僕がただ竜を殺すだけの物語 第1章 運命の出会い 第61話
アル船長達がこの町を旅立ってから、休日は港まで来ることが習慣になっている。当然のようにそこには狩竜人船は無くて、せいぜい漁船が修理されているぐらいで、それを眺めていても高揚感は沸いて来ない、そのため守衛のエドワードさんと二言三言会話をすると、すぐにその場を離れ、道場に向かって走って移動している、持久力の訓練と思い始めた事だ。
道場に着くとそこにはアーノルドと、その兄であるブライアンが僕が来るのを待っていた。僕を見るなりアーノルドが顔の前で手を合わせたため、良く無い事だなと直ぐに理解した。
「シリル、俺と勝負しろ。俺が勝ったら俺もこの道場へ通えるようにしてくれ。それぐらいは父親に頼めば出来るだろう」
ブライアンの尊大な言葉に僕は顔を顰めるしかなかった、アーノルドに内緒にしておいてくれと言ったのは、何も父親だけじゃなくて、誰にもしゃべらないでと言ったつもりだったんだけど、こういう面倒くさい事になるといけないからわざわざ釘を刺して置いたのに。
「ごめん、たとえアーノルドのお兄さんの頼みでも、それは難しいんだ」
「なんでだ、お前よりも強いんだったら、俺が道場へ通う権利は有るだろう」
その理屈だとこの道場へ入り切れなくなるくらい権利持ちが居る事になっちゃうんだけど、どう説明しても理解はして貰えそうにない。
かと言ってブライアンと勝負をして勝てるなんてとても思えない、アーノルドに聞いた話だと狩竜人になりたくて特訓をしていると聞いたことが有る。どれくらいの特訓をしているかはわからないけれど、少なくとも僕よりは長い期間練習しているのは間違いない。
「僕はまだこの道場へ通い始めたばかりだから、勝負なんてした事は無いし、そんな僕に勝ったからって、道場へ通う権利だのなんて貰えるわけないよ」
「狩竜人ってのは勝負を挑まれたら逃げない筈なんだけど、お前の師匠ってのはそんな逃げ腰なのか」
僕を馬鹿にするのは構わない、だけどレイやシンディ、ジェイジェイにシェリー、それにアル船長、僕のために危険を顧みず、力になってくれた人たちを逃げ腰と言われて見過ごせるわけが無い。
「わかった、僕が勝ったら二度とこの道場へ来ないで、僕が負けたら道場へ通えるように頼んでみる」
「良いだろう、頼むだけじゃなくて入門させてもらうから、そこはきちんとしてくれよ」
「ごめんよシリル、こんな事になると思わなくて」
話しは纏まった、僕はアーノルドを一瞥して道場の門を押し開けた、少し厳しいかも知れないけれど、約束を破った事はきちんと反省して欲しい。
道場の中ではいつものようにいつもの人達が訓練をしていた、門の前での騒動などには全く気付いていなかったようで、誰が入って来たのかを確認すると、それぞれ元の訓練を再開した。
「それじゃあ剣戟大会と同じように、剣と盾で。審判はアーノルドに任せても良いかな」
「シリル、俺で良いのか」
「アーノルド、わかっているよな」
「ああ、うん。でも兄貴、俺は剣戟大会のルールは何も知らないよ」
「僕も知らないよ、だから、痛いと言った方が負け、という特別ルールで良いかな」
「ああ、それなら手っ取り早くて良いかも知れないな」
剣戟大会の詳細なルールなんて僕は何も教えて貰っていないし、正式なルールだと確実に僕が不利になるだろうから、ブライアンの了承を得る事が出来たのは良かった。この特別ルールならどれだけ殴られても僕が痛いのを我慢すれば良いだけだ、絶対に何が有ろうとも痛いなんて言わない。それが僕の負けなのは構わない、僕が勝負を逃げる事が、レイたちの評価を下げてしまう事だけは避けたい。ただその一心でこの特別ルールを思いついた。
それと、少しだけ気付いたことが有る。レイを前にすると感じていた嫌な感じが、ブライアンからは全く伝わってこない。剣と盾を持った今も、門の前で詰められた時も。
もしかしたら、もしかするかもしれない、そんな気持ちになって来た。




