々と話したいことが有ったが遅く起きた自分が悪いので、仕事が終わって帰って来てから話しを聞こう、出来れば船の構造の話しも聞きたい、もちろん詳しい話しはわからないが、父も僕がわからない話なんかしないだろう。
しかし昨日のカレーもとてつもなく美味しい物だったが、今日の朝食も物凄く美味しかった。決して母の料理が不味いわけでは無い、ただいつもとは違う異国の味付けが妙に僕の口に合うようだ。
手早く食事を済まそうと思っていたが、ついついお代りをしてしまい家を出るのが遅くなってしまった。
学校へは小走りで急いだ、そのお陰か教室へ入るのが先生と同時だったので遅刻は免れた、そう思っていた。
朝礼が終わり、一時間目の授業までのわずかな時間に、僕の周りに人だかリが出来た。マリーとアーノルドもその中の一人だ。みんなが言うには、昨日の僕の店で出したカレーを食べれた人と、食べれなくてもその話しを聞いた人で、それはもう大変な騒ぎだったようだ。その時間は僕は雷鳥と戦っていたので知らなかったが、マリーは僕と仲良しなので、優先的に席に着けるかもしれないと、父親に一緒に店に連れていかれそうになり、家を出る前に母親に見つかって父親はこってり絞られたと言うし、アーノルドの兄が狩竜人になりたいらしく、直接交渉しに出掛ける所で父親に捕まっただの、カレーってのはどんな味だの、雷鳥ってのはどんな味だのと捲くし立てられた。二時間目も三時間目も質問攻めに合ってしまった、とは言えあの衝撃的な味を説明するには言葉が見つからないし、狩竜人になりたいなんてのは僕に言われても困る。
とりあえず狩竜人船を間近で見た事と、父が今まさに狩竜人船の中で修理をしている事はみんなには黙っておいた。だけど後でこっそりと、マリーとアーノルドにだけは話しておくつもりだ、内緒にしておくほどの事でも無いかもしれないけれど、船を見せてくれと頼まれても父の仕事の邪魔になると思ったからだ。
「シリル、授業が終わったら職員室へ来るように」
漸く騒がしい1日が終わったと思ったら先生から呼び出しを受けてしまった、一緒に下校しようと思っていたマリーとアーノルドに別れを告げ、いざ職員室へ向かった。
僕は先生の前に立ち、朝の遅刻しそうになった件での呼び出しかと問うと、そうじゃないと言われた。だとすると心当たりはいくつか有るが、どれもこれも自分の口からは言い辛い、返答に困ってもじもじしていると、どうやら先生は怒っているわけではない様で。
「昨日、港へ行っただろう」
「はい、家族みんなで行きました」
「工場の中へ入ったというのは本当の事なのか」
「はい、入りました・・・」
「先生は何度も守衛に中へ入れて欲しいと頼んだけど無理だと断られてね」
「それは・・・」
当然の事なんだけれど僕は返答に困った、父の知り合いのエドさんが守衛をしていたから中に入れて貰えたと正直に言って良い物なのだろうか、
「シリル、ふ、船はどんな形だった、魔力炉は、魔力炉は何基積んでた、外から見ただけか、船内には入ったのか」
先生は立ち上がり少し興奮気味に問いかけてきた、
「魔力炉はわかりませんが、船はとても大きかったです、校舎と同じくらいでした、船内には入っていません」
正直な感想を答えたが、頭の中には昨日の船では無い光景が浮かんできた、あの美しいお姉さんの船首を見る事は出来なかったが、せめて脳裏に焼き付けて忘れる事は無いようにしよう。
「そうか、先生も見たいな、あの美しい曲線の船首、そこから船尾までの伸びる船体・・・」
先生は恍惚の表情を浮かべ、船の美しさをひとしきり語った後で、
「なんとか見せて貰えないかな」
「わかりません」
僕は、そう答えた。




