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濃い味のラーメン#2

 それは悪魔の囁きにも等しい誘いだった。そして今現在、その言葉に逆らえる者などいないのも事実だったが、理性がストップをかけた。


「味の濃いモノって言ったって、絶対に作ってくれないわよ?」


「……邪教扱いされたら追い出されるかも」


「さすがに今日の野宿は避けたいですね」


 そんなことは解っているとばかりに、ジンは首を左右に振った。


「あぁ、作ってくれないだろうし、下手すりゃ追い出される。だから作るんだよ。自分たちで」


 決意のもとに告げれたセリフに3人は息を吞む。


「俺が前の世界の料理を作るから協力してくれ」


 ジンこと陣川忠の前世はサラリーマンだったが、実に多趣味な男だった。流行りに染まりやすいと言えば確かにそうで、プラモデルや料理を始め、キャンプやサウナにも手を出していた。


「料理って、なに作るつもり?」


 ミリアが問うと、ジンが不敵に笑った。


「ラーメンだ」


 そこからの行動は早かった。


 ミリアとティエラは、主人から借りたいものがあるというジンのリクエストに応え交渉役を。

エオンにはスノードラゴンを討伐した場所に向かってもらう。一方のジンは、まだ開いているい

るであろう商店へと急いだ。


「まだこの時間なら大丈夫か」


 ジンは寒空の下走っていた。


 メニューが決まっていれば食材に迷うこともなく、頭の中で材料と調理行程を思い浮かべる。


「初めてじゃないからな」


 独り言を呟きながら歩みをすすめる。


 かつてジンはこの異世界でラーメンを作ったことがあった。どうしてもラーメンが食べたくなり、1人で挑戦したのだ。もともとの趣味の1つである料理において、自分の好奇心をくすぐるモノはいくつかあった。


 スパイスの調合から始めるカレーや、免許が必要なフグの調理など。その中の1つがラーメンだった。


 ラーメンが作れる材料を確認し、試行錯誤を繰り返してやっと完成した1品。いずれミリア達にも振る舞うつもりでいたが、こんなに早くその時が来るとは思わなかった。


 そんなことを考えている間に、目的の商店に着いた。


「よし、まずは――」


 ジンは頭に思い浮かべている材料を探し手に取っていった。

 



 買い出しを終えて、ジンが集合場所に着いた頃にはもう夕方に差し掛かる時刻だった。雲のせいで薄暗いが、雪や吹雪ではないだけマシだろう。


「エオン、どんな感じ?」


 ジンが問いかけると、エオンが顔をあげる。


「……どう?」


 ジンがエオンに頼んだのは『かまくら』の作成だった。かまくらがあれば、中で火を使えるし何より暖かい。


「うん、完璧なかまくらだ。やっぱり器用なエオンに頼んで正解だったな」


 完成したかまくらの中に入ると、既に外気温より暖かい。そこに買ってきた食材を置いておくと、再び外に出る。


「かまくら作ったら疲れたろ? かまくらの中で休んでてくれ。結構あったかいぞ」


 エオンに声をかけてジンは剣を抜く。向かう先には力なく倒れているスノードラゴン。ドラゴンの肉は世界中で高級食材に分類されるほどの絶品の品。このドラゴンも明日以降に解体され、肉として流通する手筈になっていた。


「鱗は包丁なんかじゃ無理だからな」


 ジンの持っている剣は伝説の1振り。世界に根ざす世界樹すらも断ち切れると言われている最強の剣だった。例えドラゴンの硬い鱗であっても簡単に削ぎ落せるはずだ。


 ジンが欲しいのはドラゴンの肉。その肉を使ってチャーシューを作る予定だった。欲しい肉は首、胸、足、尻尾のどれかだが、選んだのは後ろ足の肉に決めた。


 人の頭ほどの大きさの鱗を剣を使って剥がしていく。


 大まかに鱗を取り終わったところで、ミリアとティエラが合流した。


「頼まれたものを借りてきたわよ」


 ミリアとティエラがそれぞれ持っていた鍋や調理器具を置いた。


「おお、ありがとう。こっちも準備出来てるよ」


 ジンは礼を言い、1つの鍋を確認する。


「やっぱりあったか。鶏ガラスープ」


 鍋の中に満たされていたのは黄金色の液体。鳥の骨と野菜からダシを取ったスープだった。

「このスープが必要なんですか? 店主はスープとして飲むなら多少の塩を入れたほうが良いと言っていましたよ」


「これはスープ単体として使う訳じゃないんだよ。味付けは醤油だ」


 ジンの言葉の意味が分からず、首をかしげるティエラ。ジンは笑いながら調理道具をかまくらの中に運び込んだ。


「2人も早くかまくらに入った方が良いぞ。外は寒すぎる」


 その言葉に従い、ミリアとティエラもかまくらの中に入ると感嘆の声を上げた。

「なんか不思議な感じね」


「雪で作ってるのに暖かいですね」


 かまくらの中は案外広く、大人が4人入ってもまだ広く感じるほどだった。


「ここに焚火を作れそうだな」


 ジンはかまくらのの中心に石を円状に並べ、市場で買ってきた薪を置く。


「なぁミリア。火の魔法で着火してくれないか」


「ちょっと、私の魔法は便利に使うためのものじゃないのよ」


「俺だってさっき、肉切り出すために剣で鱗を削いだよ」


「ッ、女王陛下より承った剣をそんなことに使ったんですか!?」


 ティエラは驚きで失神しかけた。


「仕方ないだろ。鱗なんて硬すぎて俺の剣以外じゃ太刀打ちできないからな」


「そういう問題じゃ――」


「まぁ怒るなって。今から美味しいチャーシューを食わせてやるからさ」


「うぐ」


 ティエラにはチャーシューが何かというのは解らなかった。しかし、きっと美味しいモノなのだろうという事は理解したので黙っていることにした。


「という訳で、火を頼む」


 ミリアに再度頼むと、彼女も渋々といった感じで薪に火をつけた。


 パチパチと燃え始める薪が、かまくらの中の温度を更に上げ始める。


「3人はちょっと温まっててくれ」


 そう言うとジンは包丁を片手に外に出る。


 先ほど鱗を剥がし、肌がむき出しになった足の肉を器用に切り出していく。


「やっぱ寒い地方だと皮下脂肪が厚いな」


極寒を生き残るための進化。食材としても脂身と考えれば美味しいのかもしれないが、今日のラーメンには合わない。


「脂肪は取り除いて、モモ肉だけ切り取れれば……よし!」


 うまい具合に欲しい肉を取り出せたので、これをチャーシューにする。


 流石にかまくらの中に焚火をもう一個作る事は出来ないので、外で調理する事にした。


 石を並べ薪を組む。そして、


「おーいミリア。こっちにもう一回 火ぃ頼む」


 と声をかけた。


 すると、かまくらから顔をのぞかせたミリアは、半目でジンを睨んだ。


「さっきも言ったけど、私の魔法は便利な道具じゃないんだけど」


「美味いチャーシューのためには火が必要なんだよ。わかってくれよ。な?」


 ミリアは溜息を吐いて火の魔法を使う。瞬間で薪の火は大きくなる。


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