第78話 学園編㉚ 学園祭狂騒曲 2日目 その1
AM7:00
屋上では既に財閥系関係者が集まり朝礼を行っている。
六花を乗せた絨毯は人目の付かない場所にそっと着地した。
「爺ちゃん!おはよー!」
「おお茜!今日も可愛いな!」
勢いよく抱き着く茜をよろめくことなくしっかりと抱き留めると、互いの頬にキスをしてワハハと大笑いを始める。
その脇で茜音とナイラーがニコニコと眺めていた。
「みんなおはよう!」
財閥令嬢達が駆けてくるのが見える。
互いのセカンドパートナーに抱き着くと軽くキスを交わし、手を繋ぎながら円陣を組んだ。
「珊瑚はセカンドパートナーを作らないの?」
ナイラーが遠慮なく質問をぶつけてくるが、珊瑚自身は涼しい顔で手を振り、「私のパートナーは別の場所にいるから。」と答えた。
「誰なのかしら?私の知っている人?」
興味が沸いたナイラーが続けざまに質問を続ける。
普段、男として過ごしているため、女性同士の会話に飢えているナイラーは、六花に対して遠慮がない。
ナイラーは恋バナがしたかったのだ。
「うーん・・・知っていると言えば知っているかな。
かなりの有名人だからね。」
「誰だれ?おねえさんに教えなさい!」
「仕方ないなー耳を貸して。」
ナイラーが耳を近づけるとひそひそと誰かを教えた。
「えええー!本当に!凄いじゃない!」
「声が大きいよ。誰にも言わないでね。」
「分っているわよ、これでも口は堅いのよ。」
久しぶりの女同志の秘密の共有にナイラーは心臓をドキドキさせた。
「まずは昨日話した通り、今日の客は将来の日本に仇をなすと予想された者ばかりである。
ここで本性を暴き出し、いずれは表舞台から退場させる。
怒らせろとは言わんが多少いじっても問題なかろう。」
四具祖が六花と財閥令嬢を見てニヤニヤと笑った。
「では今日の予定を伝える。
大見世での花魁道中は中止だ、座敷での客の接待は一切せんでよろしい。
踊りは令嬢と六花が交替で実施してほしい、できるか?」
「任せてください、お母さんから手ほどきは受けています。」
珊瑚が親指を突き立ててポーズを取った。
四具祖「午後の予定だが各自自由に動いて奴らを挑発してほしい。
なるべくペアを組んで動いたほうがよいな。
珊瑚ちゃんは単独で隠密行動をしてもらいたいがよいかな?」
珊瑚「いいよ面白そうだね、何をすればいいの?」
四具祖「小型カメラと超指向性収音マイクで、人目の付かん場所でこそこそとする輩を観察してほしい。」
珊瑚「了解!そうだ蒼あのベスト使えない?」
蒼「アレね、うってつけじゃない。昼にウチに帰ったら渡すよ。」
四具祖「なんじゃ何かあるのか?」
珊瑚「そうそう理事長、私達お昼どきに一度帰宅しますね。
狼牙とお母さんにお昼ご飯を届けに行くから。」
四具祖「どうした?病気でもらったのか?」
珊瑚「違います、実は絶賛妊活中なので狼牙には家事より種付け優先してもらってるんです。」
四具祖「薄葉さんは幽霊ではなかったか?妊娠できるのか?」
珊瑚「なんでも江戸時代に幽霊が出産した事例が幾つかあるそうです。」
四具祖「にわかに信じられないが本当だとしたら常識が変わってしまうな、よい研究材料になるやもしれん。儂にも何か協力させてもらえんか?」
珊瑚「それなら今日のお昼にうな重を用意してもらえませんか?
精がつく食材と言えばやっぱりウナギですよね!」
四具祖「了解だ、とびきりの国産ウナギを用意しよう。」
珊瑚「ありがとうございます!それで私達の分もお願いできますか?」
「勿論だ!ん?良い事を思いついたぞ。」
とても悪い顔になった四具祖はナイラーと一緒に厨房に向かった。
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開場の時間になり行列がゲートを潜り抜け始める。
その列に九条と娘の沙也加(17歳)、姪の美奈(23歳)とその兄の雄一郎(25歳)の姿が見える。
沙也加の弟の隆司が先日ひとり当選した為、替わりに雄一郎が参加していた。
(私、雄一郎が大嫌い!)
沙也加の心中は怒りと嫌悪がグルグルと渦巻いている。
小学生高学年になると、隙あらば触ろうとしたりスカートの中を覗き見しようとしてくる、セクハラの代名詞のようなゲス男が雄一郎であった。
(同じ空気を吸いたくない!もう帰りたい!)
そう思っても父親の前で悪態をつくこともできずにイライラしている。
今のところ美奈を挟んで一列に並んでいるので、目立った動きはないが場内に入り別行動になった時が危ない。
九条がゲートを潜ると「おめでとうございます!」とアナウンスが流れ、当選したことを告げる。
次に沙也加がゲートを潜ると「申し訳ございません。」とアナウンスが流れるが、内心でやった!と叫んでいた。
「何を喜んでいるの?バカじゃない。」
スキップでもしそうな勢いでエレベーターに向かう沙也加を、美奈が詰るが本人に聞こえていないらしく、あっという間に乗り込み行ってしまう。
美奈と雄一郎は共に当選して意気揚々と特設テント内に消えていった。
特設テント内はコミケ会場さながらの人で溢れかえっている。
空調がフル回転して冷房換気を行っているが空気が悪い。
風呂に入らない体臭被害はないが、男女香水の匂いが入り混じって悪臭に変わり眩暈が起きそうな空気であった。
9時になり大見世が開門すると人混みが前に動き始める。
通りの両脇の切見世の格子から女が手を伸ばして男を誘うが、男達の目的は大見世であり脇目も振らずに進んでいく。
美奈と雄一郎は流れに任せ大見世の門を潜り、大勢でごった返す玄関で案内を待った。
「ようこそお越し下さいました、私は当妓楼の主のひとりである忘八の伊集院と申します。本日はどうぞ心ゆくまで存分にお楽しみください。」
簡単に挨拶を終えると後をやり手達に任せてそそくさと退散してしまった。
(あれが伊集院派閥の長か。
あの人の愛人になれたら一番だけど無理そうね。
さて中でどうしようかしら逆ナンは悪手よね。)
男達の最優先目標は大財閥令嬢である。
その邪魔をしては疎ましがられることはあっても喜ばれることはない。
などと考えている最中、やり手と呼ばれる中年女性から声をかけられた。
「そこのあなた、遊女になってお客さんの接待をしてみませんか?」
人の良さそうなおばちゃんに見えるが、大財閥に仕える下々の者である。
何か下心を持って接してきたに違いない。
美奈は情報を引き出そうと考えた。
「私がホステスのような真似をして何か利益がありますの?」
「それは勿論でございます。
何より自然とお客様にお近づきになれますよ。
逆ナンパなんてことを致さなくても。」
心を読まれていたのかと思えるほど、的確に美奈の心理を当てたおばちゃんは、これ以上はないほどの笑顔を見せる。
美奈は腹立たしいと思いつつおばちゃんの提案にのることにした。
「では遊女に変身いたしましょう、こちらにどうぞ。」
バックステージへの廊下に連れていかれると、前後にやり手と若い女性の姿を見つける。
同じように勧誘された女性達であろう。
(何て浅ましくて恥知らずな女達だろう、そんなに男が欲しいのか。)
自分のことは天空の棚に上げての中傷である。
そして他の女性も同様のことを考えている、似た者同士であった。
化粧室に通されると既に3人の女性客が遊女コスプレの最中である。
美奈を含めて合計6人の遊女が座敷に案内された。
(何?!この安物の着物!ド派手なだけでペラペラな生地!安物の化粧品の匂いで頭が痛くなるわ!!)
美奈をはじめ他の女性も顔には出さないが、怒りの波動で空気がピリピリとしていた。
座敷の舞台側で2人の花魁が見事に舞い踊っているのが見える。
1人は素人目に見ても絢爛豪華な着物を纏い、もう1人も柄が控えめではあるが遜色ない着物を着用している。
一糸乱れぬ2人の舞は三味線の音色に合わせ、優雅に気品さえ感じさせ男達の視線を集めていた。
「何よ!あんな凄い着物があるじゃない!あんな小娘より私が着るべきよ!ねえ、あなたそう思わない!」
「そうね、あなたが着るより私が着る方がよりベターよね。」
「なんですって!」
「あら、真実を言っただけ。お気に召さないかしら?」
女は終始、美奈と目を合わせずいる。
やがて、踊りが終わり告げるベベン!の音で猛然と男達の元へ向かった。
「花魁康子、花魁萌葱にどうぞ盛大な拍手を!」
アナウンスがされると一部から盛大な拍手が起こる。
拍手の無いグループから9人の男達が花魁の元に駆け寄り、手を伸ばすも何の前触れもなくばたばたと倒れる。
花魁達は何事もなかったかのように幕裏に消えいき、入れ替わりに黒子が現れ、倒れた男達を部屋の隅にずさんに片づけていった。
幕間に遊女達は目ぼしい男にアプローチをかけるが、男達はたかってくる蝿を追い払うごとく邪険に扱う。
美奈も甘えた声でしなを作り男の腕に絡みつくが、振り払われると「消えろブス!」と罵声を浴びせられた。
(ちくしょう!いい気になりやがって!あんたなんかこの場でなければ視線にも入らないっちゅーの!)
ここに居る男達はそれなりの地位と金、権力を持った男達ばかりである為、うかつに罵声を浴びせる事ができない。
美奈をはじめ遊女達は男達の対応に怒り心頭に達していた。
「美奈、随分と苦戦しているようだな。」
「叔父様、見苦しい姿を見せて申し訳ありません。」
「なに、気にするな。今日の顔ぶれを見れば苦戦することは目に見えていたよ、どいつもこいつも癖のある奴らばかりだ。
それでだが、私の部下を紹介したいのだがどうだ?」
「是非、会わせてください!」
九条の部下ならばそれなりの金と権力を持っているはずと皮算用を巡らせ即断する。
すぐに男が呼ばれ姿を見た瞬間に美奈は絶句した。
痩身であり背が高い、180cmはあるだろうか。
色白の肌というよりも血の気の失せた肌色をしており、何よりも特徴的なのが蛇を連想させる容姿であった。
(無理無理無理!蛇は大嫌い!こっち見んな!体が竦む!)
逃げ出したくても体が動かない。
冷や汗が顔を伝って流れ落ちる。
足がガクガクと震え始めていた。
「初めまして美奈さん、私は飯郡 蛟と申します。
なんておいし、いや可愛らしい女性だ。
失礼ですが美奈さんの容姿は私の好みにぴったりです。
九条さん、私と美奈さんのお付き合いを是非とも許可をお願いします。」
「ほほお、そんなに気に入ったのか。
それは紹介した甲斐があったというものだ。
君ならば安心して姪を任せられる、よろしく頼むぞ。」
既に付き合いが決定したと言わんばかりに、九条と飯郡が握手を交わし美奈の個人情報を公開していた。
(ちょっと!私に確認なしなの!待って叔父様行かないで!)
声を出そうにも口が動かず、大笑いしながら去っていく九条を見ていることしかできなかった。
「さて美奈さん、九条さんのお許しがでました。
早速、親交を深めようではありませんか。
都合の良いことに個室があると聞いています。
まずは2人きりで親密なお話をいたしましょう。」
全く抵抗することができない美奈をヒョイと抱き上げると、ゆっくりと個室に向かった。




