僕がただ竜を殺すだけの物語 第1章 運命の出会い 第19話
お店の中へ戻ろうとレイに声を掛けると、少し考えこんだ後で、
「あいつらの道場ってどこだかわかるか」
と聞いて来た、この町に剣術道場は1つしか無いと伝えると場所も聞かれた、それほど難しい場所では無いため、簡単な道筋を教えると、
「んじゃシリルちょっと行ってくるわ、あいつらの顔なんて明日まで覚えてられないからな」
「今から?追いついちゃうと思うけど」
「それならそれで良いよ、道案内させるから」
そう言い残し、レイは颯爽と走って行ってしまった。
僕はその判断の速さと行動力にあっけにとられていたが、すぐにシンディにその事を伝えに店の中へ入った。シンディたちも驚くかと思っていたが、返事は二人ともそっけなく、何事も無かったように自分たちの仕事に戻ってしまった。
「おーい、ちょっと待ってくれ」
男たちに追いついたレイが声を掛けると、男たちは少しだけ驚いた様子を見せたが、直ぐにレイを取り囲むように広がった。男たちに後ろには回らせない様に、少し後ろに下がりながらレイが男たちを宥めると、
「道場はすぐ近くなんだろ、そこの方がほら、ここより良いんじゃないか」
レイは町を歩く人たちを一瞥すると男たちに向き直った、レイからの提案は男たちにとっては願っても無い事だった。その時はまだ男たちはレイを舐めて掛かっていて、最初から引き摺ってても道場へ連れ込もうとしていたのだが、それが出来なくなった今、自分から道場へ来るとは間抜けな奴だと思ったようだ。自分から不利な場所へ乗り込む、その上に人数差が有る、そんな不利な条件で戦うのは大馬鹿がやる事だと常々考えているから至った結論なのだが、そこから先へ思考を伸ばす事が出来なかった。
「良いだろう、着いて来い」
前方と両脇を囲まれたままレイは男たちに着いて行った、程なくして道場に着いたがシリルの教えてくれた道は一本隣だった、レイは思わず笑いだしそうになったが、さすがに我慢した。そのためにレイが少し緊張したように見えたのか、脇を固めていた男の一人が立ち止まったレイの肩を押して道場の扉を潜らせた。
道場の中はとても広く、敷き詰められた石畳は磨いたように空を写してくすみ一つ無い、余り使われていないだろう石畳をレイは冷めた目で見ていた。バタンと扉が閉められ外界と閉ざされた場所となった道場の、真ん中に立った男が腕組をしながら名乗った、
「俺の名はヴァージル・ハードスタッフ、俺は去年の剣戟世界大会の予選で王都へも行った事が有る」
親指で自分の胸を指さし、少しふんぞり返りながら自慢話をしているようだ、
「ああそうなのか、俺の名は・・・みんな俺の名は聞きたいか」
レイを遠巻きに取り囲んだ男たちは、くすくすと笑いながら各々の顔の前で手を振っている。
「だよねぇ、俺も剣戟の予選には出た事があるんだ、途中で負けちゃったけど」
レイの言葉に男たちは全員噴き出した、レイを指さしてそれぞれが何かしらの悪口を言っているようだ。
「そりゃあそうだろう、お前なんか王都の大会で見た事も無いからな、おおかた町の予選で負けてるんだろうな」
男たちはヴァージルの言葉でさらに大笑いしだした、レイとヴァージルでは出ている国が違うため、本選に出場しなければ顔を合わせる事も無いのだが、もっとも、レイはその予選も近年は参加すらしていない。そうこうしている内に建物内から木製の武器を持った男たちがやって来た。
ヴァージルの横に並べられた木製の武器の数々はとても精巧に作られていて、どれもこれも新品の様に綺麗だった、その事もレイの心を曇らせた。




