第94話 異世界編~Rokka of Revenge~弔いのオーロラ
「なんと!ファフニールを屠ったのか!」
小鬼兄弟は我が事のように対ファフニール戦を村長に自慢げに話す。
ビッチーズも興奮してボディージェスチャーを交えて戦闘光景を演じはじめた。
「ふむ、話しをきいているとお前さんらが担いでいる魔法具が規格外の性能らしいが、どうやって作りだしたのだ?
中央にもそのようなとんでもない魔法具はありゃせんぞ。」
六花の箸がピタリと止まり視線が蒼に集まる。
蒼は自分を指差し「え?私?」と漏らすと姉妹達が「うんうん」と頷いた。
「コホン、えーそれは「機密事項」なのでお答えできません。」
伊達メガネをクイッと上げるとどこぞの有能秘書ばりに「機密事項」を強調しきっぱりと言い放った。
「そりゃそうだろうな!「国を潰して」しまいかねん魔道具だ!」
村長は「国を潰して」を強調し蒼に心理的な揺さぶりをかける。
「私どもは元よりこの地に目的があり来たわけではありません。
この地にに来たのは想定外であり、いわば「事故」です。」
「見た目を見れば外の世界から来た者と理解できる。
さしづめ日本であろう。
儂が獄卒を務めていた時分、そなたらと似た者どもに責め苦を与えておったからの、よく覚えておるわい。」
村長は髭をいじりながら当時の記憶を探る。
「はい、日本から転移門を通じて来ました。
私達の目的地は多分この世界の天上の上、地上にあると思われます。
ご存じないですか?」
「ほう転移門とな!確かに話しは聞いたことがあるぞ。
神が地獄と地上を行き来するために開いた次元跳躍陣だったはず。
確かにあるぞ、伊邪那美命様が管理しておられる「黄泉比良坂」を通り抜ければ死者は生者の国へ戻れる。」
人差し指を立てニヤリと笑う村長。
「その場所を是非教えてください!
私達は何としてでも生者の国へ帰らねばなりません。
どうかお願いします!」
土下座の姿勢で願いを乞う蒼に続いて姉妹達も土下座をする。
願いを聞いた村長は難しい顔をして黙り込んでしまった。
「村長!あの娘達は俺らの命恩人だ!
憎い仇のファフニールを討伐した英雄だ!
感謝すれど仇なすことは仁義にもとる!
頼む!教えてやってくれ!」
小鬼兄弟が六花に真似て土下座するとビッチーズも慌てて後に続いた。
「まてまて!儂は意地悪をしようと考えてはおらん!
「黄泉比良坂」に儂自ら案内しよう。
だがなファフニールを討伐した功績はあまりにも大きい。
国を挙げての歓待も行われよう。
しかしなそれはヘルにしても同じことなんじゃ。
ヘルの中央都市「ミレニアム」は幾度となくファフニールに襲われ、その度に甚大な被害を出しておる。
いわば避けられようのない災害と同じじゃ。
その災害が今後起こらぬとなれば、やはり英雄を招き礼のひとつでも述べなければ国民に示しがつかん。
仮にだが地獄が英雄を独り占めしたとなれば、戦争が発生してもおかしくない状況じゃて。
だから考えておったのじゃ。」
思いのほか大きな事態になってしまった事実を知り、「作戦タイム」と言い放つと部屋の隅に移動した。
蒼「不味い事になったわね、このままじゃ当分この世界で足止めされることになるわよ。」
桔梗「どういうことでち?」
蒼「私達の存在を巡って地獄とヘルの取り合いになるかもしれない。」
夜花子「それで戦争なのね。」
萌葱「私達を自国の戦力として取り込もうとするか。」
茜「そんなの力尽くでねじ伏せりゃいいじゃんか!」
珊瑚「そういう脳筋発想で片付くほど単純じゃないのよ。」
茜「どういう事だ?」
蒼「この世界は一応民主主義なのよ、国民の賛成がなければ支配層が勝手をできないの。」
夜花子「支配層には煙たがれるだろうけど、国民にとっては英雄だからね。例えば中国で災害を無くしました!って人が出たら会いたいでしょう?」
茜・桔梗「もちろんだぜ!・でち!」
萌葱「それなのに会わせて貰えず中国でひとり占めしたら怒らない?」
茜「怒るな!プンスカプンだな!」
萌葱「その怒りはどこへ向かうかしら。」
茜「総理大臣だな!」
萌葱「それと同じことがここで起こるのよ。」
桔梗「たいへんでち!」
珊瑚「暴動でも起こされたら堪ったもんじゃないわね。」
夜花子「次の選挙で大敗することが確定よね。」
蒼「そうならないためにも私達を自国に招くはずよ。
でも問題なのが私達の戦力よ。
国を亡ぼす力を持った戦力を易々と敵国に送り出すことはしないと思う。」
萌葱「茜が言ったように力尽くで地上に戻ったとしたら、事情を知らないヘルは地獄が隠したと思うわよね。」
蒼「そして両国間の軋轢は更に悪化し、いつ侵略を受けるか分からないヘルが戦争を仕掛ける。
私達がいなくなったこの世界で多くの国民が意味の無い戦争で命を落とすことになる。」
桔梗「さいあくでち・・・」
蒼「そこでなんだけど彼らは装備がファフニールを倒したと思っている。
なら装備が無くなれば私達は只の小娘になるんじゃないかしら。」
萌葱「そうか!それなら歓迎を受けるだけでバイバイできる!」
珊瑚「ちょっと待って!ポッポちゃんを壊すの?!」
桔梗「いやでち!ぜったいイヤッ!」
蒼「2人とも落ち着いて聞いて。はい、ヒッヒッフー!」
姉妹全員でヒッヒッフーを10回繰り返した。
「早期にここから抜け出すにはそれしかないの。
私だって壊すのは嫌よ、でもそれくらいしか良案がないわ。
幸いにも桔梗が制作者だと知られていないから、拘束されることはないと思うのよ。
珊瑚があそこで桔梗を止めてくれて良かった。」
蒼は装備の破棄に諦めきれない珊瑚に親指を立てる。
珊瑚は頷きながら親指を立て返した。
「桔梗あなたがいればまた作り直せる。
今度は魔物をいっぱい狩って素材をたくさん集めましょう。
そうすればもっと強い魔法具が作れるわ。
お願い、私の言う事を聞き入れてちょうだい桔梗。」
萌葱は桔梗の両手を包み込み懇願する。
桔梗は涙目で小さく頷いた。
「村長、私達は地獄とヘルに赴きます。
その前にこの装備を全て廃棄します。
立ち会っていただいてよろしいでしょうか。」
萌葱が村長に返答すると、小鬼兄弟とビッチーズが先に反対の声を上げたが村長はそれを黙らせた。
「よく判断してくれた、ありがとう。
過ぎた力は世にいらぬ争いの火種を産む。
この事を含めて儂は国の首脳部に最大限の計らいを要求する。
して何時行うのだ?」
「これよりすぐに。」
村長は萌葱の肩を叩くと女中を呼び必要なもの揃えるようにと申し伝え、小鬼兄弟とビッチーズを連れて部屋を出て行った。
「ここに用意しました品物は全てお館様がお譲りするものです。
心ばかりの詫びとして気兼ねなく受け取って欲しいとの伝言です。」
女中は六花に要求された衣服と履物、宝飾品を置き部屋から退いた。
「これはイヤリングね、とても綺麗。」
6組それぞれ形は違うがとても高価な物に見える。
まじまじと観察していた桔梗が「あっ!」と大声を上げた。
「これは翻訳の魔法具でち!」
「なるほど風呂場でのやりとりを知ってたんだね。」
「顔はアレだけどかなり切れる鬼だね。」
女中に報告を受けていたのであろう村長が、装備無しでは会話もままならいと予測して贈ってきたと蒼と夜花子は当たりをつけた。
「地獄の首脳部とも繋がりがあるみたいだし、みんな気を許しすぎないように注意しよう。」
皆は萌葱の勧告に頷き応えた。
村長が御者する牛車に揺られて荒野に向かう六花、小鬼兄弟とビッチーズ。
牛車の周りには護衛が4名、牛に乗って付添っていた。
「村長この世界には時間概念があるのですか?」
「あるぞほれこれが時計じゃ。」
村長は懐中時計を萌葱に渡した。
「秒針が一周して60秒1分、長針が1周して60分1時間、短針が一周して12時間、2周して24時間1日。そして365日で1年じゃ。」
「私達の世界と同じですね、不思議です。」
「時の流れは神でも干渉ができないと聞いたことがある。
まあ、関連する事象は操作できるそうだがな。」
「わかりました、ありがとうございます。」
萌葱は自分の腕時計の時間を懐中時計に合わせ返却する。
時折聞く鐘の音を思い出すとあれは住民に時刻を教えるものだと閃いた。
十分に村から距離を取った場所で牛車は止まり皆が降りる。
貰った履物は鉄底のブーツで地面の針を容易に踏み砕いた。
「こんなこともあろうかと思って用意ちた自爆装置を使うことになるでち。」
六花はひとまとめされた装備の背嚢の「押すな!絶対押すなよ!」と書かれた矢印の先のボタンの安全装置を外し押した。
100mほど離れた皆の前に駆け戻り、桔梗がカウントダウンを口ずさみ0と言う前に装備から虹色の光が立ち上る。
光は天井迄届くと拡散しオーロラのように揺らめいた。
オーロラはこの世界の全ての住民に目撃され、初めてみる光景に恐怖に慄く者、美しさに見惚れる者、神に祈りを捧げる者、隣人と友愛を深める者と反応は様々であった。
「綺麗だけど派手な演出ね・・・」
美しさに見惚れる珊瑚がポツリと漏らす。
「いつかこの日が来た時に供養するためでち。
あたちの産んだ子供達をいつまでも忘れないように心に刻むためでち。」
周りに聞こえないように小さく呟く桔梗を姉妹達は抱きしめた。
オーロラが消えると現場確認を行い、地面に僅かな窪みを残し装備が跡形もなく消滅したことを確認する。
「装備の完全破棄を確認した!撤収する!」
村長の宣言で各々は村への帰路についた。
地獄に来て初日で英雄となり装備を失った六花。
回復しない精神疲労と装備の管理からくる緊張から解放されたこともあり、その夜は夢を見ないほど熟睡した。
「お嬢様方、おはようございます。
ただいまの時刻は11時、少し早いですが昼食をご用意しております。」
食事の美味しい匂いで強制覚醒を促されお腹がグーグー鳴っている。
六花は「いただきます」をするとボリューム感満点の丼物の蓋を開けた。
どうやら天丼のようで、深紅の衣で身が漆黒の海老?新緑の衣で身が紫の魚の切り身?真黄の衣で身が青の肉?そして青の米?どれも20cmを超える具材で白っぽい半透明の液体がかけられている。
付け合わせは沢庵漬けと青と赤の野菜?の漬物。
汁物は見た目泥水で赤い糸ミミズ状の具が見えた。
「見た目はともかく味は一品級!」
昨夜の食事で得た教訓を反芻して天丼を頬張り、やはり美味しい事を再確認して「美味い~」と漏らす。
「女中さん、これなんのお肉でちか?」
「ああ、それはですねジャイアン・・・」
「待って!言わないでください!」
素材名を告げようとした女中を遮り珊瑚が叫んだ。
「きっと聞いてしまったら酷く後悔する気がするの。
桔梗、いいよね?」
珊瑚の言わんとした事を察したのかウンウンと頷いた。




