第82話 学園編㉞ 学園祭狂騒曲 最終目 その1
学園祭2日目終了後の20:00、学園LINEに一通のメッセージが表示される。
内容は明日の最終日、全生徒を特設会場に招待するというもので、それに伴い父兄の参加が中止されるとある。
更に先着順で希望するイベントの参加券入手特典もあり、どれか一つを選択するものであった。
①AKBF33研修生と六花のコラボミニライブ
11:30~13:30
②大見世での花魁舞踊と江戸時代料理の試食
9:00~11:00、14:00~16:00の2回
③切見世で遊女コスプレ体験+撮影フォト贈呈
生徒達はすぐに友達と連絡を取りどれに参加するか大いに悩んだ。
決断の早い生徒は望みの参加券を入手できたが、ライブにSOLD OUTが表示されると、競ってポチポチと画面をタッチする。
全てにSOLD OUTが表示され、概ね自分達が希望するイベントに参加することが決まった
学園祭最終日 6:00
11:30からの開演を前に特設ステージ上で音響機器の設備、設定、試験放送が開始される。
大勢のスタッフが動きまわり着々とステージが作り上げられていた。
指差 莉乃はステージ設営責任者及び音響監督と本日のスケジュールについて打ち合わせを行っている。
木荒 以蔵は一眼レフカメラを携え、スタッフの動きや表情を撮影していた。
「やだ、こんなおばちゃん撮影してもフィルムの無駄よ。」
木荒は真剣な顔で打ち合わせをする指差を撮影している。
打ち合わせが終わった指差は照れた表情でレンズを見た。
「誰がおばちゃんだって?君がおばちゃんなら今ここに居る女性スタッフはみんなオバサンだな。」
明らかに指差よりも若い女性がちらほら見えるが構わず言い放つ。
真っ赤になった指差は人目も憚らず、木荒の胸に顔を埋めると、「バカ」と小さく呟いた。
8:00になると一般生徒の入場が始まる。
スマホのQRコードをセンサーにかざし、続々と入場してくる生徒達の顔は期待で喜びを隠せない。
中には生徒になりすまし入場しようとする者もいたが、全員ゲートで取り押さえられた。
特設会場内にいるのは、大見世と切見世で時間指定された生徒ばかりで、全体の1/3、120名程である。
彼女らがゲートをくぐり抜けて最初に見るものは、2つの仮建造物で、1つは黒い布地で作られた巨大なテント、そしてもう1つは白い金属板の巨大仮囲いだった。
仮囲いの中から時折、AKBF33ヒット曲の演奏が聞こえてくると、誰もが知っている軽快な曲のテンポで生徒の心は更に昂る。
そして特設テント内の幻想的な風景に衝撃を受けた多感な心が、傍らにいる生徒の手を握らせ一時の恋人気分に酔いしれていた。
例のごとく六花は空飛ぶ絨毯で登校し特設ステージに楽屋入りする。
既に研修生全員が揃っていて、センターの古井 紗英を先頭に全員が出迎えた。
「姐さん!おはようございます!」
完全シンクロした研修生の掛け声、お辞儀に圧倒されるも珊瑚は平然と「応!おはよう!今日はしっかり励め!」と言い、六花を連れて控室に入った。
「珊瑚、なんかキャラ変わってない?」
「色々あったのよ。で結局、姐さんになっちゃった。」
研修生との練習に全て参加しているのは珊瑚のみであり、何かあったんだなと容易に想像できた。
「姐さんってカッコイイな!オレもいつか姐さんって呼ばれたいぞ!」
茜はそう呼ばれる日のことを想像して色々と表情を作っている。
そこへ、ヘアメイク兼スタイリストの石橋 小春が、メイク道具を持って現れた。
「おはよう、よく寝れたかしら?
寝不足だと化粧のノリが変わるわよ。
さてと誰が一番かしら?」
「お願いします!」
真っ先に手を上げた珊瑚が鏡台の前に座る。
「萌葱ちゃん、私が仕上げするから基礎をお願い。
さて、今日のお肌は何点かしらっと!」
ムニッと珊瑚の頬を摘んで小春は難しい顔になった。
「珊瑚ちゃん寝不足でしょう、いつもみたいなハリと潤いが無いわよ。」
「あはは、やっぱりばれました。その電話を中々切ってくれなくて。」
「まずはお肌に潤いをもたせましょう。」
そう言うと黒緑のクリームを顔中に塗りたくり始めた。
「しばらくそのままで放置ね、そこで横になってなさい。
最後にメイクするから。」
珊瑚は言われるまま長椅子に横になり、いつの間にか眠ってしまった。
「珊瑚起きて!」
よほど熟睡していたのか萌葱に体を揺さぶられて目を覚ます。
鏡台の前に座ると顔のパックは既にはぎとられていている。
小春が珊瑚の頬をムニムニするとハアーと溜息をついた。
「若いっていいわよね、少し寝ただけでお肌がプルンプルンになるんだから。本当に羨ましいわ。」
小春のつぶやきに少し罪悪感を感じる珊瑚だった。
全員がメイクを済ましステージ衣装に着替える。
赤と青と白で彩られたトリコロールの衣装は、AKBF33のセンターが指差になった全盛期のもので誰にも身覚えのある衣装であった。
時刻は10時、開演まであと1時間半となり予定ではステージ上で音合わせと振り付けの最終調整がある。
六花は控室を出てステージに向かう。
ステージでは指差の指示で研修生がポジション取りを行う傍ら、ステージ上に異常が無いかチェックを行っていた。
「遅くなってすいませーん!」
別段遅れてはいないがとりあえず詫びから入る挨拶を済ませると、研修生が二列で横並びになり見事なシンクロで頭を下げた。
「お疲れ様です!」
ズレの無い見事な挨拶は美しい調べを感じさせ、指差はその様子を見て(人はここまでシンクロできるものなの?)かと鳥肌を立てた。
「サッシーさん、今日は魅せますよ。期待していてください。」
「ええ!楽しみ!」
「じゃあ3曲通しで合わせますからチェックお願いします。」
ペコリと頭を下げると、チームに合流して円陣を作る。
そして、強化紋をマニュキュアした親指を突き立てた。
「歌は世界を救う!私達の心の歌を聞いて!チームKRいくよ!」
掛け声を叫ぶと一斉に散らばりそれぞれがポジションに立つ。
「ハード・ローテーション」前奏に合わせて、シンクロしたキレッキレッの動きのダンスが始まった。
「そろそろ歌い出しだけど流石に口パクかな。」
指差全盛期の頃でも生歌は数える位しかしていない。
人間にはダンスと踊りを完全に両立させるのは不可能なのだ。
・・・と思っていたが、指差はステージを見て衝撃を受ける。
なんと彼女達は生歌とハードダンスを見事に両立させていた。
「す、すごい!でも、持つの?!」
曲の途中で息切れを起こし、酸素不足で卒倒するメンバーをたくさん見てきた指差はハラハラしながら彼女達を見守る。
曲が終わりポーズを決めると、間髪入れずに次の「Sometimes・カチューシャ 」の演奏がはじまり、ステージにいない指差の呼吸が荒くなった。
「待って、息切れしてる、呼吸が苦しい!」
指差は現役の頃のキツイ体の記憶が蘇りハアハアし始める。
2曲目も見事に歌い踊りきると、3曲目「会いたいな!」と、スピーディーなテンポの曲が続くと呼吸困難を起こして倒れた。
チームKRの面々は指差が倒れる瞬間を見ていたが、決して歌を止めることなく最後までやり遂げる。
曲が始まれば最後迄歌いきるのがプロの仕事と、強い信念を培ってきた彼女達に迷いや妥協は無い。
幸いにも指差が倒れると直ぐにスタッフが駆け付け介抱を行っていた。
曲が終了して指差の元に駆けつけると、携帯型酸素スプレーを口に当て呼吸を整えている。
状況が把握できない皆は首を捻った。
「お恥ずかしながら、あなた達見てたらエア酸欠になっちゃったの。
現役の時の経験から、あんなに歌って踊っていたらまず失神すると思うけど、あなた達はどんなトレーニングを積んだの?」
「はい!まずは練習場となる公園まで歌いながら走りました!
公園はランダムで決まりますので最低10Kmを走ります!」
直接対話する機会の少ないセンターの古井 紗英が高揚して説明を行った。
「遅刻をすると見学になってしまうのでみんな必死で走ります。
携帯型酸素スプレーには皆がよくお世話になりました。
それとこのマニキュアです。
このマニキュアはとても体が軽くなる「おまじない」なんです。
このおまじないのお陰で体を効率良く鍛えることができました。
今は効果が切れてしまいましたが、それでも以前の3倍くらい体力と心肺能力が向上しました。
もう一流アスリート並なんですよ。
みんな100mを10秒台で走れます!」
研修生達が誇らしげに頷く、そして一斉に声を上げた。
「全て珊瑚姐さんのおかげです!姐さんありがとうございます!」
研修生総勢12名、AKBF33の中興を成し遂げたダイヤモンド世代の誕生を指差はこの瞬間目撃し確信したと後に告げた。
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大見世厨房では昨夜、急遽200人分の料理を要請されたが、今迄出した料理では手間が掛かり過ぎて間に合わないという結論に達した。
そこで、手軽に大量に作れる屋台料理を提案される。
料理長は渋ったものの背に腹は代えられぬと承諾するが、献立を見て妙なこだわりを発揮した。
献立
鰻の蒲焼
先日匂いだけ嗅がせた調理済みを再度軽く炙り提供する。
鮪漬寿司
早朝、河岸で仕入れた2m越えのメバチマグロ2匹を4人掛かりで解体、大きい切り身の寿司を再現。
蕎麦
料理長曰く、江戸の蕎麦は「藪」「二八」と言い出し、自ら手打ちを始める。
江戸おでん
豆腐とこんにゃくを串に刺し味噌を塗って焼く田楽として提供。
江戸天ぷら
エビ、ホタテ、アジを「金ぷら」「銀ぷら」にして提供する。
早朝5時から始まった調理は8時30分まで続けられ、午前の分の提供は事なきを得た。
壁、天井は修復、畳は全て交換され先日の戦闘の名残はどこにも見られない。
生徒達は思い思いに座敷に並べられた座布団に座り、室内の装飾や襖の絵を見て目を輝かせている。
そして、開始を告げる大太鼓が鳴り響くと居ずまいを正し口を閉じた。
「皆さん、本日は妓楼「六花亭」にようこそお越しくださいました。
私は忘八の1人、京極と申します。」
京極は簡単にこの後のスケジュールを説明すると、早々に引っ込んでしまった。
三味線と太鼓のお囃子が始まると5人の花魁が現れ踊り始める。
生徒達は最初のうちはプロが躍っているものだと思っていたが、やがてそこかしからぽつりぽつりと5人の名前が聞こえてくる。
やがてそれは大きなうねりとなり、座敷中に異様な熱気が籠りはじめる。
踊りの間中その熱気は蓄積され、踊りが終了すると同時に弾けた。
「西園寺様!すてき!」「財前様!お美しいです!」「伊集院様!綺麗すぎます!」「綾小路様!美しカッコいい!」「京極様!尊い!」
各派閥の生徒が割れんばかりの拍手を送り、声の限りに賛辞を叫ぶ。
5人は一礼の後に幕裏に戻ると水分補給をして、一息ついた後に打掛を脱ぎ小袖1枚の身軽な格好に改め、化粧を落とした。
「それでは皆さんに私達が親友であることを証明しに行きましょうか。」
西園寺が差し出した手を皆が握りしめた。
5人が手を繋ぎながら再び座敷に現れると客席に動揺が走る。
財閥令嬢達の静かな戦いの幕が開いた。




