僕がただ竜を殺すだけの物語 第1章 運命の出会い 第20話
一頻り笑い転げた後で、ヴァージルは木製の剣を手に取ると、呼吸を整えるために深く深呼吸をして、2度、3度と素振りをした。
剣が風を切る音は鋭く、誰の目から見ても素人では無い事が解る、ただ達人のそれではない事はレイにしか伝わっていなかった。
「俺はこの町の守備隊の武術指導もしている、それにこの道場の師範は町長だけでは無く王都からのお墨付きも貰っている。という事で、ここで何が有っても問題にならねぇんだが・・・」
「そうかい、それは死人が出ても良いって事か?」
レイは虚勢を張るヴァージルの言葉に辟易していて、一刻でも早く帰りたくなって来たために少し語気を強めた言い回しをした。しかしヴァージル達にはレイの真意など伝わる事も無く、ヴァージルは薄ら笑いを浮かべると、
「安心しなよ、今ならまだ手加減してやるから殺したりはしねぇよ、これからのお前の態度次第だがな」
ヴァージルに何も伝わっていない事にレイは大きくため息を吐くと、一番端に立て掛けられていた両手剣を手に取った。レイを取り囲んでいた男たちは、レイが両手剣を手に取るまでの一連の動きに、誰一人として着いて行けずに虚を衝かれてしまった。武器棚を持ってきた男はレイの動きを目の前で見ていたため、レイに何かを感じ取ったのか、レイから目を逸らして挙動不審になった。
レイが両手剣を片手で2度、3度振ると柄の前からポキリと折れ、鈍い音を立てて剣先が石畳を砕いた。
「勘違いしない様にはっきりと言ってやろう、俺が心配しているのはお前たちの命だ、まあ見ての通りこんなちゃちな棒切れで殴ったところで簡単には人は死なない、ただそれは相応に鍛えている場合の話だ。はてさて、お前たちは俺ぐらい鍛えているのか確かめてみるか」
そう言うとレイはヴァージルに折れた両手剣の柄を向けて、
「なんならこれで相手してやっても良いんだぞ、言って置くがこんな棒切れよりも、俺の手刀の方が酷い事になるのは、身をもって知っている奴が居るよな」
権威を笠に着て威張りちらいていたヴァージル達にとって、レイの態度は拭い去る事が出来ないほどの屈辱だったが、大人数で囲ってもなお余裕を見せるレイに、何らかの違和感を感じ始めたのも事実だった。
すでに何人かの男たちは腰が引け、それらを感じ取ったヴァージルはすぐに思案し始めた、集団で襲う場合において、臆病者が居る事は戦力の足しにならないどころか、単なる足手纏いになるだけだ。
「で、俺と勝負したいと言って来たのはお前だったよな、どうするよ」
「かかって来い、と言いたいところだが、今日は止めて置こう、日が落ちちまった」
辺りはまだ明かりを点けなくても何も問題は無いぐらいであったが、確かに日は落ちかけていた。
「松明でも魔光灯でも明かりをつけりゃあ何とでもなるだろう」
「いや、俺たちの流派は日が落ちたら、一切稽古をしない事になっているんだ」
ヴァージルの言葉が嘘だろうと本当だろうと、呆れかえってしまったレイもこれ以上何かを言う気力を無くし、再び大きなため息を吐くと踵を返して門を潜った。




