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15話

 

 


 四日後——。


 今日はイデリーナ含むヘヴンズゲート家が聖域へと赴く日。聖女の能力を現在も保持していればイデリーナは聖域に受け入れられる。立会人は現教皇リドルと神官で唯一入れるユナン、変装魔法で神官に扮したリナリアとラシュエル。大教会へとやって来たヘヴンズゲート家の様子は様々。後妻は絶対にイデリーナが聖域に入れると信じ、父は疲労が溜まっているのか少々窶れ、イデリーナの方は不安で一杯という三者三様に分かれていた。



「来たか。では、早速向かうとしよう」



 教皇の言葉で用意していた馬車に大教会側とヘヴンズゲート家に分かれ乗車することに。



「教皇様!」



 先に乗ったラシュエルに手を差し出され、馬車に乗り込む直前だったリナリアは不意に教皇を呼んだイデリーナへ向いた。



「ラシュエル様やお姉様はいらっしゃらないのですか?」

「今其方が気にするのはもっと別の事であろう。さあ、早く乗りなさい」

「大事なことなんです! ラシュエル様とお姉様には、実際にその目で私が聖女の力を持っていると見てもらわないと! 私が聖女の力を持っていると証明されれば、ラシュエル様は私を見直してくれて、お姉様はリリーシュ公爵令息の婚約者になると身を引く事になるからです!」

「どうでもいいわい。侯爵、早く其方の娘を馬車に乗せんかい」



 言葉通りの態度と仕草で父を呼び付け、騒ぐイデリーナを馬車に乗せた。



「リナリア」

「はい……」



 すぐに人は変われない。聖女の能力の存続に関わるというのに未だ懲りていない。ラシュエルに呼ばれ、馬車に乗り込んだリナリアはラシュエルの隣に座った。先に、向かいに座っていたユナンは呆れた笑みを出している。



「多分、聖域はイデリーナ嬢を受け入れないだろう。仮に入れたとしても能力の減少は一途を辿る」

「大教会側としてもイデリーナが聖女の能力を失うのは痛いと聞く。以前、教皇が矯正すると言っていたが」

「あれね。俺や教皇の考えでは、さっきも言った通りイデリーナ嬢を聖域は受け入れない。聖女の能力を取り戻す方法はただ一つ、清い心を取り戻すこと。ヘヴンズゲート家から引き離し、性根の悪さを叩き直す必要がある」



 罪を犯したり、問題行動ばかり起こす令嬢だけが送られる修道院が辺境地域にある。院長と教皇が親戚関係にあり、事情を話しイデリーナを預かってもらう算段だとか。



「お父様達が納得するかどうか」

「そこは教皇の権力の出番さ。大教会は独自の法を持ち、帝国法は一切通用しない。侯爵が騒ごうがどうしようもない。イデリーナ嬢とついでに母親の方も一緒に入れてもらって性格を矯正してもらう?」

「今更治るとは思えない」



 後妻まで連れて行けばそれこそ父が黙っていない。得策ではないとリナリアは首を振る。



「イデリーナが聖域に入れた場合でも、修道院行は決定なのか?」

「ええ。聖域に入れるのなら、寧ろ性根を叩き直す絶好の機会。イデリーナ嬢だって折角目覚めた聖女の能力を失うのは嫌でしょうから」

「それならイデリーナがリナリアに絡む心配はないな」



 仮の考えだとしても、少しでも可能性があるのなら潰しておきたい。イデリーナは修道院行、残った父と後妻は今までクローバー侯爵家がアンジェラやリナリア宛に送金していた生活費の全額返済の工面に追われる。現在でも追われていると聞いており、今後は長年に渡るリナリアへの虐待についての容疑、皇太子ラシュエルに囁いた虚言の真偽の追及が始まる。


 


 ——数時間後、一行を乗せた馬車は聖域付近に到着し、聖域の前へは徒歩で向かうこととなる。歩いて約十分足らずで着くというのに、後妻は歩いている最中文句を言い続けた。聞いていて辟易となり、先頭を歩くユナンが顔だけ振り向いた。



「侯爵夫人は馬車に戻られますか? たかが十分程度歩くだけでお疲れなのでしょう?」

「私は侯爵夫人よ!? 侯爵夫人を歩かせるなんてどういうつもり!」

「それを言うと黙々と歩き続ける貴方の夫やご息女は侯爵と侯爵令嬢ですよ?」

「っ〜〜〜」



 文句を言っているのは事実後妻だけ。言い返したいようだが次の言葉が見つからないのか、羞恥と怒りで顔を赤く染めつつもこれ以降は一言も文句を零さなかった。

 聖域の前に着いたと教皇が告げた。一見、何でもないように見える。



「儂と同じように手を伸ばしてくれ」



 教皇が神官に扮したラシュエルに指示した。言われた通りラシュエルが教皇と同じように手を伸ばすと見えない結界に阻まれた。教皇の方は結界の先へ伸ばしても阻まれない。



「このように、聖域に受け入れられる者と拒否される者の違いが分かっただろう」



 ヘヴンズゲート家に振り向き説明した後、イデリーナを結界の前に立たせた。



「さあイデリーナ嬢。手を伸ばしてみよ」

「は、はい」



 後ろで後妻や父がイデリーナなら大丈夫だと応援するが、神官に扮したリナリアはじっと見つめた。緊張しながら手を伸ばしたイデリーナを結界は——強く拒んだ。目に見える光と強い電気の音が鳴り、イデリーナを拒絶した。悲鳴を上げ、体から煙を発するのを見て教皇とユナンは予想通りだと溜め息を。リナリアとラシュエルはイデリーナだけ拒み方の度が違うことに驚きを隠せなかった。

 そっと二人に近付いたユナンが小声で理由を説明した。



「吃驚した?」

「とても……ラシュエルが触れた時と違い過ぎて」

「イデリーナ嬢の場合は、性根の悪さが一級品だからさ。聖域は、入る資格のない者をただ拒むか、強く拒むかのどちらかに分かれる」

「これじゃあイデリーナはもう聖女の能力は……」

「さて」



 聖域に拒まれた。つまり、聖女の能力はもうないと示しているのかと問われたユナンは「微量の力が残っている可能性もある」と告げる。それならば、性根を叩き直し清廉な心を取り戻せば聖女の能力が復活できるかもしれない。



「イデリーナ!」

「ああっ、イデリーナっ」



 父と後妻が気絶したイデリーナに駆け寄る。非難の目を教皇に向けるも、教皇は自業自得だと放つ。



「はあ」

「はあ、とは何ですか! イデリーナがこんな目に遭ったというのに!」

「この娘の性根の悪さを結界は見抜き、罰を与えたまでじゃ」

「聖女の力を持っているのですよ!?」

「聖女ではないのに結界に受け入れられたリナリア嬢の方がよほど聖女に向いておる」



 二人には此処にいない事となっているリナリアに矛先が向けられた。



「リナリアを此処へ連れて来てください! イデリーナが入れないのに、リナリアが入れる訳がない!」

「そうよ! どうせ、リナリアさんが持ってきた“祈りの花”は巧妙に作られた偽物に決まってるわ!」

「……ほう? 開花の瞬間を見届けた神官と本物だと定めた儂がこの場におるというのに偽物と決めつけるか?」

「あ……」



 勢いのまま言葉を放った後妻は冷たい指摘を受け、見る見るうちに顔を青くさせた。



「いいじゃろう。なら、儂がリナリア嬢から聞きクローバー侯爵に伝えた話をしよう」

「何を」

「侯爵、侯爵夫人。其方ら、リナリア嬢が皇太子殿下の婚約者候補となるまでは虐待をしていたな?」



 四日の間に親権を移行させる際に、少しでもクローバー侯爵家が有利になるよう教皇から今までヘヴンズゲート家でどの様な生活を送っていたかを訊ねられ、有りの儘を話した。リナリアが話した内容は全て教皇からクローバー侯爵家に伝えられた。教皇や書き取りに同席していた神官に同情されるくらい、リナリアの生活は悲惨だった。

 母アンジェラが生きていた頃は良かったのだが、亡くなってからは使用人達が一新され全て後妻やイデリーナ贔屓に変えられてしまい、専属の侍女を付けられても最低限の世話しかされないどころか毎日何かしら嫌がらせをされただけではなくリナリアよりイデリーナや後妻の良さを語られた。

 食事ではリナリアがいたところでリナリアを除け者にし、家族三人で談笑しているのなら、自分は部屋で食べ家族で食べてほしいと言ったリナリアを父が殴り、殴られたリナリアを見て後妻とイデリーナは笑った。

 家庭教師にしても、リナリアが少しでもイデリーナより優れたところを見せると即侯爵夫妻に告げ口をしリナリアは叱られた。イデリーナより不出来とあれと言われ続ければ、やる気だって失う。

 皇太子妃筆頭候補となり、ラシュエルとの関係が良好であったから最低限の生活が送れた。


 教皇から告げられた話を真っ先に嘘だと叫んだのは後妻。続いて父。鋭く目を細めた教皇の後ろ、隣にいるラシュエルから寒気がする冷気を感じ取った。変装魔法で姿を変えているとは言え、彼等を視界に入れる黄金の瞳は氷の如く凍えていた。



「気付いてやれず済まなかった」

「ラシュエルが謝ることではありません。自分達に分が悪いことについては表に出ないよう細心の注意を払う人達です」



 もしも皇太子妃筆頭候補になれなかったら、ラシュエルと良好な関係ではなかったら、きっとリナリアはとっくの昔に処分されていただろう。



「リナリアの吐いた嘘だ! 私達が嫌いだからとあいつは……!」

「ほう? 儂がリナリア嬢に話を聞いた場所は、以前イデリーナ嬢が嘘を吐いて攻撃された尋問部屋なんだがの」

「なっ、なっ」



 嘘を吐くと部屋に展開されている魔法によって攻撃をされる場所と言われ、リナリアの嘘だと喚いていた父や後妻は口を閉ざした。攻撃されなかったということは、一切リナリアは嘘偽りを申していない証となった。



「どうしようもないな其方等。侯爵よ、アンジェラや其方の父はそこの後妻と結婚させない為の婚約だったと何度も言っていたそうだが?」

「そんなの、あの女や父の嘘だ! 現にあの女は私を愛していた!」


「いいえ!」



 ずっと神官に扮している必要はなく、タイミングを見計らって変装魔法を解く予定だった。父の発言に我慢がならなかったリナリアは変装魔法を解き、父の言葉を否定した。



「お母様はお父様を愛していません。亡くなる間際も義務を果たそうとしないお父様に対してただただ諦めているだけでした」

「リ、リナリア」



 リナリアが変装魔法を解いたならばとラシュエルも自身の変装魔法を解いた。驚愕する父と後妻の声にラシュエルの名があったからか、気絶していたイデリーナが目を覚まし、ラシュエルの姿を認識すると飛び起きた。




読んでいただきありがとうございます。



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