僕がただ竜を殺すだけの物語 第1章 運命の出会い 第35話
僕が一頻り泣き続け、心が落ち着きを取り戻したころに、アル船長とハロルド隊長が食堂へ入って来た。
母には事前に話しが通してあったらしく、僕に隣に座るように手招きしてきた。少し恥ずかしかったが隣に座ると、つい先程と同じように優しく頭を撫でて来たので、みんなの前では恥ずかしかったので首を竦めてその手を避けた。そんな僕の姿を見てアル船長はにこにことしていたので、泣いている所を見られないで良かったと胸を撫で下ろした。
「シリル君、昨日の事はとても辛い体験だったと思うけれど、私も仕事なのでいくつか質問をさせて欲しい。ナオミさんよろしいですか」
「はい、今日お話しを済ませたら、この子には出来ればすぐに忘れて欲しいので」
「ご協力感謝致します。ではまず一番嫌な事から聞きます、どこでどのように攫われましたか」
「レイと稽古をした後で、帰り道の・・・どの辺りだったかはあまり覚えていません」
「そう、では相手が何人だったか、どんな服装だったかも覚えていないかな」
「・・・突然口を押えられながら持ち上げられると、すぐに目隠しをされたので、二人以上は居たと思います。そして、すぐに暴れなければ手荒な事はしないと言われたので、それに従いました」
「なるほど、咄嗟にそんな判断が出来るとは、君はとても賢い様だね」
ハロルドに褒められて、僕は少し気分が良くなった、
「すると、目隠しをされた場所から、あの町はずれまではどうやって移動したかわかるかい」
「恐らく馬車です、馬車には何度か乗ったことが有るので」
「では、町はずれで椅子に座らされた後に、何か覚えている事は有るかな」
レイに口止めされているので刺青を見た事は話さないとして、言い争いを聞いたことは話しても良いのだろうか。僕が話しても良いのかどうか、黙り込んで考えていると、
「目隠しされてちゃあ何も見えねぇし、自分がこれからどうなるか考えている時に、周りの雑音なんか聞こえねぇよなぁ」
アル船長が助け舟を出してくれた、これは暗に何も見ていないし、何も聞いていないって事にしろと言っているのだろう、
「はい、自分がどうなるかばかり考えていて、特に何も覚えていないです」
「そうですか、わかりました、私からの質問は以上です。ナオミさんご協力感謝します。シリル君もうこの事件の事は思い出さなくても良いからね、これから楽しい思い出をたくさん作って下さい。では、私はこれで失礼致します」
「おう、俺に話しを聞きたけりゃあ船かここに居るからよ、いつでも来てくれ」
「はい、アル船長もご協力感謝致します、ではこれで」
ハロルドはそう言って頭を下げると帰って行った、アル船長は食堂の椅子に座ったまま、僕たちの方を見ると、
「ここからはシリルの聞きたいことを俺が答える番だな、もちろん答えれない事も有るし、聞かない方が良い事も有る。だけど知らないよりは聞かない方が良いって事を知っておいた方が良いだろう。ナオミさん、それで良いかな」
「私も船に乗っていましたから、複雑な事情が有る事も理解しています。この子の心が晴れるのならそれが一番良いので」
「お母さんの許可も下りたからよ、胸につかえてる事を聞いてみな」
「犯人は死んだの」
僕は一番気になっている事を話した、
「三人死んだ、そいつらは町のごろつきだったみたいだな、三人とも牢屋に入っていた事が有るみたいで記録が残っていたようだぜ」
「その三人の中に、手の甲に刺青が有る人は居た?」
「・・・刺青はいろんなとこに入ってたからなぁ、注意深くみてねぇからわからねぇな」
アル船長は嘘を付いている、レイがあれだけ忘れろと言っていたのだ、絶対にあの刺青には何か意味が有るはずだ、僕は記憶を頼りに紙に刺青を書いてアル船長に見せた、
「アル船長は、この形に見覚えは有る?」
「ナオミさん、こいつは燃やしておいてくれ、絶対に外に出ないようにしないといけねぇ」
「はい、今すぐに」
僕から紙を受け取った母はすぐに台所で紙に火を付けた、それを確認してからアル船長が、
「シリル、お前は賢い子だな。攫われてるって危機的状況なのに、こんなに細かく刺青の形を覚えているなんて。だがな、世の中にはいろいろな事が有るんだ、忘れる事は出来ないだろうが、二度と紙に書いたりするな。良いな、これは存在してちゃあ駄目なんだ。探ったり調べたりもするな、お前がこれから生きて行く上で何の役にも立たないどころか、お前に災厄をもたらす。お前だけじゃない、最悪の場合家族にも危害が及ぶかもしれねぇ、わかったな」
始めてみる真剣なアル船長の眼差しに、僕は恐怖した。と同時に少しだけワクワクしてしまっていた、この世にはこんなにも僕を引き付けるものが存在している事に。




