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僕がただ竜を殺すだけの物語 第1章 運命の出会い 第73話

「ねえレイ、食事も済んだんだし部屋に帰ろうよ」

姫達の視線に耐え切れず、僕はレイに退店を促した。レイが余計な事を言わなければ、急いで逃げ出すような事にはならなかったと思うけれど、わいわいと談笑するには不釣り合いな雰囲気なので、どっちみち長居はしなかったと思う。

「なんだシリルゆっくりすれば良いじゃないか、そんなに急いで部屋に帰っても、特にする事なんて無いだろう」

僕は横目で姫達の動向を窺いながら席を立ち、

「そんな事無いよ、まだまだ教えて貰いたい事はいっぱいあるから。そうだ、明日はどこへ行くかとか決めておきたいし、ね、早く店を出よう」

「店・・・か、そうだな腹は膨れたし部屋に戻るか」

「お待ちなさい」

ゆっくりと席を立つレイを姫様が呼び止めた、

「そんなに急いで出て行くことは無いでしょう、あなたも座りなさい」

その言葉にレイは首を傾げながら姫様の顔を覗き込むように見て、

「それはわたくしにおっしゃられているのでしょうか、お姫様」

そんなレイから姫様は頬を赤らめながら顔を背けて、

「そ、そうです、あなたに言っています」

と答えた、そんなレイの態度にお付きの人達の間に緊張が走ったが、視線の中心が自分から逸れた事に僕は安堵して、

「レイ、もう少しだけ座っていようか」

安心しきって緩んだ僕の顔を再び姫様が睨みつけて来た、それに釣られてお付きの人達も再び僕に視線を向けて来る。失敗した、こんな事になるならレイだけ置いてでも、僕は部屋へ戻るべきだった。

もう少しだけと答えてしまった以上は、すぐに席を立つことは許されない、再び訪れた針の筵に僕の気持ちは沈んでいった。

食後のフレーバーティーを飲みながら姫様が口を開いた、花のような香りの吐息に僕の心は平常に戻り始めた。

「アトモスの代表という事は相当な豪商だと思うのですが、私どもが調べたところではそれらしい名は出てきませんでした。いったいどのようにして代表に.なられたのでしょう」

姫様から放たれる鋭い目線は変わりないけれど、引きつったように口元を緩ませて笑顔を作っている姿に、僕は笑いをこらえる事が精一杯で、姫様の言っている事が頭に入って来なかった。

「きちんと・・・、きちんとか、きちんとだよな、きちんと試験をして選ばれたんだよな、シリル」

「う、うん、そうだった・・・よね」

「ですので姫様、くじ引きとか賄賂では無くて、実力で代表になったのですよ。多少は無茶をしましたが、無茶をやられたお返しも含んでいますので」

レイが殊更実力で選ばれたと言っているが、無茶なやり方だとも言っているので、あながち間違いでは無いため、僕は特に否定はしなかった。ただ一つ無茶をやられたお返し、という所だけが僕にはわからなかった。

姫様の鋭い視線の色が変わった気がした、一人の剣士として僕を見ているようだ。しかしそう思っているのも束の間、すぐさま僕からは興味を無くし、

「見たところ多少の無茶をされたようですね、無茶のお返しと言うのが何なのかはわかりませんが」

「それはお姫様にはご関係ありませんのでお答えしかねます、ではこれで私たちは部屋へ戻らせていただきます」

そう言って席を立ちながらレイは僕に目配せをしてきた、そして僕も急いで席を立ち、良くわからないまま姫様に頭を下げると急いで出口へ向かった。


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