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サウナ#4

「広くなってる」


 エオンがティエラの後ろから顔をのぞかせて言う。


「温泉が売りですからね。力を入れてるんでしょう」


 脱衣所は木造ゆえにとても香りが良い。その中で3人は衣服を脱ぎ、バスタオルを身体に巻く。 


 そのあいだにも様々な人たちが、風呂に入っていったり出て行ったりと、途絶えることがないうえに、風呂上がりの人たちの顔はどことなく清々しさを称えていた。


 3人は浴場へと足を踏み入れる。


 大量の湯気が押し寄せ視界を奪う。それと同時に熱気と大勢の人の気配も混ざり、独特の雰囲気を醸し出していた。


「まずは身体を洗うのよね」


 ミリアたちはジンに教わった通り、まずは身体を洗ってから湯舟に浸かる。


「はぁぁぁ。気持ちいい~」


 ティエラはゆっくりと手足を伸ばす。大きい風呂というのは、それだけで解放感が強い。お湯の温度も申し分なく、温泉自体にも微かにとろみ(・・・)がある。


「温泉の効能見た? 美容効果だってよ」


 言いながらミリアが手で温泉をすくって眺める。


「……ボク、そろそろあがりたい」


 エオンは風呂自体があまり得意ではないらしく、早くもあがりたがっていた。


「確かに長風呂ではなく、身体を温める程度で問題ないと言ってましたね」


 ジンに教えられたことを思い出して、3人は風呂から出る。


「いよいよサウナね」


 浴場の片隅に更なる扉があった。その扉を開くと、脱衣所から浴場に入ったときの数倍の熱気が3人を襲った。


 長く開けっ放しにしてはいけないという教えを守り、素早くサウナの中に入る。


 目も前には扇状に広がる階段状の腰掛けと、その中央には石の詰まったカゴが蒸気を吐き出しながら鎮座していた。


 サウナの中には既に10人ほどが座っていて、誰もが静かに汗をかいていた。


 3人は恐る恐る右奥の最上段に陣取ることにした。並んで腰掛けると、身体の周りを熱気がまとわりつく。


 ただ座っているだけなのに、じんわりと額に汗が滲む。深く空気を吸い込もうとすると、熱気が肺に流れ込んでくる。


「これがサウナですか」


「思ったより熱いわね」


「……息苦しい」


 サウナは無理を楽しむものではない。一気に汗をかくことを目的としているため、中にいる時間は5分くらいで問題ない。現に、ミリアたちと入れ替わりで出ていく人も多かった。


 3分もしないうちに額から汗が流れ落ちるようになり、3人は揃ってサウナを後にした。


 外に出ると、浴場だというのに涼しさを感じる。


 汗を流すためにシャワーを浴びてから水風呂に入ると、絶対に冷たいはずなのだが、むしろ心地よい冷たさが身体を冷やしていく。


「……この後は休憩?」


「そうね」


「外気浴って言うんでしたよね、あそこですかね」


 ティエラが指をさす先には、外気浴場と書かれた看板が下がっている扉があった。


 外に出ると、寝転がれるほどの大きさの椅子が大量に置かれていて、多くの人が仰向けになって休憩していた。


 外気に晒されての休憩だが、温泉地帯という事もあり決して寒くはない。


 彼女たちも椅子に寝そべると、青空と太陽が解放感をもたらし、時折頬をなでる風が心地よく眠気を誘う。


 サウナは1度にして成らず。複数回サウナと水風呂と外気浴を繰り返すことが、絶対に必要な工程であり、必須条件だった。


 5分くらいの休憩をして再びサウナの扉を開ける。


 同じように腰掛け、熱気を身体に受け取る。1度目とは違い、呼吸も問題ない。


 そんな余裕が出てき始めたころに扉が突然開いた。普通に考えればサウナの利用客なのだが、その人は明らかに利用客には見えなかった。


 サウナは浴場の中にあるため、当然みんな服など着ていないのだが、現われた女性は服を着ていた。 ミリアたちは凝視してしまったが、他の人は知っているのか何も言わない。


「失礼します」


 そう言って中に入ると、手早く作業に入った。


 彼女は中央で蒸気を発している石に、懐から出した液体を振りかけてから、脇に置いてある水もかけた。


 すると、一気に蒸気が発生しサウナ室に立ち込めた。


 しかしそれはただの蒸気ではなかった。


「良い匂いがする」


 エオンが小さくつぶやくと、それに応えるように女性が喋り始める。


「本日のロウリュアロマには、温帯に生息する植物の葉から抽出したものを使用しています。精神の落ち着きや、不安解消の効果があるといわれています」


 それを喋り終わった女性は、肩に引っ掛けてあるタオルを持った。


「それでは、これより熱波を送らせていただきます」


 その宣言と共にタオルを広げるように両手で持って振りかぶる。


「……ネッパ?」


 エオンがとなりにいるティエラに尋ねる。


「ジンの説明を聞いてなかったんですか? 熱波というのは蒸気を――」


 ティエラの説明は最後まで言い終わらなかった。言葉通り熱波がティエラを襲ったからだ。


 驚いて声も出ないほどの熱さが全身を叩く。


 熱波とは、タオル等を使って風を起こし、石から立ち上る蒸気を利用客に向けて放つというサービス。


 熱波を起こす人を熱波師といい、サウナでは人気となっていた。


 女性は熱波を起こし、順番に利用客に浴びせていく。熱波にはアロマが混ざっているので暑さの中にも良い香りがあった。まるで自分が温帯に居て、その植物に囲まれているような錯覚もしてくる。


 しかしロウリュと熱波によって室内の温度は上昇し、止めどなく汗は流れ落ちていく。


 1人、また1人とサウナを後にする。


「もう十分かしら」


 ミリアがそう言うと、ティエラとエオンが頷いた。


 熱くなった体温を下げるために水風呂に入り、外気浴で身体を休める。本当にコレを繰り返すだけで正しいのかと疑っていたミリアだったが、3度目の外気浴で異変を感じる。


 水風呂に入っていた時も感じていたが、不快感が不思議と無い。体感温度が一定に保たれているような不思議な感覚だった。


(これが、整う?)


 ジン本人も整うという感覚を伝えるのは難しいといっていたことを思い出す。だが、心なしか疲労感が軽減している気がするし、肩こりも無くなった気がする。


「なんかスッキリしたわね。半信半疑だったけど、人気な理由も分かった気がするわ」


「そうですね。湯船に浸かるのとは違った爽快感もありますからね。それに異世界の文化というのも魅力的なんでしょう」


 シャワーで汗を流して、さっぱりとした気持ちで浴場から出る。すると丁度ジンも浴場から出てきた。


「よう。サウナはどうだった?」


「なかなか良かったわよ。手順が多いから少し大変だけど」


 ミリアが応えると、ジンは満足そうに笑った。


「そうか、まぁ1回だけじゃな。家の方にもサウナが出来れば毎日でも通えるんだがな」


 サウナは1回にして成らず、という事らしい。その意味をミリアも何となく理解した気がした。


 全員が風呂で汗を流し、外に出て街を散策て帰るころには夕飯の準備ができていた。


「やっぱり旅館ってのは良いな。自分で何もしなくても全てが用意されている幸福」


「地方に行けば野宿とか普通ですからね。それと比べると天国ですよ」


「……最高」


「帰るのが嫌になるわね」


 4人は旅館で夕飯を食べ、盛大に酒盛りをしてそれぞれの部屋で就寝したのだった。

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