if①
ifは原作のリナリアの末路となります。
ラシュエルのヤンデレ度がぐんと高いです。
『君には失望した、リナリア』
『ラシュエル様が病に苦しんでいる時に他の殿方の許へ行ったお姉様の言葉は全て嘘です! 祈りの花は偽物です!』
『二度と顔を見せるな! この恥さらし!』
愛する殿下が魔女の呪いとも呼ばれる病に罹った。治療する手立てがないと有名な病を唯一どうにか出来る方法があった。御伽噺によく出て来る祈りの花。聖域に咲くと言われ、見つけるのは奇跡に等しいとされる祈りの花を求めてリナリアは聖域を訪れた。
聖域を管理する神官ユナン曰く、祈りの花は見つけるのは容易く、難関なのが花を咲かせる事だと話した。長期間、同じ気持ちで同じ祈りを捧げ続ける必要があるからだ。ただラシュエルを救いたい一心で数カ月祈りの花に祈りを捧げたリナリアの願いは叶った。あらゆる傷病を癒す黄金の花を咲かせた。
これさえあればラシュエルは救われると信じ、ユナンにお礼を言って聖域を出て行き帝都に戻った。
……だが何もかも遅かった。ラシュエルは聖女に目覚めた異母妹の力によって完治した後だった。更に、闘病中に苦しみながらもリナリアへ宛てた手紙は一度も返事は来ず、やって来たラシュエルの使者にリナリアは男と逃げたと侯爵家の面々が嘘を申し、ラシュエル本人にも囁き続けた。
リナリアがいないのは事実。だが父達にはちゃんと聖域にラシュエルを救う希望があると言い残した。
誰もリナリアの訴えを信じない。ラシュエルさえも。
祈りの花は異母妹イデリーナの偽物という言葉だけで偽物扱いをされ没収され、リナリアはヘヴンズゲート家を追放された。幸いなのは何とか荷物だけは持ち出せた事。城を追い出されるとすぐに侯爵邸に戻り、必要最低限の物とお金を持って屋敷を出て行った。
行く場所はない。母方実家とは殆ど交流がないから、行っても迷惑を掛けるだけ。
「ユナンなら……」
ユナンは基本聖域にいると話していた。神官でも聖域に入れるのはユナンと教皇だけで、一般人が聖域に入れるのは滅多にないと喜んでいた。
ユナンに事情を話し、暫く置いてもらおうと決めたリナリアは早速聖域へ行くため馬車の待合所へ足を動かした。
今日は比較的人が少なく、あまり順番を待たずに馬車に乗り込んだ。
同乗している女性に話し掛けられ、お互い何処へ行くのかという話になった。女性は隣町に住んでいる妹夫婦に会いに行くらしい。子供が生まれたので出産祝いを持って行く為とか。
「わあ、おめでとうございます」
「ありがとう。とても元気な男の子なんですって」
「将来が楽しみですね」
「ええ。貴女は何処へ行くの?」
「聖域です」
「聖域? でも、あそこは神官様や教皇様じゃないと入れないって有名よ」
「聖域にいる神官が知り合いなんです。ちょっと相談があって」
「そうなの。すごいわね、神官様と知り合いなんて」
平民でも聖域に入れるのはそうだと伝えられており、最初に向かった時は入れないのを覚悟で向かった。実際はすんなりと入れて大変驚いた。
隣町に着くまで女性と会話をし続け、女性が降りる際には手作りのクッキーを頂いた。
——走り去って行く馬車を見つめながら、女性は左人差し指に光を灯した。
「皇太子殿下。リナリア様は聖域へと向かわれました。聖域を管理する神官の許へ行ったのでしょう」
「分かった。ご苦労様」
左人差し指から光を消し、通信を切ったラシュエルは昏く濃い陰りのある黄金の瞳のまま、ハンカチを見下ろした。昔リナリアから貰った皇家の家紋が刺繍されたハンカチ。所々糸が解れ、形が歪であるもラシュエルにしたら大切な宝物。リナリアはもっと上手になってから渡したいと涙目になっていたがラシュエルはこれが欲しかった。
リナリアが自分の為に刺繍を入れたこのハンカチが良かった。
「絶対に逃がさない」
病に苦しむラシュエルにヘヴンズゲート家の連中は口を揃えてリナリアは男と逃げたとしか言わなかった。痛みに苦しみ、疲れた心は抗えず、またリナリアがいないのは本当だったから信じてしまった。祈りの花を持って現れたリナリアが必死に真実を訴えてもラシュエルの心は憎しみが上回って伸ばされた手を振り払ってしまう。
リナリアが城を追い出された後、婚約者になったからとベタベタと纏わりつくイデリーナを無理矢理引き剥がして床に突き飛ばし、ヘヴンズゲート侯爵から非難されようがリナリアを諦められないラシュエルは喚く二人を黙らせ移動した。
密偵を即ヘヴンズゲート家へ飛ばしてリナリアが何処へ行くか探らせた。他の男の許へ行くのなら、居場所を突き止めたらすぐに向かう。
「リナリア……」
本当に男といるなら、見つけたらすぐに男は殺す。リナリアは捕まえて二度と他の男の所へ行けなくし閉じ込める。早急に部屋の手配をし、内装をリナリア好みに作り替えている。リナリアが好きな物は何でも知っている。リナリアの事で知らない物はないと思っていたのに……。
けれど密偵から連絡を受けたラシュエルはヘヴンズゲート家が嘘偽りを言っていたのではないかと疑った。
「リナリアが聖域に向かったのなら……祈りの花は本物だった……」
祈りの花は皇帝が密かに回収したのは知っている。それはつまり、本物だと知っていたのだ。
ラシュエルはすぐに聖域へ向かった。途中、まだいたイデリーナに付き纏われるが強引に引き剥がし、用意した馬車に乗り込んだ。
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