僕がただ竜を殺すだけの物語 第1章 運命の出会い 第62話
「それじゃあアーノルド、始めの合図をかけてよ」
「早くしろよ、すぐに終わらせるからよ」
僕とブライアンに急かされたアーノルドは、どうして良いのかわからずにあたふたとしながら始め、と声を上げた。実際の試合でも開始の合図が有るかは僕も、恐らくはブライアンも知らないけれど、とにかく僕たちの戦いは火蓋を切って落とされた。
「おらーりゃりゃあー」
と、なんとも気の抜けた様な奇声を上げて、ブライアンが僕に切って掛かって来た。
しかしそれらはすべて僕が前に突き出した盾に捌かれて、僕の身体に触れる事は無かった。
「やるじゃ無いか、まだまだこれからだ。そりゃりゃりゃ」
二度目の奇声に僕は思わず吹き出しそうになったが、さすがにそれはブライアンに悪いために何とか堪えた。ここまでは上手く行っている、正直ここまで上手く行くとは思っていなかったけれど、奇声を上げてただ剣を振りまわしているだけのブライアンに、恐怖を感じなかったのは僕が正しかったようだ。
レイやジェイジェイに基礎を教えて貰えたことが、僕にとってどれだけの成長を促したのか、それが今僕とブライアンの大きな差として表れている。
ブライアンは剣を振り上げるとそのまま素直に振り下ろしてくる、これは当たり前の事なのだけれど、何の工夫も無くて、ただそれだけだから、レイから攻撃軌道を教えて貰いながら受けた事が有る僕には、その軌道が手に取るようにわかった。
上から下へ、右から左へ、下から上へ、攻撃が来る方向によって教えて貰った通りに盾を出すと、全部綺麗に弾き返す事が出来る。
「はあはあはあ、さすがにこの道場へ通ているだけは有るな、だけど防御しているだけでは勝てないぞ」
ブライアンは肩で息をしながら絞り出すように声を出した、レイ達は・・・と思ったけれど、比べる事がレイ達に失礼なのでは無いかと思えて来た。レイ達は港まで走って行って帰って来ても息も上がらないくらいで、剣戟を教えて貰っていた時も呼吸を乱すことなどなかった。僕の方も、盾で攻撃を受けているだけとは言っても少し呼吸が早くなっている、それに盾を持つ手に少し痺れが出て来た。無茶苦茶な攻撃でも、少しずつ疲労は蓄積されている。面白いように攻撃を捌く事が出来るので、その事ばかりに集中していたから、攻撃に転じる事を忘れていた感はある。その事を相手に言われて気付くのは少し恥ずかしい。
「じゃあ僕からも行くね」
「おおぉおぅ」
ブライアンは気合を入れたつもりだろうけれど、奇声その2を上げるので精一杯なようだ。
盾を突き出して右から脇腹へ渾身の一撃がヒット、苦悶の表情を浮かべたが声を上げなかったのは負けず嫌いだからなのか、教えて貰った通りに力一杯の一撃は効いているらしく、ブライアンは盾を身体に密着させて小さくなった。全身を覆うほど大きくない盾では守れるところが限られている為、当てずっぽうで振り廻している剣に気を付けながら、ブライアンのむき出しの脛を振り払った。
余りの痛さに直立不動で耐えているブライアンに、止めの一撃を見舞おうと剣を振りかぶったところでアーノルドが割って入って来た。僕も、ブライアンに止めを刺すつもりは無いため、大げさに振りかぶったところだったので剣を下ろすと、
「僕の勝ちで良いのかな」
「シリル、お前の勝ちだ、兄貴を許してくれ」
「それで良いですか」
棒の問いに、脛の痛みに耐えていたブライアンも、時間が経って青くなった脛を見て、
「それでいい、ごめん迷惑を掛けちゃったな」
足を引きずりながら道場を出て行こうとするブライアンに、アーノルドは肩を貸して二人で道場を出て行った。




