第89話 異世界編~Rokka of Revenge~再びの異世界
六花の異世界出発を見送ろうとする、手透きの隊員達がゲート前に向かい合わせで列を作る。
時間5分前になり六花が現れると大きなどよめきが起きた。
「皆さんおはようございまーす!」
六花の元気な挨拶に誰からも返事が返ってこない。
そう、隊員は六花の装備を見て度肝を抜かれていた。
装備自体は配給された作戦用戦闘服一式がベースとなっているが、魔改造を施され面影が消えている。
また、自分達で用意したのであろう追加装備を含め、まるでSF映画で登場する未来的なモノだった。
ヘルメットはフルフェイス型に改造され、バイザーが下ろされて顔が見えない。
アンテナやセンサーとおぼしき突起が幾つも見られ、口元を覆うカバーには対ガスと思われる吸気口が備えられている。
タクティカルベストは漆黒のボディアーマーと化し、同様の素材に見える手袋、ブーツ含めて時折表面に虹色の光の線が走る。
迷彩服であったモノは皮にもエナメルにも見える漆黒で滑らかな光沢を放ち体にぴっちりと張り付いていた。
背嚢は金属ともプラスチックとも知れない素材で、複雑な継ぎ目や凹凸、噴射口らしきものが見える。
そして珊瑚と蒼のチェーンガンと火炎放射器にしか見えない追加装備とホースで繋がれていた。
六花は唖然とする隊員の間を手を振りながら歩き、ゲート前で立ち止まると横一列に並びバイザーを上げて素顔を見せた。
「みなさん!お見送りありがとうございます!
私達はこれより異世界に赴き、謎の解明に尽力してまいります。
そして必ず無事の帰還を約束します!
では、いってきます!」
六花の敬礼に慌てて敬礼を返す隊員達を後にゲートを潜っていった。
久しぶりに見る光の柱に身震いが走り、恐怖と屈辱な記憶が交互に押し寄せてくる。
六花は互いに手をきつく握りしめ光の柱に飛び込んで行った。
一瞬で景色が変わり現世で見たこと無い風景が眼前に拡がり、異世界へ到着したことを理解する。
漆黒の空と大地、遠くに山稜が見え地平線が黄昏時のように赤く染まっている。
重く湿った空気は硫黄臭が漂い、時折吹くどんよりとした風が腐敗臭と血臭を運んでくる。
高熱でガラス化したと思われる地面は1cmほどの鋭い針状の突起が無数に生え、針山地獄を思い出させた。
「聞いていた場所と全然ちがうな。」
蒼の呟きが無線を通して聞こえる。
ゲートによって転送される場所は密林地帯で、以前六花が飛ばされた場所も密林であった。
「また何者かに干渉されたということかしら。」
珊瑚がセンサーを通して辺りを見回す。
「いちいち気に入らねえ事しやがる!ぜってーぶっとばす!」
茜が突起を踏み壊し移動に支障がないか確認を行う。
「硫化水素は微小で温泉地とさほど差が無いわね。
濾過装置を使わなくて大丈夫よ。」
大気成分の分析を終えた夜花子がバイザーを上げた。
「貰ったマップ情報のどれにも一致しないでち!」
バイザーに投射された情報を確認し終えた桔梗のバイザーが上がる。
「異世界ではない異世界に飛ばされた可能性ありか。
いいじゃない!受けてたってやろうよ!ねえ、みんな!」
「応!」
萌葱の発破に皆が拳を振り上げて応えた。
シャリ、シャリ、シャリ。
地面の突起を踏み潰しながら1時間程移動すると、湿地帯らしき水辺にたどり着く。
水は酸化鉄で真っ赤に染まり、所々で硫化水素を吹き出す泡が発生し見た目が血の池地獄そのものであった。
「ここは地獄なのか?」
より濃く漂う硫黄臭と酸化鉄臭に茜は鼻を摘まんだ。
「あながち間違いでもないかもね。」
「あたちたち、ちんじゃったの?!」
いつまでも暮れない空を見上げながら呟く夜花子に桔梗が悲観した。
「死んではいないと思いたいけど、空に全く変化が無いのよ。
時間が止まっているのか、それとも空が無いもしくは見えない場所に居るってとこかしら。」
「そうすると地底の世界と予想するのが一番現実的ね。」
同じく空を見上げている蒼が状況を推理し、珊瑚が仮説を立てた。
「なら、鬼とか悪魔が出てくれば地獄に似た地底世界に決定かしらね。」
そして萌葱がフラグを立てた。
「4時の方向に動体反応!2時の方向に移動中!」
夜花子の報告に全員に緊張が走る。
「行くよ!みんな!2時方向へ全速力!先回りをする!」
萌葱の号令一下、即座に皆が動き出す。
動体探知機が目標の位置を示し最接近予測位置に到達すると、遮蔽装置を起動させる。
1分もかからず飛翔する4個体と疾走する2個体を目視する。
2個体は追われているようであり、4飛翔個体から矢らしい攻撃をされていた。
「下の奴らは子供かな?推定身長1m位だね。」
「上の奴ら2m位あるよ!でかくない?!」
2個体を観察している珊瑚と4飛翔個体を観察している蒼が同時に声を上げた。
「子供の保護優先!上のは情報収集目的で捕獲する!
珊瑚は雷弾で攻撃、私と夜花子、茜と蒼でペア組んで墜落した奴らを捕縛する。
桔梗は治癒魔法で奴らが死なないようにサポートして!状況開始!」
「了解!」
目標と相対距離にして300m、2ペアは左右に割れて側面からの攻撃位置に移動を開始する。
珊瑚は紅緋花の安全装置を外し、雷弾にセレクトスイッチを合わせた。
「 いいぞ!ベイべー!逃げる奴は敵だ!逃げない奴はよく訓練された敵だ!!」
目の色の変わった珊瑚が叫びながらトリガーボタンを押すと、甲高いモーター音と共に白色に輝く光弾が毎秒20発の速度で射出された。
突然何もない場所からの攻撃に4飛翔体は避けることが出来ずに数発被弾するが、2飛翔体が仲間を盾にすることで射程外へと逃げ延びた。
「ムッ!照準が甘いな、調整が必要だわ。」
珊瑚は逃がした2飛翔個体を睨んだあと、遮蔽を解除してポカンと立ち尽くす子供達に銃口を向ける。
向けられた銃口に驚いた子供達は、腰を抜かして動けなくなる。
2ペアは落下地点に先回りして、背嚢から風を吹き出すと空中で捕獲し、着地したあと素早くザイルで縛り上げた。
「これはどう見ても鬼と悪魔よね。」
抱き着き合ってガクガクと震える2人の小鬼と、気絶し捕縛された2人の悪魔を見て蒼が呆れかえる。
「ねえ小鬼くん?ここがどこだが教えてくれる?」
珊瑚が銃口を突きつけたまま甘い声で小鬼に尋ねると、小鬼は泣き顔で首を横に振った。
「うーん、言葉が通じていないでち。ちょっと待つでち。」
桔梗はノートを取り出すと、あーでもないこーでもないとぼやきながら数式魔法の計算をはじめた。
六花は改めて4人を観察する。
小鬼の体色は赤と青で、赤は角が2本青は1本で共に牙が見えていて、股間から体長の半分ばかりの長さの骨らしきモノがそそり立っている。
「あれ、もしかしてチン〇サック?」
「そうとしか見えないね。」
夜花子が体格に不釣り合いな装飾品に興味を持ち、蒼は以前ネットで見た土着民族の情報を思い出し答えた。
悪魔の方はベタに悪魔の姿で、2mの巨体に漆黒の肌、蝙蝠に似た漆黒の翼と赤い髪、2対の角と長く伸びた耳、金属製の漆黒の鎧を纏い背に矢筒を装備している。
胸の膨らみと丸みを帯びた体の線で片方が女性であると判別できた。
「できたでち!」
桔梗が翻訳の魔法印の完成を告げると、ヘルメットに印を書き込んだ。
「小鬼君、私の言葉が分かる?分かるのなら返事をして。」
珊瑚に変わって萌葱が話しかけると、小鬼から「はい」と返事が返ってきた。
「ここがどこだか教えてくれる?」
小鬼は?とした顔をすると、「地獄です」と答え、それを聞いた萌葱がガックリと膝を落とした。
「地獄は地下にある世界の名前なのか?」
意気消沈した萌葱に変わり蒼が質問を続ける。
小鬼達は首を傾げ、地獄の他に国がある事を述べた。
「この世界は地獄とヘルに国分けされてるんだ。
そこでのびてるのがヘルの住人で悪魔族、俺達は地獄の住人で鬼族だ。」
赤鬼で兄の赤宗丸が話したあとに青鬼で弟の青隆丸が続けた。
「それで互いに覇権を競いあっているんだけど、それは中央の話。
ここら辺は辺境で中立地帯なんだ。
鬼族と悪魔族が協力しあって生きてる。
でないと魔獣共にみんな喰い殺されるからな。」
兄弟は顔を見合わせると頷いた。
「なんで襲われていたの?」
「うっかり中立地帯を越えてヘルの領土に入っちまって、国境警備の奴らに見つかったんだよ。」
「不法侵入をしたとなれば非はあなた達にあるわね。
まずったかしら。」
萌葱はううむと眉間を押さえた。
「なあ、あんた達は日本人だよな?」
「えっ?日本人が分かるの?」
「勿論さ!日本人の悪人が死んだ後に転生するのが地獄だからな!」
とんでもない事実を聞かされた萌葱は頭を抱えて蹲った。
「やっぱりオレ達死んだのか?!」
「ちぬのは嫌でち!あっ!ちんでるんでちた!」
茜と桔梗が混乱して抱き着き合いオイオイと嘆きはじめた。
「でもさ何か変だよな。転生した割に生気がありすぎるんだよな。」
「お前もそう思うか。それにここにいること自体が異常だしな。」
小鬼達の会話に違和感を感じた蒼が理由を聞いた。
「まず転生した日本人は閻魔大王様の裁きの間に現れて、前世の罪を裁かれるんだよ。
そのあと長い懲役を経て釈放される頃には、ほぼ老人化していて生気の欠片も残っていないんだよ。
大体は中央の施設で死んで、次の世界に転生するんだけど、あんた達は違うだろ?」
赤宗丸の話を聞き、蒼は確かにと思い返す。
「あんた達は死んでなくて、生きたまま転移したパターンじゃないかな。
うちの師匠もそうだしな。」
「えっ?!詳しく教えて!」
鬼気迫る蒼の表情にビビる小鬼達は躊躇いなく話しを続けた。
「師匠の金屋子様は魔道具作りの神様なんだ。
元は日本の鍛冶場の女神で多くの職人に慕い崇められていたけど、それに嫉妬した別の鍛冶場神が師匠の特殊性癖を最高神達にチクって、地獄に転移させられたんだ。」
「特殊性癖?」
「師匠は死の穢れに無頓着で、鍛冶場の周りに死体を吊ることを推奨してたんだよ、その方が良い鉄を打てるってね。
それを知った最高神達が「死者が好きならば丁度良い場所がある」って地獄に送られたって師匠が言ってた。」
死体を吊るすの下りで流石に引いたが、神というワードに違和感を持ち、日本について尋ねてみた。
「私達の世界に神は存在しないの、だとしたら金屋子様とは別の世界の日本なのかしら?」
「神が存在しない?そんな世界があるのか?
特に最高神達神は万物の創造主だぞ。」
「そうは言ってもいないものはいないし、代わりに仏がいるけど神とは違うのかしら?」
「仏は最高神達に作られし生命体が宇宙の真理に辿りついた究極の姿だ。
神々とは全く別の存在だよ。何より仏は無から有を作りだせない。」
「そうなんだ、ところで何でそんなに詳しいの?」
「そりゃ師匠が女神だからな!よく説教されるんだよ!」
「えっ?!比喩でなくて本物なの?!」
「冗談でこんな事を言うわけないだろ!天罰が下るぜ!」
小鬼達の真剣な様子に蒼は金屋子に一度会って話しをしたいと思った。
「貴様らの崇める神は偽物にすぎん!」
悪魔族の男が目覚め、敵意に満ちた目で小鬼達を睨みつけている。
小鬼達はまさに鬼の形相となり、抵抗できない男を有無も言わさずボコリだした。
「ちょっと待ちなさい!」
慌てて小鬼達を止めるものの、既に2/3殺しの状態にあり治癒を発動する羽目になった。




