船上にて
強風と豪雨の中を突き進む一艘の船が悲鳴のように、その船体を軋ませて疾走している。
甲板に打ち付ける大粒の雨は船内に不協和音を奏で、船体の揺れと共に点滅する魔光灯と、目も眩むほどの稲光にさらされているが、船員たちの顔にはうっすらと笑みが零れていた、
「わーはっはっは、こいつは間違いねぇ」
艦長帽を被り髭を蓄えた男が興奮気味に叫ぶ、口の動きと共に立派に蓄えられた髭がわさわさと動いた。
船長の上機嫌が艦橋内に居る船員たちにも伝わったのか、それぞれが各々の仕事をこなしながらその叫び声に次第に興奮し始めてきているようだ。
「おいおいおい、またこの雨の中外に出るのかよ・・・」
ただ一人不満げな顔をしていた男が頭をタオルで拭きながら愚痴をこぼすと、艦橋の皆が一斉に男の方を見た、空気をやまない男の発言に突き刺さる様な視線を向けた。
その視線に気付いたのか、この場には誰も味方が居ない事を悟った男は、バツが悪そうに視線を泳がせた。
「居るに決まってるだろう、情報通りじゃねぇか豪雨に強風、そのうち・・・」
船長帽を脱ぎ捨てながら空気を読まない男に対してにじり寄る途中で船長は足を止めた、先ほどまでの嵐が過ぎ去ったかの如く轟音は影を潜め、色とりどりの光が船内に入り込み辺り一面を照らしている、きらきらと雷光が反射し虹に包まれたかのような錯覚に陥った、先ほどまでの豪雨はさらさらとした霧雨に変わっていた。
異変に気付き振り返ると、窓から差し込む光は稲光ではなく、光り輝く巨大な物体から発せられている事が直ぐにわかった。
「やべぇ、目の前じゃねーか」
愚痴をこぼしていた時とは打って変わり、真剣な表情になった空気を読まない男はすぐに駆け出して行った、船長も帽子を被り直すと巨大な塊を一点に見つめた。
そこはすでに戦場だった。