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僕がただ竜を殺すだけの物語 第1章 運命の出会い 第01話 

学校なんて詰まらない、僕は毎日そう思っていた。

算数の勉強が必要なのはまだわかる、お金を数えたりする時には必要な事だ。国語はどうだろう、間違った言葉を使っていたら友達と会話をしていて喧嘩になるかもしれない、喧嘩は出来ればしたくない。

歴史の勉強は特に意味が無いと思う、昔の人が何々をしたとか、今の僕にはあまり関係があると思えない、それにこの田舎町にどれほどの歴史があるのか、今までの国王が誰だったかなんて、ぼくは今の国王の顔すら知らないのに。

このままだと父親の跡をついで宿屋の亭主に一直線だ、父親はそれを望んでいるし、看板娘として働いている姉も母親もそれを望んでいる。

僕は自分がどうしたいのかまだわからない、どうしたいのかわからずにどうにもならない毎日を過ごしている、何かをするにも何をして良いのかわからない。その漫然とした何事も無く繰り返される平凡なある日の午後、昼食で満たされて肥大化した睡魔に襲われつつも抗いながら船を漕いでいた。

「こらシリル、真面目に授業を受けなさい」

見兼ねた先生に注意をされた、シリルは生返事をして先生の方へ座り直した、それを見届けて小さく頷くと授業を再開した。

しばらく先生の背中を眺めていたが、すぐに飽きてしまい窓の外へ視線を移した、するとそれまでそこには無かったはずの黒い大きな物体が山際に浮いているのが目についた。

稜線に浮かぶそれは、山肌に影を落としゆっくりと動いている様に見える。

あれはなんだろう、雲では無さそうだがかなりの大きさに見えるし、ゆらゆらと動いてそれに・・・だんだんと近付いてきている?その事に気付くと思わず驚きの声を上げてしまった、

「なんだろうあれ、黒くて大きい」

僕の声に先生は再び怒声を上げようと振り向いたが、その前にクラス中の皆々が僕の言葉に反応して窓際に駆け寄っていた。生徒たちは口々にその浮いている物体の正体を突き止めようと、あれだこれだと想像で話し始めてしまっていた。

怒りの矛先を探していた先生だったが、それを見てとても収拾がつかないだろう事を悟ると、僕たちに続いて窓から浮かんでいる物体を見つめた、先生は暫く目を凝らしながらそれを見ていたが、やがて小さく頷くとぼそりと、

「あれは、狩竜人船だな」

「狩竜人船?」

生徒たちはそれぞれ顔を見合わせながら首を傾げた、船は海に浮いているのと陸を走っているのは何度も見た事は有るし、空を飛んでいるのも見た事は有ってもあれほど大きい物は見た事が無かった、

「確かにあれだけ大きい狩竜人船を見たのは久しぶりですね、君たちのお父さんやお母さんなら見た事はあると思いますので聞いてみると良いでしょう、昔は結構有名な狩竜の拠点だったんですけど、でも、もうこの近辺には竜は居ないと思いますので、何の用事でこの街に来たのでしょうか」

先生の顔と狩竜人船を興味深々と言った顔で生徒たちが交互に見つめている、暫く眺めているとだんだんと狩竜人船は高度を下げて行く。

「竜がこの辺にも居たんですか」

素朴な疑問だった、しかしそれはこの街の歴史として授業を終えている、

「おいおいお前たち、先生が必死に授業をしていたのに聞いてなかったのか?先生は悲しいよ」

そう言うと先生は誰が見ても解るぐらい悲しい顔をして肩を落とした、しかし伏せた顔を上げて再び狩竜人船を見て、

「ああ、やっぱり修理にきたようですね、港の工場へ降りて行きました」

ふと我に返った先生は、キラキラとした目で真剣に話しを聞いている生徒たちに気付き、

「そうですね、明日の体育は長距離走でもしますか」

その言葉に勘のいい生徒は笑顔を浮かべたが、そうでは無いシリルとその他大勢は笑顔を曇らせた。

「はい、脱線はおしまい授業を再開しますよ」

先生は手を叩くと踵を返し黒板へ向かうと授業を再開した、笑顔だった生徒も顔を曇らせ目から光が消えてしまうのを見ると、再び先生はがっくりと肩を落とした。


「明日の長距離走は嫌だなぁ」

シリルが友達と3人で下校してい居る途中、会話が途切れたところで不意に口を衝いて出てしまった。

僕のため息にも似た呟きに友人の一人であるマリーは、私も私もと賛同してくれたが、もう一人の友人であるアーノルドは少し馬鹿にしたような口調で、

「なんだシリル、あんなに興味津々だったのに狩竜人船見たくないのかよ」

「見たいよ、でもそれが長距離走と何か関係があるの?」

僕の疑問を他所にマリーはピンと来た様子で手を叩き、そういう事だったのねと一人納得していた、

「シリル~ま~あだわからないのか」

アーノルドが顔を近付けて、その上さらに馬鹿にしたように煽って来る、そんなアーノルドを両手で押しのけ、素直に教えてくれそうなマリーを見た。

マリーはにこりと笑みを浮かべると、

「シリル~ま~だわからないの~」

のりの良いマリーがアーノルドの真似をしながら顔を近付けて煽ってきた、そんなマリーに僕はぐいっと顔を近付けた。

するとマリーは目を見開き頬を赤らめて飛びのいた、

「へへへ、昨日姉ちゃんに教えて貰ったんだ、マリーにからかわれた時はこうしろって」

「も、もうエイミーちゃんの入れ知恵なのね」

マリーは頬を膨らませながら憤慨している、どうやら上手くからかい返しが出来たようで、姉ちゃんに教えて貰っておいて良かった。ただマリーが喜んでいるようにも見えるのは気のせいだろうか。

「ふん、じゃあ明日の長距離走の理由も姉ちゃんに聞けよ、俺は教えてやらねー」

なぜかアーノルドまで怒っているようだ。


「ただいま」

「おかえりシリル・・・、なんだか複雑な顔してるわね、何かあった?」

姉ちゃんは父親の宿屋で看板娘をしている、1階は飲食店になっているので母親の調理の手伝いをする事も有るが、飲食店が賑わうのはもう少し後の時間なので、今の時間は裏口から入ってすぐの居間に居る。

「マリーにからかわれたから、姉ちゃんに教えて貰った通りにしたら上手くいってさ」

「あらぁ、それでどうなったの」

そこから学校帰りにあった事を話し、明日の長距離走の事を尋ねた、

「多分、先生はシリルたちにその大きな狩竜人船を見せてあげたいんじゃないかしらね、学校から港までだと結構距離が有るから、だから喜んでた子も居たんじゃないかしら」

僕はその答えを聞いて納得をすると同時に、なぜこんな簡単な事を気付けなかったか少し恥ずかしくなった。

「私も見てみたいなその大きな船、ちょっとお父さんに時間貰えないか聞いてみようかしら」

「今から行くの?」

「うーん、今からだとちょっと難しいわね、繁盛時間までに帰って来れないから、今度の休みの日にでも馬車が借りれたら行こうかしら」

「ええ、早くしないと出航しちゃうかも知れないよ」

「大丈夫よ、修理に来たんでしょ?そんなにすぐには直らないわよ」

姉の的確な指摘に、再び恥ずかしくなってしまった。


「お母さん、港に大きな船が来てるの知ってる?」

僕は夕食時に好物のハンバーグを頬張りながら話しを切り出した、母は少しの間を置いて、あらそうなのとそっけない返事をしてきた。僕はそんな母の態度を気にも留めずに、船の大きさや、最初に見つけたのは自分だとか言わなくてもいい事まで捲くし立てて言ってしまった。母はそっけない態度でもきちんと僕の話しを聞いてくれていたのか、僕が一番最初に見つけた、という事は授業中に外を眺めていたという事を怒られてしまった、自ら授業をサボっていた事をばらしてしまうとは、我ながら情けなくなった。

食事を終えて風呂に入り、眠くなるまでの間に歴史の教科書を開いてみた、自分の住んでいる町がいつ頃出来たのか、それまでは数々の竜やその被捕食者、といってもそのどちらもが僕たち人間には大変な脅威だった事、それらと戦った狩竜人たち、文字にするととても短く簡単な出来事に思えてしまうが、そこにどれだけの時間と労力と犠牲があったのか。

そうやって作られたこの街は、竜が居なくなった為に狩竜人船、特に”竜”を狩るための大型船が来なくなり、近海の漁をする船と、他国との貿易船が中心に変わっていった事が記されていた。

「こんな事があったんだ・・・」

僕は感動と感嘆で思わず独り言をw漏らしてしまった、今ぼくたちが何気ない日常を送らせて貰えているのは、教科書に名前が載っていない沢山の人たちのお陰なんだと初めて実感した。

そして、教科書のページ数を確認し、まだ授業で習っていないページだった為、ああ見えて先生は結構おっちょこちょいなところがある事と、狩竜人船に一番興味を持っているのは先生自身で、僕たちを出汁にして私欲を満たそうとしている事が解った。ベッドに横たわってからも狩竜人船とそれに乗っていた勇猛な狩竜人たちと、火を吐き竜巻をお越し雷を落として大地を揺らす竜との戦いを想像しながら眠りについた。

夢の中で数々の竜たちを簡単に葬り去った僕は、目が覚めて長距離走が有る事を思い出して気持ちが落ち込んだ。顔を洗って良い匂いのする食卓に着く時に大きな溜息を吐いてしまった。

「おはようシリル、どうしたんだため息なんか吐いて」

「おはよう、何でもないよ」

「なんでも無い事は無いだろう朝から溜息なんか吐いて、ママに怒られた事を気にしてるのか」

「違うよ、別にどうって事無いって」

「シリル、授業を真面目に受けない事がどうでも良い事なの」

「そうじゃないよ、今日長距離走が有るから嫌だなぁって思っただけだから、ただそれだけ」

「なんだ、長距離走は嫌なのか」

「嫌だよ疲れるし」

僕は会話を遮るように出された朝食に手を付けた、パンと牛乳に目玉焼き、いつも食べている物だったが普段よりもおいしく感じた。

「そうそう、港に大きな狩竜人船が来てるってシリルに教えて貰ったんだけど」

「ああ、そうなのか」

父の返事も昨日の母と同じでそっけなく感じた、

「それでシリルたちは港まで長距離走をして見に行くんだって」

父は、ふうんとそっけない返事をした、やはり何かおかしい気がする。

「私も見てみたいんだけど、ちょっと時間貰えないかな」

「そうだなぁ、うーんどうかな・・・」

父は返事をしながら母の方へ顔を向けた、それを見て僕は子供ながらにそういう選択権を持っているのは母なんだなと解った。母は休みが欲しいと懇願する娘と、その返答に困惑している夫の顔を交互に見つめて、

「そうね、久しぶりの船ですもんね、次の日曜にでもみんなで行こうかしら」

「ありがとうママ」

「良いのよそれぐらい、エイミーにはずっとお店を手伝って貰ってるんだから、もっとわがままを言っても良いぐらいよ」

「ああママ、俺の・・・」

「パパはダメ」

父とはわがままを聞いて貰う事はおろか言う事すらも許されないのか、しょんぼりと悲しそうな目で僕を見つめる父に僕は無言で頷いた。


学校への道すがら同じく学校へ向かうマリーを見つけた、マリーは立ち止まり笑顔を向けてくる。長距離走の事を思うと顔が曇ってしまうが、何とか笑顔を作り朝の挨拶をする。

にこにこと楽しそうに話しかけてくれるマリーに、ふと朝食時の出来事が思い出された、

「マリーはさ、その、結婚相手のわがままって聞いてあげれる?」

するとマリーの顔がみるみると赤くなり俯いて、

「な、なんでそんな事聞くの、け、結婚なんてまだ、だし」

耳まで赤くしたマリーは俯いたままこっちを向き、

「シリルは、その、結婚したいの、かな」

「いや、今日の朝ちょっと色々と有って、結婚をして父親になるとわがままも言えなくなるみたいで、そんな事なら結婚なんてしたく無いかな」

僕はそう言うと空を見上げた、僕は山の向こうのさらにその先に何が有るのかを知らない、どこまで山が続いているのかを知らない、そこから来た狩竜人船に何が有るのかを知らない、僕の住む街がどうやって出来たのかを知った僕はもっともっと知りたくなっていた。

「私は、少しくらいならわがまま聞いてあげられるわ」

マリーはもじもじとしながら答えたが、うわの空だった僕はその言葉を聞き逃したようだ、

「もう」

マリーは僕を肘で小突くと、口を尖らせて先に歩いて行ってしまった。

どうやら男と言うものは女に弱いようだ、結論を見出した僕はマリーを追いかけた。


時間が来て朝礼のために先生が教室に入って来た、項垂れた顔には生気が無く、誰が見ても何かあったとしか思えない。

「みなさんおはようございます、今日も一日元気にやっていきましょう」

それが冗談なのか本気なのかわからなくて僕たちは困惑した、クラス中の生徒たちが互いに目配せをし合い、最終的にマリーの眼力に負けて僕が聞く事になってしまったためさっと手を挙げて

「あの・・・」

先生は項垂れた頭を上げてこちらを向いてくれたが、僕は何と言って良いのかわからずに言葉に詰まってしまい頭の中が真っ白になった、それでも止まった思考を回して言葉を絞り出した、

「あの、昨日飛んで来てた狩竜人船ってどうやって飛んでいるんですか」

教科書を読んでみたが魔動力炉いう物で動いている事はわかったが、それ以上の事は何も書かれていなかった、当然気にはなったが昨日はそこまでにしておいた事だ。

先生は僕の質問を聞いて顔色が良くなり饒舌に話し始めた、

「そうですね、狩竜人船というのは魔動力炉という物を備えています、この教室の明かりも魔力で点いていますが、みなさんの家庭にもある透明な容器に入った球、所謂魔力球ですが、それのもっともっと大きな物、魔力を球にする前の状態の素材から魔力を絞り出して狩竜人船を動かしています、その素材は魔力のある物、竜や魔物などから作り出して動いています、そのために竜や魔物を狩る必要が有り、その人たちが乗っている船だから狩竜人船と言われているんですね。そして、その魔動力炉の構造や技術はとても難しく複雑なので先生も調べた事は有りますが、詳しくはわかりませんでした、興味があれば先生が資料をお貸ししますので後で先生の所へ来て下さい。それで、昨日飛んで来ていた狩竜人船ですが、この街の港には昔の名残で大型の狩竜人船が寄港できるだけの設備が有るので、あの船は母港へ帰れなくなった何かしらの理由があって寄港したようですね。ただあれだけの大きさの船は整備するにも経験豊富な技術者が必要なのですが、この街に昔の技術者は残っているのでしょうか。出来れば船から降ろした魔動力炉を見てみたいものですが・・・」

先生は一気に捲し立てた、聞いている僕らはその熱量に圧倒されていたが、ふっと教室温度が下がったような気がした、

「それと、今日の・・・長距離走は、予定を変更して校庭を20周になりました・・・、本当なら港まで行き狩竜人船を見ようと思っていたんですが・・・、校長に相談したところ・・・、港には危険なものも沢山有りますし、立ち入り禁止区域も有りますので・・・、なにより距離が有りますので授業時間が足りないので校長の許可が下りませんでした・・・」

再び先生は項垂れてしまった、どことなく涙声に聞こえるのは気のせいだろうか、それよりも校庭20周って言った方が気になった、港まで走らされるのとどっちが距離が長いか気にはなったが、

「みなさんの中には勘違いをさせてしまい、期待をしてくれていた子も居ると思いますが、学校行事として見学には行けなくなりましたので、興味のある子は暗くなる前に各自大人の方と一緒に見学に行って下さい、子供たちだけで行かないようにしてくださいね」

学校行事として行けなくなったのは仕方がないけど、項垂れて涙目になるほどなのだろうか、気になったので手を挙げて尋ねてみた、

「先生も学校が終わったら見学に行くんですか」

「・・・君たちが帰った後も先生には仕事がたくさん有るので、すべて終わらせてからだと港は閉鎖されていました」

閉鎖されていました、という事は昨日すでに見に行ったという事に驚いた、どれだけ見たかったんだ、

「明日の日曜日は港には入れますが工場までは入れませんから、どうせ工場の方は幕が張られますしね・・・」

その日、先生は終始悲しそうにしていた、それでも僕の校庭の周回数のごまかしに気付いて、きちんと走らされた、よく見てるな。

夕食時に馬車が借りられたので明日の昼から港へ船を見に行くと告げられた、幕が張ってあるらしいと父に伝えたが、大丈夫、とだけ言われ母も笑っていた、僕と姉は訳が分からず顔を見合わせて首を傾げた。

それでも部屋に戻った後はわくわくしてすぐに寝付けなかった。


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