第84話 学園編㊱ 学園祭狂騒曲 最終目 その3
ライブ開始20分前、学園を中心にした円状のエリアから一斉に大型ドローンが飛び立つ。
その数10機、全てが学園屋上特設ステージを目指していた。
五番組 敏明は幾度もドローンを起動したい衝動に駆られる。
チームKRをいや茜様を一刻も早く見たい。
周辺に潜伏している同志達も皆同じ思いであろう。
しかし、ここはドローン飛行禁止区域であり、1機でも空を飛べば警察が動く。
開演直前にドローンを飛ばし、ライブを撮影することが最終目標である。
敏明は同志の想いを裏切ることなくじっと耐えた。
敏明は以前、警察の家宅捜索でパソコンと記録媒体の全てを没収された。
幸いにも懲役刑になりはしなかったものの、多額の罰金を支払うことになり、転売等で得た儲けは全て失った。
残ったものはプリントアウトした無邪気な笑顔の茜のみだった。
失意のどん底にいた時、SNSで知り合った同志からAKBF研修生と茜が共に活動しているという情報を得る。
真偽は別として一縷の望みにかけ、ゲリラライブが発生しそうな地域を頻繁に走り回り、そこで同志達と更なる繋がりを得て、今では500人を超える情報ネットワークが構築されている。
空回りしていたゲリラライブ発生特定も情報網のお陰で、どんなに遅れても開始20分で参加できるようになる。
そして都内の移動にもっとも適した乗り物が自転車だと分かると、自転車宅配のバイトを兼ねて、毎日自転車を乗り回し体重が90kgから70kg迄落ちる。
両親は変わっていく息子を見て喜びの涙を流した。
そして今日のミニライブの開催を知ることになる。
同志達は禁断の聖地での開催に血涙を流す。
場所は超高層ビル屋上、外部からの侵入は不可能、内部は厳重なセキュリティが存在し突破不可能。
八方塞がりかと思われたが、「生で見ることはできないが」と会員の1人が発言しドローンによる撮影が提案された。
「100(生視認)より1(低画質画像)を選ぼう同志達よ!」
会長の言葉で皆の意志が固まる。
特別作戦費を集めて、高度300m、30分飛行できる大型ドローンと搭載可能な高画質ミニカメラのセットを12用意する。
操作はオートモードにプログラミングし、飛び立たせれば目的地でホバリングし着陸指令を待つ。
着陸及びカメラのピント合わせは人の操作で行う必要がある。
人物を撮影しているつもりが手前の機材を撮影していることも多々ある。
会員達はドローンの操作練習を行い、結果2機を失ったが皆の真剣さが操作技術を達人レベルまで押し上げた。
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渋谷上空を10機の大型ドローンが飛ぶ様子はすぐにSNSで話題になり、交番からは制服警官がドローンを追跡する。
更に渋谷警察署から手透きの者が応援に駆り出される。
鹿島 慎太郎の姿もその中に見えた。
「先輩、ドローンの予想進行ルートですが「例の学園」です。」
追いかけてきた地域課後輩婦警の報告を聞いて鹿島は渋い顔をした。
「それと今日屋上でミニライブを行うと申請が出ています。」
「目的はライブ会場の撮影か?」
鹿島は立ち止まると学園ビルと反対の方向に向きを変えた。
「アレを飛ばしている奴は近くに潜んでいる。
ひとけの無い所を中心に探すぞ着いて来い。」
「ハイ!先輩!お供します!」
鹿島を追いかける後輩婦警の姿が喜びで尻尾を振る大型犬とダブる。
ガタイのイイ婦警は並んでも遜色の無い鹿島の横を嬉しそうに歩いた。
ドローンを飛ばしたあと潜伏場所を変える。
あと3分程でドローンはオートモードでプログラミングされた位置でホバリングを始める。
電波の有効伝達距離は2000mとあるが、遮蔽物の無い場所での仕様であり、念のためにできるだけ近づきたい。
さりとて、スマホを見ながらの操作になるので、集中できて不審に思われない場所の確保も必要である。
敏明は学園ビルの見えるファーストフード店をMAPで特定し、自転車をこぎ始めた。
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開演10分前、特設ステージ観客席はすでに生徒で埋め尽くされ空きは見当たらない。
最前列アリーナに5大財閥令嬢と波多野 正美の姿が見える。
令嬢達は気さくに波多野に話しかけ、六花の話題で盛り上がっていた。
「正美は萌葱の親友なのね、なら私達とも親友よこれからよろしくね。」
西園寺の差し出した手を波多野はしっかりと握り締めた。
「正美はお兄様と恋人同士になったのよね!もしかしたら私の義姉になるかもしれないわ!仲良くしましょう、よろしくね!」
財前が嬉しそうにハグをすると波多野は目を潤ませ「はい」と声を震わせ呟いた。
観客席後部の生徒の1人が、大型ドローンが何機もホバリングしている事にに気付いたが、何かの余興と考え興味の対象から外す。
それよりも関心はこれから始まるライブに向けられていた。
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「先輩、井上さんとお付き合いされているんですよね。」
「ああ、そうだよ。それがどうかしたか?」
「んー、井上さんって体が小さいじゃないですか。
先輩のサイズに合っているのかなぁって気になるじゃないですか。」
「余計なお世話だぞ、君が気にすることではない。」
「えー、でも体の相性って大事だと思うんですよ。
先輩は井上さんに凄く気を使って発散できてないんじゃないかなぁ。
その点私みたいな大柄ならどんなに無茶しても壊れませんよ。
どうです一度内緒で試してみませんか?」
婦警は人目も憚らず腕に絡みつき胸をグリグリと押し付けた。
「どうですか?大きいと思いませんか?自信あるんですよ!」
クヒヒと笑いながら鹿島の股間に手を伸ばしギュッと握る。
流石にその手を払いのけるが気にする様子もなかった。
「先輩のコレ大きいですよね。
スラックスに形が浮き出てるなんて滅多に居ませんよ。
井上さんじゃ半分も入らないんじゃないですか。
その点私なら全部飲み込めますよ。
私、奥を突かれるのが大好きなんです。
先輩のコレ、きっと凄く気持ちいいんだろうなぁ。
ねえ先輩、割り切りHしましょうよ。
井上さんには黙っておきますから。」
婦警の誘惑が続くが鹿島は聞こえていないフリをする。
そして、目の前をじっと直視した。
そもそも婦警は鹿島のタイプではない。
顔は四角で目が細いし背が高いが肩幅も広い。
巨乳ではあるが自然な硬さではない。
シリコン豊胸していると風俗通の鹿島は見抜いていた。
確かに無茶をしても壊れない頑丈さが見て取れる。
普通の男なら逆に壊されるのではなかろうか。
男についても黒い噂が幾つも付きまとっていた。
「せっかくのお誘い申し訳ないが、俺は彼女で十分満足している。」
「えー!そんな事言わず1回試しましょうよ!」
鹿島は抱きついてこようとする婦警をかわし腕を締め上げた。
「やん!凄いです先輩!もっときつく締めあげてください!」
ハアハアと息の荒い婦警にうんざりし手を離そうとした時、自転車配達員が脇を通り過ぎていく。
配達員は2人に全く興味を示さず、幸せそうな笑顔を浮かべながら真っ直ぐに学園ビルを見ていた。
「アイツだ!」
刑事のカンが配達員を犯人だと告げると、婦警を突き放し猛然と後を追いかける。
販売員は後から走ってくる鹿島に気付いたのか、ペダルを思い切り踏みこむと一気に加速する。
あと1cmで手が掛かる寸前で自転車は鹿島から離れていった。
「クソ!」
鹿島は本部に自転車配達員の拘束を要請する。
しかし渋谷駅界隈で数十人いる自転車配達員の拘束は困難であった。
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10機の遠隔操作されたドローンが仮囲いの天辺に着地する姿は、鳥が羽休めをする光景に似て滑稽に見える。
各ドローンはカメラ調整を完了すると映像の送信を始める。
映像は既に街中に潜伏している同志達のサーバーからインターネットを経由して、鍵付きのビデオ会議アプリで同時配信される。
また、後ほど編集して1本のライブビデオとしてカンパした同志達に配布される予定もある。
敏明は寸でのところで難を逃れたあと、自転車を破棄し着替えてからファーストフード店の2階窓側に座る。
スマホアプリを立ち上げ、ドローンと接続するとカメラ映像がステージを映し出す。
鍛え抜かれた操作技術で正面にステージを捕らえると、止まり木脚を展開して仮囲い天辺に着地させる。
ズーム機能やピントが正常に機能するか確認を行い撮影準備が完了した。
撮影開始のポップアップが映像データ転送開始を知らせる。
この日、敏明達は伝説の幕開けを見ることになった。
ファンファーレが鳴り響き、最初の曲のイントロが始まると生徒全員が立ち上がる。
演奏は生バンドで一流どころのバンドガールを募った。
「録音データー使わない?口パク無なのか?」
同時配信を見ている同志の多くが無謀な挑戦と落胆した。
チームKRがステージ上に現れると、マスゲームの如き動きで綺麗にそれぞれのポジションに立つ。
そして始まるダンスと歌唱に同志達は驚きのあまりに鳥肌を立てた。
「ブレない!ズレない!クルわない!」
1期AKBF33でヒットしたこの曲は勢いと愛嬌だけで、歌もダンスも並以下であり生放送では見れたものではなかった。
それが、研修生と素人の組み合わせがまるで別の曲を歌唱しているように見える。
ダンスの切れ、シンクロする振り付け、歌の音程、全てにおいて雲泥の差があり、同じ曲でありながら全く違った曲に仕上がっていた。
続けざまに3曲をこなした後、メンバー紹介が始まる。
研修生の紹介が済むと六花の紹介が始まる。
彼女達は正式メンバーではなく、臨時メンバーだという事実に同志達は驚愕し、全員が惜しむ声を上げた。
その後、3曲歌ってトークのローテーションを繰り返す。
幼い頃からAKBF33を見て育った生徒達は、一緒に踊りながら歌いつづける。
特設ステージはチームKRと観客が一体化し熱狂のるつぼと化す。
舞台裏から見ていた指差はステージに飛び出したい衝動を押さえながら共に歌い踊り、本日2回目の酸欠となり救護室に運ばれて行った。
パフォーマンスが全く変化することなく、あっという間にライブショーが終わろうとしていた。




