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17話

 



 聖女の能力を持っているのに聖域に拒まれたイデリーナは大好きな父と血の繋がりがないかもしれないという事実を知らされ、聖域に行った二日前から部屋に閉じこもっていた。あれから父と母は毎日怒鳴り合っており、屋敷の雰囲気は最悪だ。

 毎日世話をしてくれる仲良しな侍女が気を遣って話し掛けてはくれるがイデリーナには気休めにもならない。神官に扮していたリナリアとラシュエルに聖域に拒まれた場面を見られた。自身が気絶している間に、過去ヘヴンズゲート家がリナリアにしてきた仕打ちがラシュエルに知られた。軽蔑され、縋った手は簡単に振り払われた。


 リナリアは受け入れられて黄金の“祈りの花”を開花させた。

 聖女の能力はないのに。



「どうしてっ、こんなの何かの間違いよっ」



 ラシュエルの罹った『魔女の呪い』と呼ばれる病は発病から約一年で死に至る。

 治す術がなく、誰もが諦めた中リナリアだけは一縷の望みをかけ聖域へ行った。

 イデリーナは諦めた側であった。聖女の能力が目覚め、ラシュエルの病を治したい一心で術を使うと完治した。


 素直に喜んだ。

 嬉しかった。

 あの時の気持ちを持ったままでいれば、聖域に拒まれることはなかった。



「あ、あの、お嬢様」



 恐る恐ると部屋にやって来た執事がソルトの来訪を報せた。夫妻は未だ喧嘩をしており、対応可能なのはイデリーナしかいない。



「……分かった。応接室で待ってもらってちょうだい」



 人前に出る前に泣いてばかりだった顔を化粧で隠さないとならない。

 のろのろと顔を上げたイデリーナは侍女に声を掛け身支度を始めた。




 凡そ三十分後、化粧で顔色を誤魔化したイデリーナが応接室に入った。ソファーに座って待っていたソルトは不機嫌な面持ちを隠していない。



「遅いじゃないか。どれだけ待たせるんだ」

「先触れもなく訪れたのはそちらではありませんか。これでも急いだ方なんです」



 ソルトの態度に遅れた詫びをする気持ちも消えた。

 イデリーナが向かいに座ると早速話題を切り出された。



「リリーシュ公爵、つまり僕の父はリナリア嬢から君と婚約をしろと言ってきた」

「わ、私ですか?」

「ラシュエルが父や教皇に手を回したんだ」



 不満げな様子でソルトが語ったのはリリーシュ公爵から言われた事。

 リナリアには二度と近付かないこと、皇太子妃になるのはリナリアでイデリーナに変わる未来はない。リナリアが大教会に滞在している間の訪問を禁ずるというものも追加された。



「はあ、リナリア嬢が駄目ならヘヴンズゲート家に拘る理由は僕にはないというのに」

「なっ、私では不満だと言うのですか」

「当然だろう。だって、君の母は没落貴族の愛人で、リナリア嬢の母は他国とも交流を持つクローバー侯爵令嬢。どちらの娘を娶るか考えたら、リナリア嬢が良いに決まってる」

「私だってヘヴンズゲート侯爵であるお父様の血が……っ」



 自分の中に流れる血が父の血かどうか定かではないと思い出したイデリーナは途中で言葉を切ってしまうも、ソルトは気付かず「だから? 母親の身分だけじゃない、リナリア嬢自身に大きな価値がある。でも君は?」とし、聖女の能力を除けば身分と若さしか取り柄のないイデリーナを妻にしたい高位貴族はいないとしている。



「まあ、聖女の能力を持っているイデリーナ嬢を妻にした方が箔は付くからそれで我慢するよ。僕は束縛されるのは嫌いだし、結婚後も女性関係を改める気はないから君も好きに愛人を作ればいい」

「私は恋愛結婚がしたいんです! お父様とお母様がそうだったように!」

「ラシュエルとだろう? 無理さ。ラシュエルはリナリア嬢しか目がない。僕は君で妥協すると言っているんだ、必要な時以外正妻の役割は熟さなくていい。公爵夫人としての仕事もしなくていい」



 要するにお飾りの妻であれと要求するソルト。愛されない妻になりたくないイデリーナはもう一度手を組もうとソルトを誘う。



「私はラシュエル様の妻に、皇太子妃になりたい。聖女の私がなるべきよ!」

「聖女であっても、命の恩人であっても、ラシュエルに選ばれなかった時点で自分に問題があると思わないの?」

「っ」



 鋭い指摘はイデリーナの希望を砕く。ラシュエル経由でリナリアを除いたヘヴンズゲート家が何をしたかソルトに知られている。悔し気に表情を歪ませ、俯いたイデリーナは次の言葉を探すも見つからない。

 暫くイデリーナを眺めていたソルトだが「時間切れだ」と言い、腰を上げた。



「ヘヴンズゲート侯爵には後日君への婚約の打診を送る。普通に考えれば、君にとっても利のある話だ」

「……」



 イデリーナは顔も上げず、言葉すら発さない。冷めた瞳で見やった後ソルトは応接室を出て行った。



「……ば……お姉様さえ聖域に行かなければ……!!」



 リナリアが聖域に行かなければ、黄金の“祈りの花”を開花させなければ、帝都に戻らなければ今頃ラシュエルの婚約者になって愛されていたのはイデリーナ。決してリナリアじゃない。大体聖域にいるつもりだったのをあの神官がリナリアを連れて戻ったと確か言っていた。リナリアとあの神官のせいだ。

 リナリアさえ消えればラシュエルの婚約者はイデリーナとなり、皇太子妃になれる、ラシュエルの側にいられる。



「お姉様が本当にいなくなればラシュエル様だって私を愛してくれるっ」



 思考がそれ一色に染まり切ったイデリーナは思考に支配されるがまま外へ飛び出して行った。





読んでいただきありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
ここまで真っ黒になったら聖女終了だね。
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