僕がただ竜を殺すだけの物語 第1章 運命の出会い 第46話
一通り環境の中を見て回った後で、やっぱり一番気になっている船長の椅子に目が止まった。
そんな僕の視線に気付いたのか、シンディが座ってみても良いよと促して来た。
最初は遠慮をしていたけれど、好奇心には抗えず、近付いて座面を触ってみると適度な反発が有り、かといって硬くなく、滑るようで滑らない、座った事は無いけれど校長先生の椅子に似ていると思った。
「なんかすごい手触りが良いんだけど、初めて触った手触りなんだけど、これはいったい何で出来ているの」
僕は思わずシンディに尋ねてみた、シンディもぺたぺたと座面から背もたれを触ってから、
「これは大きなサメのヒレの皮なんだけど大変だったわよ、とにかく大きなサメでね、船長はヒレには傷を付けちゃいけないって言うんだけど、そんな事気にしながら戦ってられないし、その上自分の身も守らないといけないから、そんなこんなでとても大変な思いをしたけど、そのお陰で気に入って座ってるみたいなの」
「へぇ、サメってこんな手触りなんだ、はじめて触ったかもしれない」
「で、どうしますかシリル船長」
そう言ってシンディはいたずらっ子ぽく笑った、そこまで言われては仕方がない、僕は一段高くなっている船長の椅子の足場に乗り、そこから一気に座面に身体を預けた。
ふわりと僕を包み込んだ椅子は手で触った時などとは比べられないほどの気持ち良さで、思わずため息が漏れてしまうほどだった。
「船長のために用意した椅子の座り心地はどうですか」
「すごいよ、本当にすごい、船長がサメの皮にこだわった理由もわかる気がする」
「それは良かったです、船長」
シンディに船長と言われるとなんとも言えない気持ち良さが有り、座っている船長の椅子の気持ち良さと合わさって途轍もない多幸感に包まれた。
「シンディ、そこで何をしているの」
後方から聞いた事のある女性の声で現実に呼び戻された、
「ああオードリー、今シリル君に船内を案内してる途中なの」
「どうしたんだオードリー、大きな声を出して」
僕は椅子をくるりと回してオードリーの方を向いた、多分まだ興奮が収まりきっていなかったからだと思うけれど少し演技っぽくなってしまった。
「すいません船長、取り乱してしまいました」
オードリーも僕の演技に付き合ってくれたようだ、ゆっくりと僕の方へ歩いてくると椅子の隣に立ち、
「船長、ご指示をお願いします」
そう言って僕の方を見つめて来た、熱を持ったようなまっすぐな視線に目を合わせる事が出来す、恥ずかしくなった僕は視線を外し、シンディに助けを求めた。
「船長、次の場所へ行きますか」
僕は大きく頷くとオードリーに別れを告げ、シンディと共に艦橋を後にした。




